ADONISの手記

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トレーズ・クシュリナーダ その二

2015年11月15日 23時25分06秒 | 小説

 トレーズ・クシュリナーダ。最もエレガントなトリッパーと呼ばれる彼は、現在は監察軍の総司令を務めていた。もちろん最初からそうであったワケではない。

 そもそもトレーズは、他のトリッパー達とは一線をかくす存在であった。通常、下位世界の原作キャラにトリップした転生者は、原作から大きく乖離していく。これは原作キャラとは別人なのだから当たり前なのだが、彼は良しも悪しも原作通りなのだ。原作キャラそのままのトリッパー、それがトレーズだ。

 トレーズが前世のことを知ってしばらくしてから、トレーズは監察軍と接触した。そして自らの世界の流れを原作通りに進めた後で、彼は死亡を装い監察軍のメンバーとなった。

 監察軍と関わりを持つトリッパーは、監察軍から支援を受けているだけの者と、監察軍で働いている者に分けられ、トレーズは最初は前者で後に後者となった。

 当初のトレーズは、監察軍の広告塔として活躍した。当時の監察軍はブリタニア帝国との関係強化に苦心していた。確かに皇帝シドゥリの支持を受けていたとはいえ、それだけでは万全とは言い難かった。帝国において強大な権力を持つ貴族たちの理解と支持が欲しかったのだ。

 身も蓋もない言い方をすれば、監察軍総司令官シリウスは、トレーズに貴族(貴婦人)たちのご機嫌をとってもらうつもりだった。その為、トレーズはブリタニア帝国で貴族の主催するパーティーに積極的に参加した。その結果はシリウスの予想以上だった。

 ブリタニア帝国の上層部、つまり皇族と貴族は全員女性である。つまり政治は女性上位となってしまうし、どうしても女性が有利な国家になりがちだ。その辺りはシドゥリが上手く調整して、過度に女性上位社会にならないようにしていたが、それでも貴族社会は女性社会だ。もちろん貴族に仕える執事など男性もいるが、彼等はあくまで貴族の従者でしかない。

 そもそもブリタニアにおいて、貴族は他の女性とは次元が違う存在だ。人の上に立つ、人を超えた超人として求められた彼女たち。不老長寿にして、人を超越した強大な能力を持ち、強大な特権を有する。宗教的にも始祖シドゥリと多くの共通点を持つ聖女として敬われている存在。それだけに対等に接する男性というのは皆無に近い。

 そんな中でトレーズの異質さは際立っていた。見事な金髪に整った容姿、全身から感じられる気品。そして並はずれて優れた頭脳に、人心掌握術の巧みさ。

 他の男性と違い、貴族に対して妙に卑屈になるワケでもなく、貴族の貴婦人に対して紳士的に接するトレーズ。それが貴婦人に大いに人気となった。

 それに伴い、監察軍におけるトレーズの地位は大きく高まり、あっという間に監察軍副司令官という地位についた。これは総司令官に次ぐ監察軍のナンバー2の地位だ。トレーズはそれだけ優れた人物だった。最もシリウスは、それを超える無敵超人であったので、さすがのトレーズでもシリウスを超える事はなかった。

 そんな状況を一変させたのが、第一次ベヅァー戦争だ。

 あの戦争で監察軍本部のコロニー群は全滅。総司令官シリウスを初めとした監察軍上層部たちも、トレーズ以外は軒並み死亡した。

 特に痛手だったのが、監察軍が把握していたトリッパーの大半が死亡していたことだった。生き残った彼等は激減したトリッパーたちを束ねて、監察軍を再建しなければならない。

 しかも、元々トリッパーは個人戦闘能力が高い者は多かったが、組織運営に長けた者は意外に少なかった。彼らは転生特典でチート能力を得ていても、組織を切り盛りすることはできない。むしろ下手に能力を持つだけに中二病を煩っている者も多く、組織運営以前に大人になりましょう、と評価されそうなトリッパーも多かった。

 その点、シリウスは太陽を克服したヴァンパイアというチート種族であった為なのか、異常なまでに多才で組織運営も上手くこなしていた。そんなシリウスと彼を支えていた優秀な幹部達の死亡は痛手だった。

 この状況に置いて監察軍を率いることが出きるものはトレーズしかいない。トレーズが監察軍の総司令官に就任したのは当然の流れだった。

 

 そして、トレーズは現在ブリタニア帝国皇帝シドゥリと紅茶を飲んでいた。

 シドゥリの見た目は見目麗しい美少女であるが、その前世は男性でありTS転生者であった。外見はともかく性癖は男性であり、二人の少女を妻に娶り、多くの貴族を愛人にしていた。最もTS転生者による同性愛は、トリッパーの間では珍しいことではないから、その実状を知るトレーズからすれば、シドゥリを淑女として扱うべきかどうか、非常に判断に困る人物だった。

「監察軍の再建。見事だったわ」

 シドゥリはトレーズを称賛する。確かにあの状況で監察軍をああまでスムーズに再建したのは、トレーズの手腕が大きい。

「いえ、陛下の助けがあればこそです」

 シドゥリに対して礼をもって対応するトレーズ。同じトリッパーといえど、シドゥリは下位世界でも並ぶ者がないほどの超大国の国家元首なのだ。かつてはロームフェラ財団に属し、貴族として活躍したトレーズといえど、シドゥリの権勢の前では霞むだろう。

「これで監察軍もベヅァー戦争以前の水準まで回復しているし、以前の様に下位世界の調査を進められるわ」
「ですが、組織の再建はともかく、肝心のトリッパーを集めるのはなかなか進んでいないようです」
「それも死神と姫神みこがトリッパーを用意しているそうだから、すぐに補充されるわ」
「死神はわかりますが、彼女もトリッパーを作っているのですか?」
「ええ、といっても彼女はトリッパーに厳しいようですが……」

 シドゥリが、みこがトリッパー達に与えている試練を話す。さすがにみこが彼等を死亡フラグ満載な下位世界にトリップさせて意図的に死に追いやったことにはトレーズも眉を顰める。

 監察軍ではトリッパー同士の抗争は禁止させていた。そもそも数多の下位世界の為に、トリッパー達が協力するのが監察軍の理念なのだ。

 みこは以前も、あるトリッパーを直接殺している。それは、そのトリッパーに大きな非があり、端から見ると殺されても仕方ないとは思うが、あまり感心できる事でなかった。

 当然、その事を死神に注意されたみこは、それ以降自分が直接手を下すのは控えたようだが、これは少しやりすぎだろう。

「……気持ちは分からないでもないが、それをすると後々問題になるのでは?」

 トレーズもバカなトリッパーが問題を起こす事があるのを知っているので、問題外な者を省きたいという考えは分かる。

 しかし、そんなことをすると、今後の人間関係で大きな問題が起こるのではないか、と懸念していた。

 今のところ、みこに敵対的なトリッパーは少ないが、彼女に恨みを持つトリッパーが増大すると、トリッパー同士の抗争という事態になりかねないだろう。

「第一、そんな選別を一々やっているほど余裕はない」

 当然ながら、そんなことをするとトリッパーを揃える手間がかかりすぎるのだ。数が必要な今は、質の低下にはある程度目をつぶっていたい。

「でも私達から要求するわけにはいかないわ。それにどうせ問題があるなら、死神がみこに指摘するだろうから、無視して良いと思うわ」
「……そうですね」

 シドゥリの言葉にトレーズは頷く。

「トリッパーは、そのうち揃うので準備を怠りないようにね」
「わかりました。下位世界の安定の為にも全力を尽くしましょう」

 トレーズが監察軍に入ることにしたのは、監察軍が下位世界を守るために必要だと思ったからだ。

 トレーズのいた『新機動戦記ガンダムW』の下位世界だけでなく、多くの下位世界は破壊神ベヅァーの脅威を受けている。それを守るにはトリッパーは必要だし、彼等を支援する監察軍という組織も必要なのだ。その為、下位世界を守るためにトレーズは監察軍を維持するしかなかった。

 当初のトレーズは、元の世界だけを考えており、その為に原作通りに死んでもいいと思っていたが、それを曲げてあえて生き残る道を選んだ。

 元来、人の戦いのあるべき姿を求めるトレーズにとって、コピーロボットを戦わせて本人は戦わないというやり方は美学に反する行動だが、下位世界の為にあえて美学を曲げた。トリッパーである彼は安易に死を選べなかったからだ。

 トレーズはシドゥリと話を進める。最初のトリッパーの事から、貴族の舞踏会やパーティーの話になる。

「そう、貴方も人気者ね」

 シドゥリはトレーズの社交界での人気ぶりを指摘する。その表情は楽しげだった。

 元々、監察軍という仕組みは死神が構想したものであるが、骨組みであるそれを肉付けして、実際に設立させたのはシドゥリだ。それだけに監察軍の必要性は感じている。そんなシドゥリから見て、トレーズが貴族たちと良い関係を築けているのは好都合だった。

 そしてお茶会が終わり、シドゥリがその場から退出した。

 

レディ・アンside

 トレーズ様に従って、この監察軍に所属するようになって既に百年以上たった。私はトレーズ様のために動く。その為にここにいる。ただレディはいまいち納得できていない所があった。

 下位世界を守る為にも監察軍という組織が必要なのは分かる。その為トレーズ様が尽力しているというのも。

 しかし、あのシドゥリという小娘が、いや小娘なのは外見だけで、実際には2000歳以上の高齢者なのだが…。とにかく、シドゥリよりも地位が低いというのが納得できない。

 監察軍という組織をブリタニア帝国から独立させて、独自勢力として確立できないか、とトレーズ様に提案したこともあるが、トレーズ様はそれには反対のようだ。そんなことをすれば、確実にブリタニア帝国と衝突するし、他のトリッパーたちの理解を得ることはできない。おまけに資金調達ができなくなると様々な問題があるのだ。

 それに独立の必要性がないというのが大きいだろう。現状のままで何か問題が起きているワケではない。むしろ帝国から様々な支援を受けているのだ。代償として情報と技術を提供しているが。

 トレーズ様は余計な問題を起こすぐらいなら、ブリタニア帝国と上手く付き合っていくべきだと考えられているのだ。仕方がない。無理をするよりも、問題を一つ一つ解決することに尽力するしかないだろう。

 

解説

■トレーズ・クシュリナーダ
『新機動戦記ガンダムW』の世界にトリップした転生型トリッパー。転生特典として、ランスシリーズの技能レベルである<剣戦闘LV2><説得LV2><経営LV2>を貰っている。通常のトリッパーと違って前世の人格を保持しておらず、トリッパーの知識と転生特典を持っている事を除けば原作のトレーズのままである。転生先の世界は原作通りに進めることでより良い世界にして、監察軍に本格的に参加するようになった。トレーズは、監察軍が下位世界全体に果たす重要な役割を認識しており、監察軍を導く為に活動している。

 


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