民法判例まとめ36

2016-07-05 12:36:47 | 司法試験関連

民法196条 「有益費」?

 → 「利得の押し付け」は避けなければならない。

単に物の価値が増加したと言うだけでは十分ではなく,それが行われなければその物の社会状況に応じた通常の利用にも支障を来たしかねないと認められることを要する。物の通常の利用に関係の無い価値増加や,通常の利用に役立つにしても,あれば便利だという程度の改良等のための費用は有益費に含まれない。物が通常の利用のために備えているべき状態を欠くに至った場合において,その状態を確保するために物の原状維持・回復に留まらない措置が講じられたときにその費用が「有益費」となる。

 → 196条2項の意味は,償還義務の対象を有益性が認められる増加に限った点にある。物をどのような状態にしておくかは所有者が決めることである。占有者が勝手にした改良等によって物の価値が増加したとしても,その増加は所有者にとって「押し付けられた利得」になるため,所有者保護の必要があるという考慮に基づく。

 → 占有者が投下した費用によって占有物の価格が返還時に増加しているような場合には,703条・704条の要件も充足される。そこで,占有者がこれらの規定によって利得の返還を回復者に請求できるのかが問題になるが,否定すべきである。回復者の償還義務を有益性の認められる場合に限定した196条2項の趣旨が没却されてしまうからである。

悪意占有者と他主占有者は,他人の物をそれと知りながら占有する者である(当初から適法な占有権原が無い者と,当初は適法な占有権限はあった者がいる)。善意の自主占有者は,他人の物とは知らないが,適法な原因に基づかずに他人の物を占有する者である。よって,これらの占有者を回復者との関係で賃借人よりも厚遇する理由は無い。

そこで以下のように整理すべきである。

回復者は,占有者が目的物に加えた変更の結果の除去を求める事ができる。但し,除去が不可能または著しく困難なとき,または変更が「有益」と認められる時は,この限りではない。回復者は結果の除去を求めることができない場合には,その変更が「有益」であるときは,196条2項により有益費償還義務を負うが,「有益」と認められない時は,結果取得の対価(償金)を支払う必要は無い

有益性」の判断は,物の使用収益を有した占有者については,その使用収益権の実現のために物が通常備えているべき状態を確保するのに必要な措置であるかどうかが基準になるのに対し,使用収益権を有しなかった占有者については,その物の通常の利用のために物が備えているべき,状態を確保するのに必要な措置であるかどうかが基準になる。ただ,善意占有者は,権原に応じた使用収益権があるものと信じており,保護の必要がある。この権原が回復者との間の法律行為に基づくものであり,その法律行為の無効・取消し・解除により,給付物が返還される場合には,回復者が占有者にその権原に応じた使用収益権を与えている。そこでこの場合の善意占有者(無効原因・取消原因を知らない占有者,解除前占有者)については,その権原に応じた使用収益権を有したときと同様に扱ってよいであろう。売買の無効を知らない買主については,所有者としての自由な使用収益権を有していたのと同様に扱い,目的物の価値を増加させる変更の全てを「有益」としてよいことになろう(佐久間)

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