安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

猫と金魚

2013年02月10日 | 落語
猫と金魚

主人: 番頭さんや
番頭: はい
主人: はいではないよ。どうしたんだい、この金魚鉢ン中の金魚ォ。一番大きいやつが二匹なくなってますよ
番頭: いえ、あたしゃ食べませんよ
主人: 誰がおまえが食べたって、そう言ったよ。お隣の猫が食べたんだよ。ね? にわが続いてるでしょう? 
縁側へ上がって黙って食べるんだ。『あァたンとこの猫がうちの金魚を食べましたから、高い金魚ですから買って返してください』 ってことはできないんだ。お隣同士の付き合いだから
番頭: ははァ・・・・・してみれば、金魚を食べた犯人はお隣の猫とわかって
主人: 犯人なんて大袈裟なもんじゃァないよ
番頭: そうすと文句言えないんですな?してみれば今度はうちの金魚がお隣ィ行ってお隣の猫を食べちゃっても、お隣では文句言えません
主人: 馬鹿野郎。・・・・・猫は金魚を食べるけど、金魚が猫を食べるかよゥ、わからないやつだァ。どっか高い所へ上げておくれってあれほど言ってあるでしょう?
番頭: じゃァ向こうのお湯ゥ屋の煙突の上へあげときましょう
主人: なぜそう高いとこへあげるんだい?
番頭: だって猫がとどきません
主人: これはねェ、猫にとらせないために飼ってンじゃァないよ、あたしがこれを眺めて時々、頭が、こんがらかったときには、世の中の苦労をわすれているんだ。煙突の上へ上げりゃァねェ、ェエそれは猫はとりませんけど、あたしァ眺められませんよ
番頭: ンなことありません望遠鏡で見れば
主人: なぐるぞこの野郎。なぜそういうことを言う。おまえはなんでもあたしの言うことを 『はい』 といってきいたことがあるか。この前だってそうだ、雪の降ってるとき、『こう寒くっちゃァ風邪ェひきます』 って金魚ォお湯ンなかィ入れちまいやがった。
番頭: でもあれから、金魚が赤くなった
主人: 元々赤いんだよ。なんでも主人の命令どおりにしなさい。この金魚鉢を、湯殿の棚の上へ上げといてくれ
番頭: ・・・・・金魚鉢をですか?
主人: そうだよ
番頭: かしこまりました。・・・・・上げときました。・・・・・金魚鉢を上げましたけど、金魚ォどこへ置きましょう
主人: あれッ・・・・・・金魚鉢と言ったのは言葉のついでだよゥ、馬鹿野郎。金魚鉢を猫が食うかい。
金魚鉢なんかどうでもいいんだ、金魚ォあげるんだ
番頭: あ、そうですか、金魚ォ上げるんですかァ。ははァ・・・・・どうも。・・・・・じゃァ、上げときましたァ
主人: あげといたかい
番頭: あげときましたァ。すると金魚ォ上げましたけれど、金魚鉢どこへおくんです?
主人: なぜそう金魚と金魚鉢を別にするんだよゥ、おまいはァ
番頭: だって、金魚鉢はどうでもいい・・・・・
主人: どうでもいいったって金魚が死んじまうよ
番頭: 死んだって眺められます
主人: あたしは金魚のねェ、干物を見てよろこぶんじゃァないよ、馬鹿野郎。金魚鉢ン中へ水を入れて金魚ォ入れて棚へ上げるんだよ
番頭: どうも叱られてばかりいる・・・・・。さっそく上げときましたァ
主人: ご苦労さま
番頭: それにつきましてェ
主人: まだなんかあるのかい? おまいにそういうこと言われるとあたしゃァどきッとするよ
番頭: 実はその、棚へあげましたらァ、お隣の物干しとつながってるもんですから、猫が入ってまいりまして盛んに金魚鉢ンなかィ、手ェ突っ込んで食べてます
主人: あれッ・・・・・・猫がかい? しょうがない・・・・・もう、捕まいてェひっぱたいてやろう。衿ッ首とっつかまいてェ
番頭: はァ・・・・あの、旦那のォ・・・・衿ッ首を
主人: あたしの衿ッ首じゃァない。猫の衿ッ首だよゥ、やっとくれェ
番頭: あたしァだめだァ、あたしァねずみの年だから。もしも猫のそばィ寄れば、あたしゃ食べられる
主人: そんな馬鹿なやつがあつかい。・・・・・おい、誰かいないかい。あのねェ、横丁の鳶頭ンところィ行って寅さんにすぐ来てくださいって寅さんがいいよ、あァあ、寅さんは力はあるしねェ、なかなかどうして背中へ刺青(ホリモノ)は彫ってるしねェ、おけつィたくさん毛がはえてるしね。いざとなりゃァおけつ出しァ猫だってびっくりするから。
・・・・・あア、寅さん来たァ? 忙しいとこよく来てくれたァ
寅: どうもご無沙汰いたしました。旦那がお呼びだってェからこいつァ只事じゃァねえと思ってあたしァうちからね、すぐ歩いて来たン
主人: あったりまえだよゥ、横丁から自動車へ乗って来るかい。おまいさんにちょいと頼みたい
寅: いえようござんすとも。あたしァ旦那のためなら命を投げ出しますよ穏当に。旦那の頼みなら『たとえ火の中水の底』 ですよ、なんでもいってくださいな
主人: おまいさんに頼みたいのはねェ、これ、、人間てェものは好き嫌いがあるが、猫ォこわくないかい?
寅: 猫ォ? あの髭の生えて耳のある尻ッ尾のあるゥ、にゃァ・・・んねえのォ? いやだな、あたしァ寅ッってんですよ名前がァ。生まれたのァ寅年ですよゥ、猫なんかこわくないよあたしは。世の中にこわいものなんかひとつもない。えエェ、大蛇(オロチ)だろうが象だろうが、猪だろうがライオンだろうが。ただ怖いのはカカアと加藤清正
主人: くだらないことォ言うんじゃないよ。猫ォつかまいてもらいたいんだ
寅: よゥござんす。何十ッ匹ィ
主人: ァァ何十ッ匹ってあたしァ猫屋ァするんじゃァない。うちの金魚ォ食べてしょうがないんだ、お隣の猫が。湯殿ィ金魚鉢を持ってったらね、猫が入って来てねェ、さかんにィ食べてるんだよ。それからねェ、動物ってェものは一度叱りゃァねェもう来ないから、それでうちの番頭さんにねェ衿首とっ捕まいておケツをなぐってもらおうと思ったら、番頭さんいやだッて、ねずみの年だから。猫に食べられるってェの。おまえさんなら寅さんだから大丈夫だ。ちょいと捕まえてなぐっておくれ
寅: へえ、かしこまりました。それじゃァいずれ日を改めて
主人: 日を改めないで、今やっとくれよゥ
寅: 弱ったなァどうも
主人: 番頭さん、そこ、湯殿開けてやって、・・・・・ほゥらいるだろう?
寅: ア、なるほどォ。 猫! おれはこの横丁の寅って者だそォ。ちょいと口をきいてもこれだけの声を出す男だおれはァ。どうだァ・・・ァ
主人: お、大変なこえだなァ。番頭さん締めとかなきゃいけないよ、猫が飛び出すから。
ァァ・・・寅さんや、何かぶつけちゃァいけませんよ。あの猫が驚いてそばへ来ないから。
・・・・・そう追っかけまわしちゃ困るなァ。あれッ。棚ァ壊しちゃったらしいな寅さん。なんだいあの騒ぎは。
金魚鉢ひっくら返しちゃったな? 猫があばれないで寅があばれてるようなもんだよ。
ねえ、寅さん静かにしなくっちゃいけませ・・・・・、あらッ、番頭さん、・・・・・いま、きゃァ・・ってったの、あれ猫の声じゃァないよゥ。寅さんの声だよ。
・・・・いやに静かンなっちゃったよ。・・・・心配だから開けて見てごらん
番頭: あ、旦那大変です。寅さんびしょ濡れンなってここィのびちゃってます。ゥぷッ、猫は棚でねェ、あのォ・・・
顔洗ってますよ。あれあれ、金魚はみんな跳ねてますし、寅さんびしょびしょです
主人: しょうがない寅さんだなァ。 寅さんや、しっかりしとくれよ。 どうした。 大丈夫か
寅: うァァ、うァ・・・ァ、旦那ですか。おなつかしや
主人: おなつかしやじゃァない。どうした
寅: どうしたって、猫にヘソォ食いつかれて、心臓が飛び出しちゃった、これ心臓のかけらです
主人: 何ォ言ってンだい、それァ金魚だァ
寅: あァ・・・金魚カァ。どうも変な心臓だと思ったァ
主人: 早く猫ォ捕まいてなぐってくれ
寅: ァァあたしゃァもう猫ォこわいからいやだ
主人: こわいからって、おまえさん寅さんじゃァないか
寅: ェ、寅ですが、今はこのとおり濡れねずみになりました
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