カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話
経済ジャーナリスト
木暮太一
サンマーク出版
を読んだ。
その中で、興味深い内容があった。
下は、その箇所である。
サラリーマンの夏休みは〝1日外出券〟
地下の強制労働施設に送られたカイジは、
毎月の給料を貯めようとがんばります。
でもご存じの通り、誘惑に負けて毎日ビー
ル、焼き鳥、ポテチなどを買って「豪遊」
してしまいます。貯蓄には失敗するのです。
この話は、人間の弱さとそこにつけ込む
帝愛のあくどい戦略を表しています。ただ、
このストーリーを一読しただけでは、「ああ、
やっぱりカイジは誘惑に負けてしまった。
ここでも帝愛グループの〝仕組み〟が勝っ
ていた」と感じて終わってしまいます。
ここでひとつの違和感を覚えませんか?
カイジが目指しているものは方向性がお
かしいのです。
カイジが貯蓄をして目指していたのは、
〝1日外出券〟です。地下の強制労働施設
で必死に働き、6か月禁欲することで勝ち
取ろうとしていたのは、50万ペリカもする
〝1日外出券〟です。〝1日だけ〟です。
つまり〝解放(釈放)〟ではないんです。
仮に、カイジが自分の欲求を抑えて貯
蓄し、50万ペリカを貯め込んだとします。
そして目的の〝1日外出券〟を購入しまし
た。
……で?
カイジは、1日だけ地上に出て、自由な
生活を送ります。ただし、お金がありませ
ん。
・カイジの月収は約9万ペリカ
・6か月で貯められる最大金額は54万ペリカ
・1日外出券は50万ペリカ
・1万ペリカは日本円換算で、たったの10
00円
という前提条件をそのまま活かすと、仮に
カイジが地下でまったく浪費をせず6か月
間耐えたとしても、地上に持っていかれ
るお金は4万ペリカしかありません。
つまり4000円です。
4000円では、地上に出ても、まともに過
ごせません。まず、野宿はほぼ確定ですね。
食事も大したものは食べられないでしょう。
カイジは「地上に出ればギャンブルで借金
を返せる」と意気込んでいますが、4000円
では話になりません。また帝愛から借金を
すれば可能かもしれませんが、事情を10
0%知っている帝愛が、カイジにお金を貸
すとも思えません。
そして、1日たったら、また地下帝国に
戻るのです。これでは何も変わりません。
また「ふりだし」に戻るのです。1日過ぎ
てしまえば、またゼ口からのスタートです。
これでカイジの生活の何が変わるのでしょ
うか?
ガイジが1日外出券を獲得しても、結局
なんにも変わりません。
そして、それは私たちビジネスパーソンに
も同じことが言えます。
「年に一度くらいはパーッと贅沢な旅行を
したい」長期休みが近くなると、旅行の計
画を立てる人が増えます。1年間がんばっ
てきた。
この長期休みくらいは、贅沢をして海外
旅行に行きたい。そう考えている人もいる
でしょう。
その気持ちはわかります。ですが、それは
カイジの〝外出券〟とまったく同じではない
でしょうか?
1年間がんばって働き、貯蓄する。
そして年に一度の夏休みでパーっとお金を
使ってしまい、帰ってきたらまた同じ職場に
戻る。
まさにカイジと同じです。
同じ職場に戻るのが悪いのではありません。
その仕事が好きなのであれば、何も問題あり
ません。また、海外旅行自体か問題なのでは
ありません。海外旅行を唯一の楽しみとして、
1年間働いたご褒美と捉えるのがいけないの
です。1年間、それを目標にして働くことが
いけないのです。
年に一度の〝外出券〟を気持ちの支えに、
気が向かない仕事を続ける。〝外出〟時に
は、ここぞとばかりに散財する。そして1
週間後に戻ってきて、また去年と同じ1年
間を繰り返す。これでは状況はまったく変
わりません。
では、どうすればいいのか?
私は外出券を求めて働くのではなく、
そもそも外出券の必要性も感じないよう
な仕事に就くことが唯一の解だと考えて
います。
休みに〝楽〟を求めるのではなく、仕事
自体に〝快〟を求める。それが、私たち
が幸せに生きるために取りえる唯一の道
なのです。
以上。
ここで、著者が指摘していることは、わ
りと身の回りにありがちなことである。
私個人としては、仕事に逃げていた方なの
で、理解できない世界だったのだが。
同僚で、世界中旅行をしていた人がいた。
それだけ、時間と金をかけて、毎日の生
活に還元されているようにみえないのが、
不思議でしようがなかった。
もっとも、旅行には、私は、冷めたもの
をもっている。
私は、不当人事で南の島に転勤させられた
が、そこは、観光地で有名な島でもあった。
しかし、わたしは、そこで、大きなショッ
クを覚えた。
高校生は卒業したら、進学・就職というこ
とで、殆ど全員、島から出て行くのである。
よく考えれば、分かることだが、よそ者の
わたしには、現実を目の前にして、気づい
た。
そして、この島で、いろいろと仕事をして、
その地域の現実に触れた。離島苦の存在を。
観光客向けの楽園幻想の島と離島苦の現実。
なんという乖離であろう。
以来、観光客として世界を知った気分にな
るのに、わたしは、抵抗を覚えた。
世界を知るなら、そこで、就職をして、生
活しなければならない。
以来、旅行をする人達をそれほど羨ましい
と思わなくなった。
この本では、旅行のことがあげられているが、
毎週飲み会の楽しみがあって、仕事がやっ
ていけるというのも、〝1日外出券〟である
といえないか。
わたしたちは、えてして、なんらかの〝1日
外出券〟で現実から、目をそらしているかも
しれない。