goo blog サービス終了のお知らせ 
3RD EYE STUDiOS
街角の映像制作下請け零細業者のブログ




  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

膨大な撮影フィルムの中からカットを選び出し、無限にある組み合わせの可能性の中から答えを導きだしていく作業。これを「編集」という。高度なアートフォームであり、その能力やセンスを持つものには高い敬意が払われている。「編集」に方程式やセオリーなどない。ただ感覚だけだ。この映画はそんな「編集」にスポットを当て、なぜ答えやセオリーなどないのか教えてくれる。映像に携わっていて、もしまだ見たことがないなら、一度は見たほうがいい。きっと編集がしたくてうずうずしてくるだろう。

The Cutting Edge: The Magic of Editing [DVD] [Import]

編集の魔術を教えてくれる貴重なドキュメンタリー。編集の歴史を紐解き、いつどうやって編集が始まり、どう発展してきたかを、超有名エディターや監督の証言を交え描いていく。


■映像編集にセオリーはない
このドキュメンタリー映画はNHKとBBCの共同制作とクレジットされているが、主にハリウッドでの「編集」の発展を追っている。まさに映像の歴史そのものであり、貴重なフィルムやインタビューばかりである。ただし、編集の秘訣を教えてくれる、と思って見ると肩透かしを食らうかもしれない。が、それは当然である。というのもこの映画の核心がつまり、「編集にセオリーはない」ということだからだ。フィルム1本1本に固有の編集の方法論があり、そして、監督やエディターひとりひとり、どう編集するかはその人次第なのである。

ところが、そのセオリーが昔はあったのだそうだ。まずは「引きのマスターショット」。次に「会話する2人の2ショット」。そして「それぞれの顔の抜き」。必ずこの順番で編集しないと失格の烙印を押されてしまったというのだ。おもしろいことに、ハリウッドが培ってきたこれらのセオリーを崩していく波は、ソ連映画やフランス「ヌーヴェルヴァーグ」とアメリカの外で起こった。ハリウッドの映画監督たちはその映像を見て衝撃を受け、羨ましがったのだという。

■「気持ちのいい編集」という危険な落とし穴
例えば「編集されたのが目立たないスムーズな編集」。アクションつなぎというヤツだ。言葉で説明するのは難しいが、ある人物が振り向くというアクションを、寄りと引きの2つのショットで撮ったとすると、その2つのショットをつなぐときに振り向く人物の角度は同じにしてカットを割るという編集方法のこと。見ていて非常にスムーズで、編集点を意識することがない。ところが、この編集法が当然と考えられていたハリウッドにソ連映画が編集点むき出しの映像を作り衝撃を与える。いかに「常識」や「セオリー」が文化の停滞を生むかよく分かる。

僕自身の経験でも、「編集のセオリー」をぶつ人は多い。「こういうときはこう編集するんだ」「そんな編集ありえない」とか。そういう人物がいかにイカサマか、この映画を見ればよく分かる。もしそういう人と出会ったら、「カッティングエッジを見てください」と一言いえばいい。

さらに付け加えたいのが、よく言われる「きもちのいい編集」というのがいかに危険か、ということだ。二言目には「気持ちよい編集」って言う人がいるけど、あれ、やめたほうがいい。それこそ「文化の停滞」の第一歩だからだ。そんな既成概念や慣れは常に忘れようとしないと進歩がないと僕は思う。

■「エディター」という人間の魅力
この映画のもうひとつの魅力は、編集方法を教えるハウツーものではなく、エディターという人間にスポットを当てている点だ。たいていのエディターはロケ現場に行かない。俳優にも会わないことも多いのだという。現場に行くと苦労したカットを必要もないのに使いたくなったり、俳優はアップショットを使ってほしがるものだそうだ。そうなると、フィルムを客観的に見られなくなってしまう。エディターとは、映像制作において最も客観的に、無機的にフィルムと向き合う存在なのである。

いっぽうでエディターは、世の中でもっともワガママな部類の人間が多い映画監督と、何日も何週も何カ月も、時には何年も付き合わなければならない。人間性がむき出しになる瞬間もあるだろう。そんななかいかに葛藤を克服していくのか、この映画では描かれていて、とても興味深かった。

■編集とはストーリーテリングの作業
この映画はハウツーものじゃないし、とある映画の編集マジックをステップバイステップで解き明かしてくれもしない。だから、これを見たからといって編集がうまくなるわけでもない。

が、確実に言えるのは、エディターもまたストーリテラーであるということ。むしろ、最もストーリーの構築において重要な存在かもしれない。脚本がスタート地点で、編集こそがストーリーの終着点だ、とタランティーノは言っていた。

これを見ると今すぐ編集したくなる。編集の魅力が満載の映画だ。編集だけでなく、どんなかたちでも映像に携わったことがある人なら、必見です。そしてクレジットの最後に出てくるインタビューが洒落ていて、この映画の編集もイケてるなと思った。

コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする



« 若い感性はこ... 散りゆく桜~... »
 
コメント(10/1 コメント投稿終了予定)
 
 
 
Unknown (Unknown)
2011-03-08 10:45:07
昨夜のNHKプロフェッショナルは感心したな~
岐阜在住、マニアックな(?)中華シェフをまさに職人の鏡として描いた。編集もすごかった!かなりシーンの時空がすり替えられたタイムマシン暴走型&カット魔術が使われていたんだけど、ま~おそらくは超メガ盛りのテープ素材を前に、構成演出の情熱あればこそ、バッタ切りのフランケン誕生モードだろなと許せた。セオリー確かに破れまくりの快感!
う~ん 刺激っくす!めらめら( ^)o(^ )
前衛の気持ちで編集やってる限りボケ防止ですね~
 
 
 
テレビも時々 (3RD EYE(管理人))
2011-03-09 01:21:04
そういうことやってくれますよね。
が、それってテレビのメイン視聴者層であるおばちゃんの好印象は得られないと思います。

でも、そういう話を聞くと、テレビを見るのも悪くないなあと。ほぼ丸一年テレビを一切見てないので、、
 
 
 
Unknown (F9)
2011-04-11 15:07:02
いつも大変興味深く拝見しています。
ぜひ見てみたかったのですが、海外版しかないようですね…。
日本語版があればいいのですが、ご存知でしょうか?
 
 
 
ごぶさたです。 (3RD EYE(管理人))
2011-04-11 21:18:27
以前お訪ねしたF9さんですよね?ご無沙汰です!みなさんお元気ですか?

そうなんですよ。探したけど国内版は見つからず。。NHKが制作なんで出ててもおかしくないのですが、、僕は今はなきBS hiで再放送されたのを見たのですが、またやるかもでよ。
 
 
 
こんなやる気が湧きそうなエントリを (仁太郎)
2012-06-07 22:45:03
散々引っ張ったプレビューエンコード待ちのタイミングで読むという間の悪さw
 
 
 
ぜひ本編を (3RD EYE(管理人))
2012-06-08 01:43:19
こんな過疎ブログ記事よりよっぽど萌えまっせ!おもろいです。
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。