蒼穹のぺうげおっと

-PEUGEOT in the AZURE- マンガ・小説・アニメの感想を書き流すファフナーとエウレカ好きのサイトです

『十二国記 図南の翼』感想

2004-09-24 14:09:43 | 小説 感想
十二国では王になる者は通常、蓬山に昇山し天帝の意を問うと言います。
しかしながら、その正攻法を王になる者の支店で描かれた話はまだないな、なんて思っていたので今巻はまさにタイムリー。
しかも前巻にちらっと登場した十二歳の女王珠晶の話とは恐れ入ってしまうこの『図南の翼』。

その「図南の翼」の意味が語られるシーンでは本当に鳥肌が立ちました。
このタイトルは既刊一だと確信しています。

■「とっても難しいの。・・・いろんなことが」
王になる準備が、心の準備が始まった。
並みの大人よりよっぽど聡明で負けん気の強い珠晶をして言わしめたこの言葉を見た時、そんな風に思ったものです。

珠晶は十二歳ながら達観とも言えるほど世の仕組みを理解しているし、本質を見る目もある。
しかし、妖魔はびこる黄海で突きつけられる数々の事態は、迷い、考え、行動することで更に本質への理解を迫られ、対峙しなければならなくなる。
それはあたかも王となる者が覚悟しなければならない試練を乗り越えさせて行くように。

このプロセスが本当に秀逸で、そこで語られる言葉はまさに名言の宝庫としか言いようが無いですね。
このプロセスがあるからこそ、前巻、後続巻でちらっと出てくる珠晶の王としての言葉に深みを持たせていますよね。
小野不由美先生はこういった人物の掘り下げが上手くて、個人的には芸術の域に入っている気がします。

■「ほんとうは王様なんてどうでも良い!」
上記プロセスがあるからこそ、最後に珠晶が叫ぶこの本音が堪らないんです。
王がいなくて国が傾くと嘆く人は多くとも、それに勇気を持って立ち向かう人がいない。
愚痴は言っても動き出さない、そんな大人に小さな私でも勇気一つで黄海まで来れた。
恭を想う気持ちがあるなら国民としての義務を果たせ、そう言ってやりたいんだと。

この言葉に衝撃を受けるとともに、珠晶に対してそこはかとないシンパシーを感じました。
自分はアプリケーション開発の仕事なんかをしてたりしますが、文句だけ言う人が本当に多いんですよ。
自分の知識は公開しないくせに、やれナレッジマネジメントができてないだとか、理論だけで実践しない人とか。
「これは今までのたくたやってきた、アンタたちトップの怠慢だよ!!!」
こんな台詞を吐きたいところですが、これをやるとローエングリンの塵と消えるので、男は黙って実践あるのみ。
社内の方法論の整備だとか、各指標値の統計だとか、PM同士の会合だとか、若手の育成(私もぎりぎり20代なのですが・・・)だとか、通常プロジェクトの合間を縫って足掛け2年、ようやく軌道に乗ってきて、上も意識するようになってきた。
愚痴ってるだけでは何も変わらない、必要なのに誰もやらないなら俺がやる、やらないといつまでたっても良くなることないんだよ、なんて思いながら仕事してたので、必要以上に珠晶にシンパシーを感じた次第。

珠晶が王になるプロセスだけでも十分素晴らしいコンテンツなのに、珠晶の本心の叫びが加わって、もう小野不由美先生にはやられっ放しだな、と思いながら、壮快な思いとともに次の巻を手にとっていました。

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBさせていただきました。 (たきたき)
2005-07-24 02:59:47
 十二国記シリーズの中でも特にお気に入りの「図南の翼」。なぜかNHKでアニメ化されませんでした。まあ、それは別にいいんです。アニメのレベルがNHKにしてはかなり××でしたから。

 それより、新作はどうなってるんでしょう、小野先生???

返信する
新作 (燕。(管理人))
2005-07-25 23:42:18
>たきたきさんへ

初めまして&コメントありがとうございます。

図南の翼、これだけ作品タイトルのスタイルが違うんですよね。

実際にある言葉からの引用だからなんですが、小野先生もこの巻にはこのタイトルしかない!と思われたんでしょうね。

#アニメ版は全部見れてないんですが、小説の方が僕も好きだったかもです。

小野先生の続編、非常に読みたいのですが、あの方はご夫婦そろって筆が遅いので、首をなが~くして待ちたいと思います(笑)。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。