ヘンリー・D・ソローの日記を読みました。ソローの日記は編者のH・G・O・ブレークによって、春、夏、秋、冬の季節ごとに分けられて出版されています。すでに私は、春、夏の日記は読んでおり、今回読んだのは、「秋」の日記です。
美しい自然描写の中に挿入されるソローの人生観には、考えさせられるものが多くあります。その中に次のような一節があります。
「いかなる優越も享受しないことが、あらゆる優越の中で最高なのである。私は貧しければ貧しいほど、豊かである。これは常に変わらない真実であると思う。あなたが私の不利なところとみなすことが、私は自分の優位なところと考える。」
(山口晃 訳より引用)
一見、貧しさを礼賛しているかのように読めるのですが、そうではないでしょう。ソローが言っているのは、足るを知ることによって得られる豊かさのことではないかと思うからです。人間の欲望には限りがありません。それは人間社会の発展を促す起爆剤として、重要なものです。けれども一方で、欲望に囚われることで、反って人間社会を堕落させる面も持っています。そのあたりをうまくコントロールすることが出来ればよいのですが、残念ながら難しいのが現実でしょう。
そのような中で、足ることを知るというソローの考え方は、生きていくうえでの一つの指針となるのではないでしょうか。あれも欲しい、これも欲しいと言う前に、自分の目の前にあるものをもう一度見直してみることで、新たな発見があるかもしれません。それが新しい価値を創造する源泉となって、今まで気づかずにいた自分の可能性を導きだすことになるかも知れません。このように考えると、なんだか楽しくなってきますね。
現在、H・G・O・ブレーク編の『ソロー日記』は、春、夏、秋の三冊が発行されています。早く冬の日記を読みたいものです。