取得時効の機能 【取得時効の紛争類型】
1.無権利者からの譲受人占有型
無権利者Aから売買など所有権移転を目的とする法律行為に基づき引渡し受け,占有継続するBが時効取得を主張するパターン
2.譲渡有効譲受人登記未了型
権利者Aから売買など所有権移転を目的とする法律行為により有効に譲受けて占有する者(転得者含む)Bが,譲渡人Aに対してまたはAからの第二譲受人Cに対して時効取得を主張するパターン。いわゆる「自己の所有物の時効取得」パターンである。
(1) 対譲渡人事例
代金支払義務の回避の機能や,中間者(前主)を無視して前々主Aから直接移転登記を得る(中間省略登記を可能にする)という機能を果たす。しかし,このような機能を取得時効制度に認めるべきなのか異論のあるところでもある。
(2) 対第二譲受人事例
「取得時効と登記」として論じられてきたカテゴリー
3.譲渡無効型
売買などの所有権移転を目的とする法律行為により譲受人Bに引き渡されたが,無効,取消し,無権代理,解除などが原因で,所有権が譲渡人(権利者)AからBへ移転しないパターン。無効等の瑕疵を補完し取引の安全を保護する機能を有する。
4.譲渡不存在型
占有者Bの占有取得を原因として,売買などAからBへの所有権移転を目的とする法律行為が認定されなかったパターン。もっとも,所有の意思が否定される事が少なくないといわれる。所有の意思が認定されても,無過失の立証が難しく短期時効取得が認められることも少ないとされる。
5.譲渡人占有型
売買など所有権移転を目的とする法律行為をした譲渡人Aが譲受人Bに引き渡さずにそのまま占有を継続したパターンである。売主の相続人が売主の占有期間を合算して主張するケースが多い。もっともAの所有の意思が否定される事が多い。
6.相続人独自占有型
所有権を有しないで占有していた被相続人を相続し,相続開始後相続人が現実に占有 を始めたケースにおいて,相続人の占有期間に基づいて取得時効を援用するパターン
(1) 被相続人が自主占有者であり,相続人がこの自主占有を承継した場合
(2) 被相続人は他主占有者であったが,相続人が自主占有者とされる場合
* 判例は,(1)(2)共に,相続人は相続により開始した事実上の支配により,独自の占有を取得するとし,相続人自身の占有継続による時効取得を認めている。
7.境界紛争型
(1) 古くから隣人間で境界がハッキリしないまま,一方が他方の土地の一部を占有していたケース(最判昭和41年10月7日)
(2) 売買などの目的物に境界紛争部分を含むものと信じて譲り受け引渡しを受けた場合(最判昭和44年12月11日)
(3) (1)(2)の場合において,隣接地の譲受人(登記済み)が現れ,この譲受人との間で境界紛争が生ずるケース
判例は,この(3)類型においても,2.と同様の処理をしている。最判昭和48年10月5日,最判平成18年1月17日等。