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『十二国記 黄昏の岸 暁の天』感想

2004-10-01 10:35:05 | 小説 感想
小野不由美先生の思想・信念を見た、そんな気がします。
それをどのように読者に伝えるか?
推敲して作成された文章たちの美しいこと、そして各登場人物が語る言葉が読者の胸に響くこと、一々感動してしまいました。
『図南の翼』から5年、確かに長いですが、これは5年をかけるに値する文章だと思うのです。

■小野不由美先生のテーマを
自分なりにイメージするとそれは大極図。
「陰極まれば陽と成し、陽極まれば陰と成す」
西洋・中近東で考えられる「善」「悪」という絶対的二元論とは全く異なる考え方、相対的二元論の中で十二国の物語を展開しているように思うのです。
「対立」ではなく「交流」するがゆえに「変化」する。
「変化」するがゆえに「理解」することができる。
だからこそそこに救いがあり、人は変わって行けるのだと思うことができる。
それは第1巻『風の万里 黎明の空』から一貫して訴求しているテーマではないでしょうか。
自分はそんなテーマにこの上ないシンパシーを感じずにはいられません。

■この巻での焦点はやはり李斎自身の変化
に尽きると思います。
『風の海 迷宮の岸』で登場した李斎が冒頭から満身創痍で登場するのは以前の李斎を知っているだけに読者としてはショックでしたが、この巻のヒロインは間違いなく李斎だと思うのです。
泰という国を想い、自分でも間違っていると分かっていながらも慶国に命懸けで支援を求め、最後には天帝とは何だ?とまで詰め寄る。
そんなひたむきな信念を持つ彼女も、様々な人との触れ合い・助力によって大局を見るように変化していく、この変化こそがこの物語を非常に魅力的なものにしているんですね。

■天帝が本当にいるのならば
何故この状況を見過ごしになるのだ?
仁道を以って国を治めろとあるのに、天帝の仁は無いのか?

読者が疑問に思うところを李斎が読者代表として問い掛けるのですが、これに答えを返すのが景王陽子というのがにくいところ。

天だって過ちがあるのではないか、絶対などは存在せず、だからこそ人は犯した過ちを償える、やり直すことができるのだ

これこそ相対的二元論なんだと思った次第。

この国で育っていない陽子だからこそ出せた回答なのかもしれませんが、これがこの物語の核心なのかもしれません。
#これをやってしまったら十二国記のテーマの多くを消化したことになるんではないだろうか。
これはね、ほんとうは陽子自身がずっと自問自答してきたことなんじゃないかと思うんですよ。
作者としてもできるなら慶国でこの問題を取り上げたかったのではないかと思うのですが、陽子も王になってしまったことだし、さすがに満身創痍になるのは『風の万里 黎明の空』でやってるから李斎を通じて問題を掘り下げたのかな、なんて。

■そしてもう一つのポイントは泰王驍宗と泰麒の関係性の変化
この二人の関係性を見るに、王と麒麟も陰と陽なんだと思うのです。
互いの力がバランスしてこそ、国が治まる。
謀反に至る経緯にあたって、泰王は結果として泰麒を遠ざけたし、泰麒は結果として泰王に遠慮してしまった。
これが国のバランスを崩してしまった、陰と陽どちらかのバランスが崩れてしまったということかと。

だからこそ、物語終盤の泰麒の決意に希望が持てるわけです。
今度こそは泰王とのバランスが保てるのではないかと。
#しかしそこで泰麒が角を失っているという設定は秀逸ですねぇ。
#まだまだ前途多難。読者泣かせ。

小野不由美先生の続編、期待せずにはいられません。
#いったいいつになるかは想像つきませんけどね。

■おまけ
『魔性の子』を読んでおくべきですね。これは。
あれを知っておくと、まるでこの『黄昏の岸 暁の天』が二つの作品を行ったり来たりしているような錯覚に陥ります。
いかに泰麒が危機的状況に陥っていくか、泰麒の使令が理性を失っていくかが残酷なまでに描写されていますから。
あれが平成3年に最初に出版されたときには既に十二国記の世界観が固まっていたというのは驚きですよ。


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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
十二国記サイコーです。 (bluestone)
2004-10-01 23:56:48
こんばんは。コメントありがとうございました。

泰麒は十二国記の中でも特にお気に入りキャラです。彼はなかなか苦労が多くて辛いですけど、李斎に泰国に帰ろうというシーンは感動しました。本が実家にあるので、セリフが書けないのが残念ですが、確か「昔の方がもっといろいろ出来たのに、今は出来ることが少ない。でも僕は帰らなければ。。。」みたいなことを言うんですよね。じーん。
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TBも、、、 (bluestone)
2004-10-02 00:37:32
燕さん、なんとTBもしていただいたのですねっ。

気づくのが遅れて、コメントのお礼だけになってしまい、申し訳ありませんでした。m(_ _)m
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ラストシーン (燕(管理人))
2004-10-02 04:29:55
コメントありがとうございます(TBのお礼とかそういうの気にしませんので大丈夫っすよ)。

#むしろ2回もコメント入れて頂き嬉しいっす。



ラストシーンの秦麒の決意は良かったですねぇ(しみじみ・・・魔性の子を読んでいると特に)。

個人的にはここでも李斎がポイントで、最後の自問自答が彼女自身を救っていると思うんですよ。

李斎に救いがあってよかった(ホッ)。



bluestoneさんは「のだめ」もOKなんですね。

うちでも「のだめ」は要チェックです。

キャラチェックやっちゃいました。

私ものだめでした~。
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Unknown (エッジ)
2004-10-02 07:20:38
お邪魔します~。

考察すごいですね。こんな風に読めるのか、と感心しました!!

泰麒のその後に興味は尽きませんね。

角を失っているという設定で、いかに十二国へ帰るのか?とか。

すっきりする結末を期待してます。



燕さんのこの記事を読んでまた十二国記を読みたくなりましたよ。

と言っても読んだのが「黄昏の岸 暁の天」くらい、それも1回だけなのでダメダメですね。

あと、燕さんの少し前の記事に、・・「図南の翼」の意味が分かった時ぐらいの感動・・、と書いてあった部分を見て、「図南の翼」を今は読みたいです。
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嬉しいっす (燕(管理人))
2004-10-02 15:13:54
エッジさん、遊びに来てくれて&コメントも頂けて嬉しいっす。

『黄昏の岸 暁の天』はシリーズ中でも出色の出来だと思いますよ。

『図南の翼』もそれ単体で読める構成になっていて、これもまたお勧め。

『風の万里 黎明の空』を事前に読んでおくとちょっぴり面白いと思います(もちろんこれも超お勧めですが)。

『黄昏の岸 暁の天』をもう一度読み返されるなら『風の海 迷宮の岸』を読むと面白さ倍増です。

つか、十二国記は外れが無いのでどれを読んでも面白いと思いますよ(長くてスイマセン)。
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