アドバンスカレッジ2005~目指せ!憧れのスポーツビジネス界~

スポーツビジネス&スポーツマネジメントを学ぶ学生に贈る。

プロ野球選手会が2014年度の年俸調査結果を発表

2014年04月28日 | Weblog

プロ野球選手会が今年度の年俸調査結果を発表しました。

こちら(スポニチアネックス)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

報道にある通り、この形式の調査が始まった昭和62年以降で初の3年連続ダウン

データ提供元のプロ野球選手会のホームページから過去2年分の金額を調べたところ、

2012年は3,812万円、2013年が3,733万円。

で、今回の報道にあるように2014年が3,678万円ということです。
(アベノミクス効果で賃上げが進む日本社会にあってプロ野球界は逆の結果となった訳ですね)

 

この背景には、

①スター選手の海外移籍

②過去に高額年俸をもらっていたベテラン選手の低価格化、

③中日落合GMの厳冬契約更改などがあると考えられますが、

重要なのはより長いスパンで傾向を読み取る事

 

そこで、プロ野球選手会が公開している調査を開始してからのデータをグラフに落とし込んでみました(下の図を参照)。



そうすると、

①調査が始まった1980年から2004年に至るまで金額は順調に増加

②2011年に平均選手年俸の過去最高を記録(3,931万円)

③過去10年間は平均選手年俸が増減を繰り返している

という事が読み取れます。


一方、日本人選手の移籍も多く所属するMLBは、

過去10年で比較すると日本の傾向とは大きく異なる事がわかります。

前提として、MLB選手の平均選手年俸は、2013年で339万ドル。

1ドル100円として3億3900万円と、日本の約10倍にあたります。

 

そして、この金額は過去10年間で100万ドルほどアップしています。

つまり、10年で選手平均年俸が1億円上昇した、ということです。

 

「この違いを生む仕組みの違いは一体どういうものなのか?」

リーグビジネス、球団ビジネス、契約交渉、フリーエージェント、放映権ビジネス、

野球を取り巻く文化や歴史の相違などなど、いくつもの角度から分析する事が可能です。

 

10年前と異なり、わが国でもたくさんの資料が手に入るようになりました。

ネットを活用すれば、様々な情報、データが入手でき、分析が可能になります。

スポーツビジネスを学ぶ学生さん達は、是非こうした疑問を自分なりに解消したり、

新たな問いに出会ったりできるようになってほしいと思います。

 


改革が進むNPB:球団の個別最適化からリーグ全体の協調的発展へ

2014年04月25日 | Weblog

本日午後のスポーツビジネス関連報道で大きな話題になっているのが

NPBによる「侍ジャパン」を核とした事業会社の設立。

この報道、日本のプロ野球界のあり方を大きく変える可能性をプンプン感じさせるものです。

こちら(日本経済新聞)

△▼△▼

侍ジャパン関連以外では、これまで残念ながらNPBのあり方に関しては期待感が膨らむものが少なかったように感じます。

例えば、

・球界再編問題以降遅々として進まぬ根本的な構造改革
 ※パリーグマーケティングの動きは別として

・3.11後の対応のまずさ

・ポスティング制度を巡るゴタゴタ

・統一球問題

などが代表的なものです。

△▼△▼

早い話がMLBの台頭を横目にしながらも、リーグ全体の発展に向けた改革や、その音頭を取るリーダーの不在、

統一球問題に代表されるガバナンスの不透明さに触れるたびにスポーツビジネス関係者は「ガックリ」し続けてきた訳です。

そして、パリーグマーケティングという希望の光が見えつつも、それがNPB全体に広がらない「もどかしさ」も抱き続けてきました。

「もっとさあ、リーグが音頭を取ってさ、各球団が協力し合うようにすればいいのに!」

という声があちこちから聞こえる状態だった訳です(今もそうですが。。。)。

△▼△▼

そんな中、「侍ジャパン」を核にして、いよいよ12球団が合同で収益会社を作るとの報道は、

「いよいよきたか!」

という期待を一気に高めてくれた訳です。

 

もちろん、この会社ができたからといって、一気にプロ野球界が変わるとは思いません。
(そんなに簡単だったらもう既に変わっているはずなので。。。)

しかし、この報道、具体的には下記のようなNPBにおける仕組みの変化が期待できます。

 ①各球団の利益ではなく、球界全体の発展に向けた意思統一と組織の誕生
  ⇒球界全体の方向性の統一が可能に

 ②収益会社(つまり12球団)をまとめるリーダーシップを持ったトップの誕生

 ③巨額の収益分配ができれば、各球団よりも統一組織の力の方が大きくなる

つまり、「球団主権」から「リーグ主権」への移行が進みやすくなる事が期待される訳です。

△▼△▼

まあ、そこまで行くには野球協約の改訂とか、NPBの定款変更とか、かなり根本的な土台を再編する必要があるため

まだまだ時間がかかるでしょう。

でも、着実に「大きな一歩」を踏み出した事に間違いはありません。

今回の決定が日本プロ野球の未来を良い方向へと導くためのものになることを切に願っています。

ーーーー

追伸:そもそも、「NPBはなぜ球団主権になり、コミッショナーのリーダーシップが利かない組織になったのか?」という疑問については

   この組織の成り立ちについて書かれた拙稿をお読み下さい。

   ⇒こちら(福田拓哉(2011)「わが国のプロ野球におけるマネジメントの特徴とその成立要因の研究」立命館経営学第49巻6号, pp.135-159, ※PDF)

 

   また、「じゃあNPBとJリーグだったらマネジメントの仕方がどう違うの?」という疑問については

   これまた拙稿で恐縮ですが、下記論文をお読み下さい。

   ⇒こちら(福田拓哉(2013)「Jリーグのマネジメントに関する研究」立命館経営学第51巻6号, pp.115-134, ※PDF)

 


好調の時こそ手堅い投資をーセリエAのレベル低下発言記事からー

2014年04月23日 | 本の紹介

イタリアオリンピック委員会(CONI)のマラゴー会長がセリエAのレベルが低下していると指摘しました。

→記事はこちらから(フットボールチャンネル)

ユーべと今季大躍進したローマは別としながらも、リーグの全体的な衰退に警鐘を鳴らしています。

◇◆◇◆

その原因としているのが、過去リーグ全体が好調だった時のお金の使い方

マラゴー会長は、

「好調だったときに、さほどでもない選手たちのサラリーにお金を使ったりするのではなく、いくらかの資金をローンに回して、スタジアムをつくり直すべきだったんだ」

と指摘しています。

つまり、目先の成果ばかりを求めて短期的な投資(選手獲得)に注力するのではなく、

スタジアムに代表される中長期的な成長を担保するための土台にお金を費やすべきだったと。

◇◆◇◆

この背景には、スタジアムに代表されるインフラ整備に投資したイングランドとドイツの成功があるように思います。

フーリガン問題に悩まされた欧州サッカー界で、イングランドとドイツはいち早く「清潔で安全なスタジアム作り」に着手しました。
(イングランドの場合は、ヒルズボロの悲劇を受けたテイラーレポートの存在が大きいですね)

直後に巻き起こった有料放送の台頭による放映権収入の拡大もあいまって、両リーグは「資金」と「安全性」を手に入れた訳です。

これによって、世界有数の選手達がしのぎを削る世界トップレベルの試合を「安全で快適な環境」で観れるようになりました。

スタジアムにはサポーターが溢れかえり、それによってチケット収入は拡大しました。

また、世界各地で放送される事で放映権収入は更に拡大。

あわせてスポンサー価値も高まり、収入もうなぎ上りに、という好循環が生まれました。

 

一方のイタリアでは、スタジアムへの投資が進まず、昔のまま不潔で危険な空間が維持されました。

これによってサポーターの足はスタジアムから遠のき、クラブの収入のみならず、

ガラガラのスタジアムの影響で放送コンテンツとしての価値も低下し、それによってスポンサー収入も落ち込み・・・、という悪循環に陥ったと指摘されています。

※世界のサッカーリーグにおける観客動員数の推移については、こちらのサイトが詳しいです。

各国サッカーリーグ観客動員数の推移(ULTRAZONE)


◇◆◇◆

ちなみに、セリエAにおけるクラブ経営の悪化とスタジアムとの関連性に関してですが、

宮崎隆司さんのコラムが非常に分かりやすく勉強になりますのでご参照下さい。

こちら(スポナビ)

 

なお、下記の『サッカー批評』でも、ドイツ・イングランドとイタリアのスタジアム投資や観戦の安全性対策の相違について触れてます。

こちらもオススメです。

季刊サッカー批評 issue 40 欧州サッカーを疑え! (双葉社スーパームック)
 
双葉社

◇◆◇◆

こうした欧州サッカー界の「お金の使い方とその効果」に関する傾向を掴んでおくと、

今回のマラゴー会長の指摘には納得です。

そして、セリエAではすでに対応が始まりつつあります。

ご存知の方も多いと思いますが、今回大躍進を遂げたローマが10億ユーロをかけて自前の新スタジアムを建設する事が報道されています。

こちら(goal.com)

こうした動きが成功し、他のクラブにも伝播すればセリエAが再び世界の頂点として君臨する時が来るかもしれません。

そして、日本もこのような動きから多くを学び、Jリーグの発展につなげていきたいですね。


モイーズ監督退団にみるサッカー界のビジネスと競技成績との関係

2014年04月22日 | 本の紹介

マンチェスターユナイテッドのモイーズ監督の退団がクラブのHPを通じて発表されました。
こちら
今回はこのニュースから、サッカークラブにおけるビジネスと競技成績との関係について考えてみたいと思います。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「ジャイアントキリング」という用語に代表されるように、プロスポーツの醍醐味の一つは小が大を喰らう番狂わせがあります。
一般的にはカップ戦に代表される一発勝負のトーナメント戦で多くみられますね。
リーグ戦においても、この2年間のサンフレッチェ広島のように、
比較的経営規模が大きくないクラブが頂点に立つ事も。

一方で、2年前のガンバ大阪のように、
安定した資金力を保ちつつもJ2降格の憂き目にあう事例もあります。

このような事例は、「クラブのビジネス規模と競技成績との間には関連が無いのでは!?」と思わせます。
事実、Jリーグの公式資料でも、「J1では『収入が大きいほど順位が上になる』とまでは言い切れない」(JリーグNEWS Vol.207, p.6)と報告されています。
ーーーーーーーー

しかし、この関係を単年度ではなく、中長期的にみるとどうでしょう。
(企業経営と同じように、長く成功を維持する、ということがサッカークラブでも重要です。)

このような分析は、イングランドで2000年前後から行なわれてきました。
代表的な研究はシマンスキーとクーパーズによる下記のものです。

Winners and Losers
 
Penguin Books Ltd

これによると、イングランドのサッカーリーグ(プレミアだけでなく下部リーグも含む)における
クラブの収入とリーグ戦成績との相関関係は極めて強く、
1987ー96年の期間での決定計数(R二乗)は0.87にものぼっています。

さらにいうと、収入の多いクラブほど選手年俸に多く費やせますよね。
そのため、選手年俸とリーグ戦成績の中長期的な関係の方がより密接なものになります。
(そのためオイルマネーがサッカー界に流入し、短期的にクラブを強化する動きが流行しました。
 採算度外視なため、クラブ経営は赤字に。そこでできたのがファイナンシャル・フェアプレー制度ですね)

この研究を受け継ぎ、現代的に、より分かりやすく書かれたものがこちら。
きっと読まれた方も多いと思います。

「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理
 
日本放送出版協会

 

これらの手法を参考に、私もJリーグにおける2005年から2012年までの選手・スタッフ人件費とリーグ戦成績との関係を調べてみました。
その結果、イングランド同様、両者の関係は深く、決定計数(R二乗値)は0.85に。

つまり、長い目で見れば、クラブのリーグ戦成績とクラブの収入との間には強い関係がみてとれるのです。

ーーーーーーーーーー
そこで話をマンチェスターユナイテッドに戻すと、
クラブの2012年シーズンの収入は世界3位の3億9600万ユーロ(Deloitte社Football Money League 2013より)。
1ユーロ=140円として、日本円で約554億円!
イングランド勢2位のチェルシーは3億2300万ユーロ(全体5位)、3位のアーセナルは2億9000万ユーロ(全体6位)ですから、
マンUが如何に収入面で有利だったか理解できます。

※ただし、注意しなければならないのは、これが収入であり、選手年俸総額ではない事。
  ユナイテッドは収入の割に選手人件費が抑えられている事でも知られています。
  そして、グレーザー氏によるクラブ買収時に、クラブが莫大な負債をおった事も。

こうした資金力を背景に、シーズン途中にはマタ獲得に代表される補強を図りました。
しかし、結果は得られず、今回の監督退団(まあ、事実上の解任でしょう)となった次第です。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

今回の件で改めて考えさせられたのが、
チームの成功を担保するための「指導力」です。

単にお金だけをかけて有力選手を獲得しても、
それを束ね、目標に向かってコミットさせることができる協力なリーダーがいなければ
成功は約束されないという事です。

もっといえば、長期にわたって成功を収めているクラブの監督は、
日々の細かな選手の言動に目を配り、様々な手を打ちまくって選手のコミットメントを引き出し、
その結果「なんとかして」成功を紡いでいるのかもしれません。

端的に言えば、リーダーによる超短期的成果の積み上げが中長期的成功の源泉である(かもしれない)ということです。
(これには他の要素、例えば現場とフロントとの関係、選手と監督との関係、クラブとスポンサーとの関係、サポーターと監督との関係などが
絡みますので一概には言えませんが。)
ーーーーーーーーーー

こう考えると、長期的な成功を収めている企業は「持続可能な競争優位を有しているのではなく」、
「一時的な競争優位をくさりのようにつないで、結果として長期的に高い業績を維持しているようにみえる」という
最近の経営学の知見に非常に近しいように感じます(詳細は入山章栄氏による下記の著作をご覧下さい)。

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア
 
英治出版


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
また、最近では野球に代表されるセイバーメトリクスのように、
お金がないクラブでも中長期的に上位の成績を収める手法が研究されています。

最近では、『季刊サッカー批評』でクラブのお金と成績との関係に関する特集が組まれました。
私も非常に興味深く読ませてもらいました。

サッカー批評(67) (双葉社スーパームック)
クリエーター情報なし
双葉社

ーーーーーーーーー

このように、クラブの成績とお金との関係には
いろんなものの見方があります。

中長期的にみるのか、それとも短期でみるのか。
現場サイドからみるのか、ビジネスサイドからみるのか、
といったように様々な立場や時間の波があります。

問題は、それぞれの観点にたった場合の理屈を理解しつつ、
自らに課された目の前の課題に真摯に取り組む事だと思います。

そして、それらが噛み合った時に、
チームの成績も、企業としての成果も出るのでしょう。
そのためには、様々な歯車を絶妙に調整するマネジャーが必要です。
そんな名マネジャーが多数日本からも輩出され、
我が国のスポーツマネジメントのレベルが一段あがる事を期待しています。

そのために私も頑張らねば。。。