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マジョルカピンク

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2011-06-08 18:33:15 | 映画
若いジャーナリストと革命戦士の邂逅と立場を超えた友情の物語…かと思いきや、政治の季節に翻弄され、道を見失った青年の挫折のお話でしたね。
ほろ苦いというより、苦さそのもの。むず痒くも心がざわざわし、見る人に軽い爪痕を残すような作品でした。

安田講堂が陥落し学生運動も行き詰まりを見せていたこの時代の、べっとりと纏わりつくような重く陰鬱な空気感が良く出ていまして、ディティールにこだわり、70年代が見事に再現されていたと思います。
上映時間が長く冗長に感じられたとの感想がありましたが、私はそうは思わなく、最初から最後まで張り詰めた緊張感があり作品に引き込まれました。

役者さんの演技もみなさん素晴らしかった。出演者ほぼ全員がこの時代の人に見えました。このあたりは役者さんの力量もさることながら、監督の才能でしょう。
沢田役の妻夫木さんの演技は主人公の様々揺れる心情、エリート意識、学生たちへの共感、若さゆえの正義感、記者としての矜持、スクープを獲りたいという野心・功名心、焦り、興奮、猜疑心、敗北感…それらが見事に表現されていて。本当に繊細なお芝居が出来る方だなあと感心してしまいました。一方の松山さんもさすがにこういう特異なキャラを演じさせると抜群に上手く、異様な存在感がありました。役者としての好感度が落ちるのも厭わぬ嫌な男ぶりは一見の価値有り。

ただこの梅山の人物像が謎で。はたしてこういう描き方はどうしたものかなあと思ったのが正直な感想です。
狡猾で厭らしく計算高く、プライドばかり高くかといって確固たる信条もなく、言うことは詭弁ばかり。行動もそうだけど見た目もひどい。女性の視点から見ると生理的な嫌悪感を催す男です。
これは本人の役作りでこうなったのか、監督の演出意図に沿った結果なのか聞いてみたいところ。他の役者さんが梅山を演じたらどうだったのかも興味あります。
大事な局面でミートソース食べながら漫画読んで笑ったり、沢田に犯行を伝えるときにムシャムシャ寿司?をむさぼり食ってたり、身体が多少デブっていたこともあって「何なのこの豚野郎は」と思ってしまった(笑)とにかくキモい!(笑・ある意味褒めてます)付き合っている女性に金を出させようとするシーンも最悪で、細かいところを指摘すると枚挙に暇がありませんが観客がまったく共感できないキャラ。
沢田の上司などは「ニセモノ」とすぐに見抜いているわけで、沢田が騙されてしまったのは若さゆえの浅はかさなのか。でも少人数とはいえ彼を慕う同士もいたわけだから、多少人間的な魅力やカリスマ性があったのでは。映画では全くそういう部分が無く、梅山のシーンは彼がどんなにダメな人間だったかというエピソードばかりだったのが、ちょっともやもやしたというか。確かに取り返しのつかないことをした犯罪者ですし運動家を美化する必要もないけれど、この人物の気味の悪さだけが印象に残ってしまって、結局観客も沢田と一緒に「何で信じちゃったの」となってしまうので。まあそのやりきれなさこそがテーマなのかもしれませんが。

もうひとつもやっとしたのが沢田の立場ですねー。
ジャーナリストでありながら学生運動の熱気に当てられ、全共闘より少し上の世代でその渦の中に入りきれなかった忸怩たる思いを抱え、本物の革命戦士たちにシンパシーを感じている。
梅山たちがまさに「事を起こそうとする」直前、沢田は今度こそ直接行動に出ようとする彼を前に明らかに興奮している。何か大きな時代のうねりの中に自分がいるような「錯覚」で判断力を失ってのことだと思うけれど、直接犯行に関わったわけではないにしろ、どこか彼らの行動を煽り、後押ししているような。結果、事件に加担してしまったような後味の悪さがあるんだよね。
これは実際にあった事件で、何の罪もない自衛隊員が1名亡くなっており、ラストでの沢田の涙は事故憐憫とも自責の念ともとれるような感じでしたけども。これは原作者であり沢田のモデルになっている川本さん自身の大きな十字架となっているだろうなあと思います。
この時代全共闘に関わった人々は多かれ少なかれこういう経験をしているのかな?だから皆さんあまり語りたがらないのかもしれませんね。

このように多少気になるところはあったものの全体的にはとても良かった。
個人的には感銘を受けた「連合赤軍-あさま山荘への道程」と双璧をなすかと思います。
ただ今の若い人がこの作品を楽しむためにはハードルが高いような気もします。予備知識があったほうがいいのかな。
この時代の学園紛争の大雑把な歴史だけでも掴んでおくと面白いと思います。
自分としては物語に登場する「週間東都」(週間朝日ですね)のカバーモデルの女性はこの事件の3年後電車に身を投げて自殺した、というエピソードを事前に知っていたので、より作品を深く知る手がかりになったかな。この若い女性はこんな時代にありながら実に聡明で、流されることない強い自意識を感じさせます。個人的には「二十歳の原点」を連想させました。演じているのが最近色んな作品で見かける忽那汐里ちゃん。「半分の月~」も素晴らしかったですが、この役もすごく良かった。また、梅山の彼女で情にほだされて、疑問を持ちながらも流されていく女性を石橋杏奈ちゃんが好演しており、この2人の女性の対比も興味深かったです。 

最後に、邦画界の二大スターを揃え、今最も注目を集める新進気鋭の山下監督が撮った作品にもかかわらず、興行成績が全然奮わないらしいと聞きました。なんでだろう?社会派の難しい作品と思われているのかそれとも全共闘じたい一般の人からは敬遠されがちな題材なのか。よくわかりません。
全共闘の時代を舞台に描いた作品は少なく、この時代のことはまだまだ語られていない物語がたくさんあるように思います。もっともっと製作されて若い人も見に行くような流れになるといいのにと思います。


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