ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

ノア・ゴードン【ペルシアの彼方へ 千年医師物語1】

2010-06-21 | 角川書店
 
中世イングランド、医者を目指した少年の一代記。

【ペルシアの彼方へ〈上〉 千年医師物語1】clickでAmazonへ。【ペルシアの彼方へ〈下〉 千年医師物語1】clickでAmazonへ。
 ペルシアの彼方へ 千年医師物語1

 著者:ノア・ゴードン
 発行:角川書店


実は、性懲りもなく在庫一掃月間中です。
基本的に、読み終えた本は部屋に長いこと置かない習慣だということを考えると、今ある本の半分はまだ読んでいない本もしくは読みかけの本ということになります。
嬉しいような、嬉しくないような…。
この本は長年読み止しにしておいた本のうちの1冊です。
…長いんですよ、これ。
この本自体は上下巻で終わるのですが、この後、主人公の子孫へと続くシリーズになっているので、ちょっと手を出しかねていたのです。
でも、例によって、読み始めればおもしろくて。

主人公の少年・ロブはロンドンの下町の大工の息子で、10歳足らずで母を亡くし、ついで父を亡くします。
幼い弟妹たちは散り散りに引き取られてゆき、ひとり残されたロブ。
あとは奴隷となって売られていくしかないかと思い始めていたところ、「床屋さん兼外科医」に弟子として引き取られることになります。
生まれ故郷のロンドンを離れ、イングランド中を旅して回る生活の始まり。
「床屋さん兼外科医」は孤児の悲しみも徒弟制度の苦しみも身をもって知っていて、親方としては悪くない人でした。
何より食べることが好きで、お料理上手。その点に関しては、ロブに悲しい思いをさせることがありません。
ロブもなかなか優秀で、客寄せのためのジャグリングや手品などの芸を覚え、成長するにつれて外科医としての仕事も覚えていきます。
そして、自分の不思議な能力に気がつくロブ。
それは、その手を取ると、もうすぐ死んでしまう病人がわかるという能力でした。
医術が魔術と混同され、狩りの対象になりうる時代のことです。この力は彼らの助けになりました。
けれども、ロブにとっては負担以外のなにものでもなく、彼は、この力も、大きく成長する体ももてあますようになります。

・・・このあたりで、まだ上巻の半ばです。
このあと、ロブはちょっとぐれたり、飲んだくれたりするのですが、自分に与えられた能力の貴重さと使命に目覚め、やがて本格的に医師を目指すことになります。
そして、それを果たすためにロブが選んだのは、突拍子もない方法でした。
ユダヤ人になりすまして、ペルシャを目指す!
彼は天与の才を活かす人生を歩むことができるのか、どうか。
島国イングランドから海を渡り、大陸を横切って砂漠の国へ、ロブの新しい旅が始まります。

意外にじっくり読まされてしまうのは、時代を描く上で大切な背景となる宗教がきちんと書かれていて、社会の仕組みと不可分の宗教との距離の取り方が馴染みやすい考え方だったからかもしれません。
イスラム教。
ユダヤ教。
キリスト教。
「天国に至る橋のどれを渡っても神様は気にしないと思う」と信仰する宗教を異にする者同士が互いを認め合ったり、宗教の違いからくる差別を無化して天分を伸ばしてくれる師に出会ったり。

そういう理解者が現れるロブは、とてもいい奴なのです。一生懸命で。
一途に医師を目指しているので、運の良さに恵まれてとんとん拍子なところがあっても許せてしまいます。
恵まれていることに胡坐をかいたりしないし、学ぶことにも働くことにも骨惜しみしない強さ、いっさい揺らぐことなく、ひとつの道に邁進する姿の力強さがとにかく印象的。
医師になるため、一度はあきらめた最愛の奥さんのおなかを撫でながら、この中には腸が渦を巻いていて…なんて想像して、それも愛しくなっているあたり、一直線の可笑しささえあります。
読後感も爽やか。
夏の読書感想文の題材にもってこいかも。

長いこと放っておいたわりにはまって読んでしまいました。
いずれ、続きも。

【シャーマンの教え〈上〉千年医師物語2】clickでAmazonへ。
 シャーマンの教え〈上〉千年医師物語2

 著者:ノア・ゴードン
 発行:角川書店
 Amazonで書評を読む


でも、すでに絶版。
続きが手軽に読めないほど、ほったらかしにしてはいけませんねぇ。
身にしみます。





書評ブログポータルへ。
【ほんぶろ】~本ブログのリンク集
にほんブログ村 本ブログへ



 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 北村薫【1950年のバックトス】 | トップ | ちくま文学の森 第11巻【機械... »

コメントを投稿

角川書店」カテゴリの最新記事