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リタイアーのよもやま話

老いの才覚

2010-10-28 10:42:02 | 読書
老いの才覚 曽野綾子著 ベスト新書
を読み終えた。


彼女が30代後半に書いた『戒老録』も読んだことも
あり、久しぶりな気分である。

当時、この本を彼女が30代後半に書いたとは、思わな
かった。

今回この本を読んで知ることになった。


1931年(昭和6年)生まれなので、わたしの父より
4歳年下である。

わたしは、彼女があの歳であのような本を書いたこと
については、残念ながら、けっこう尊大な人間だったなと
これまでの彼女の評価を覆すことになった。

いくら秀才と言え、自分の年齢以上のことについて、理解
が及ぶなどというのは、大変失礼なことであろう。

ところで、この本を読んで、最初は好感をもって受け止め
たが、読後いろいろとひっかかることが浮かび上がった
きた。


以下、本からの抜粋である。


私の母が晩年、私に目的を与えてくれ、と言ったことが
ありました。

老人性の軽い鬱病になっていたのかもしれませんが、私は
「それはできません」と答えたのを覚えています。

だれに対しても、他人に目的を与えることはできない。
その人の希望を叶えるために相当助けることはできます。
しかし、目的は本人が決定しなくてはなりません。
それは、若者であろうと老人であろうと、アフリカの
片田舎に生まれようと、ニューヨークの摩天楼の下で
生まれようと、同じことです。


83歳で亡くなるまで、母は6畳に半間の押し入れと
小さなキッチン、バス・トイレがついて離れに、整理
ダンス一つだけ置いて暮らしていましたが、遺品の整理
をするのに半日しかかかりませんでした。

妙な言い方ですが、母が亡くなった時、わずかばかり
持っていたへそくりも、ちょうど尽きかけていました。

財産でさえ、うっかり残すと、遺族は手数がかかります。
何も残さないのが最大の子ども孝行のような気がします。                                                                                                      


最期をみとってくれたお手伝いさんの総勢20人で、お
葬式を夕方4時頃からやりました。


私は、若い時から広い家を持ちたいとは思ったことがあり
ません。

掃除をするだけでも大変ですから。

田園調布にある我が家は、昭和9年(1934年)に親が
建てたもので、ついこの間まで窓枠もアルミサッシでは
なかったし、いまだに木枠の窓もあります。

当時のその辺りの家と同じくらい広い庭があって、庭師に
頼んで維持していますが、お金がかかってしょうがない。

だから、子どもには、私たち夫婦が死んだら、家も充分
使ったから心置きなく壊して、更地にして売りなさい、
と言ってあります。


もし私が、長生きしすぎて一文なしになったら、あらゆる
知人や周囲の人にタカります。

そして冷たくあしらわれて、どうにもならなかったら、
その時は野垂れ死にを覚悟するしかない。

それに、自分をみてくれる人がだれ一人としていないような
薄情なこの世なら、もう生きていなくてもいいじゃないですか。



以上、抜粋である。


これらは彼女についてのかなりプライベートな内容を書いて
いるのだが、この箇所を読んで、わたしは彼女についての
これまでの好意的な評価を覆すことになった。


1 財産でさえ、うっかり残すと、遺族は手数がかかります。
  何も残さないのが最大の子ども孝行のような気がします。
   
  と、彼女は言ったのだが、

  彼女は、自分の親の作った家に住めたおかげで、自分で
  家を建てる精神的苦労、経済的な苦労から免れ、その分
  自分の好きなことをやってこれたのではないか。

  彼女の住所は大田区○-▲ー◇◇となっている。

  この土地が彼女のブランドとして、どれほど役立った
  のだろう。

  彼女自身は、親の持っていた財産のおかげで、どんな
  にか助かったのだろうと思ったが、どうだろう。

  わたしが、今不労所得で生活している。
  今回、父親が寝たきりなって、いろいろと振り返る
  日々が続いている。

  かつて、母方の曽祖父が小作農をしながらこつこつと
  荒れ野を買い集めてきた。

  なんの楽しみもなく買い集めた荒れ野が、いまのわたし
  の不労所得を生む原資となった。

  父方・母方の祖先、そして父母の大きな悲しい人生の
  上に、不労所得を生む資産が形成されてきた。

  たいした資産ではないが、それでも、年金生活で暮らす
  生活からすれば、どんなにかゆとりがあることか。

  自分の柄にあわないのか、その管理はあまり楽しめる
  ものではない。

  春先から秋にかけて、電動の草刈り機で草刈りにおわ
  れる。

  屋敷の樹木も定期的に切り落とさないと周囲の迷惑に
  なる。
  
  それで、台風の直撃でもあったら、木々の枝が折れたり  
  して、その片づけに大変な労力を費やす。

  年中屋敷の管理におわれていて、時折、アパート暮らし          
  が羨ましくなる。


  しかし、わたしの今の不労所得の生活が母方の貧しか
  った曾祖父・祖父の夢見た生活であり、そして、父方
  の祖母の夢見た生活であろうことだっろうと思うと、
  彼等にあなた方の夢は、実現しましたよと、感謝しなけ
  ればなんて思ったりしている。
  
  祖父母がコツコツと荒れ野買い集めて、その子孫が不労
  所得を得ることができるようになるまでに、曾祖父の代
  からその孫である私の父母の人生を使い切ってなし遂げ
  ることができた。

  わたしは、その資産の形成になんの努力もせず、その恩恵
  に服している。

  その恩恵の上に、好きなだけ本を読み、夜な夜なブログ
  を書いて暮らす生活が成立しているかと思うと恐ろしく
  てならない。
  
  そして、なんと奇跡的なことだろうと不思議でならない。


  曽野綾子は、語った。

  財産でさえ、うっかり残すと、遺族は手数がかかります。
  何も残さないのが最大の子ども孝行のような気がします。

  あなたの住んでいる家が、両親の人生にとって、あなたの
  人生にとって、何の意味もないのだろうか。

  どうだろう。

  もっとも、あなたは、膨大な印税があるから、親の遺産
  の意味合いなんて、考えることはないだろうけども。

  それにしても、あなたのような物書きの生活は、遺産を
  残せるようなゆとりのある人たちの存在によって、成り
  立っているのではなかろうか。

  今、格差社会ということで問題となって、契約社員や
  フリーターで飯を食わざるを得ない人々によって、
  あなたの作品が、読まれることはないはずだ。

  人間の文明も文化も常に先行世代の遺産ではなかろうか。

  遺産がのこらないのは、動物の世界の話である。

  それにしても、あなたの著作権は遺産として、子どもたちに
  引き継がれるのではなかろうか。

  あなたの膨大な著作も遺産のはずである。


2 83歳で亡くなるまで、母は6畳に半間の押し入れと
  小さなキッチン、バス・トイレがついて離れに、整理
  ダンス一つだけ置いて暮らしていましたが、遺品の整理
  をするのに半日しかかかりませんでした。

  とあったが、なんと残酷な老後を強いたのだろうと、
  私には思えてならない。

  彼女の家をグーグルで確かめてみた。私の今住んで
  いる父の家と比較しているが、屋敷はほぼ同じ広さ
  である。
  
  だから、屋敷の管理がいかに大変であるかは、分かる。
  わたしの住んでいる屋敷の方が木がたくさん生えて
  いて、こちらの方は、私の方が大変だ。
   
  ただ、彼女は有名人なので、屋敷の管理なんてやって
  いる暇なんて、まったくとれないだろう。

  田園調布というブランドの街である。
  それなりに丁寧な庭づくりをしているはずなので、
  管理も大変であったであろう。

  (わたしの住んでいる父の屋敷は、もともとは畑で、
  素人が成り行きで樹木を植えたので、美しくはない。)

  ただ、彼女の現在の屋敷の半分は更地にされて、土が
  むき出しになっているので、若干寂しいものを感ずる。

  ところで、
  母親にしては、自分の主人と苦労して建てた家を娘夫婦に
  取り上げられ、幽閉同然の生活を強いられ、寂しい老後
  の毎日だったように思われる。

  木々に囲まれた人気のない「6畳の離れ」で母親は、どう
  いう想いで暮らしていたのだろう。


  娘夫婦があまりにも有名人であっただけに、何にも言え
  ない辛い想いをしたのではなかろうか?


3 妙な言い方ですが、母が亡くなった時、わずかばかり
  持っていたへそくりも、ちょうど尽きかけていました。

  こう述べているが、曽野綾子は、まったく母親の心中
  を察することができてない。

  彼女は、膨大な著作権料があったはずだ。
  だから、経済的には潤沢なはずである

  その親に経済的に心細い生活をさせていたとは、なんと
  いう愚かな娘であったろう。

  老いて、自分の自由になる金に不自由することほど、ど
  んなにか絶望的なことであろう。

  彼女の書いてある通り、「へそくり」をそのまま受け止め
  ると、彼女の母親は、年金を貰ってなかったのだろうか。

  本当の「へそくり」であったとすると、著名人の夫婦の
  母親としては、なんと経済的に辛い老後をおくったのだ
  ろうかと、思ってしまった。

  膨大な印税の入る娘夫婦は、なんも経済的な支援を母親
  にしていなかったのだろうか?

  自由になるささやかな金が尽きたから彼女の生きる力も
  実は尽きたのだ。


4 私の母が晩年、私に目的を与えてくれ、と言ったことが
  ありました。
  老人性の軽い鬱病になっていたのかもしれませんが、私は
  「それはできません」と答えたのを覚えています。

  このようなことを彼女は書いている。

  上記の2や3で書いたような現実にあったから、母親は
  鬱病にもなったし、生きる意味を失いかけて、彼女に目的
  を与えてくれと、すがったのだが、曽野綾子は、自分の
  身近にいた母親の生きる悲しみを理解できず、非情な仕打ち
  をしている。このことを彼女は理解できているだろうか。
  
  
5 もし私が、長生きしすぎて一文なしになったら、あらゆる
  知人や周囲の人にタカります。

  そして冷たくあしらわれて、どうにもならなかったら、
  その時は野垂れ死にを覚悟するしかない。

  それに、自分をみてくれる人がだれ一人としていないような
  薄情なこの世なら、もう生きていなくてもいいじゃないです
  か。

  と、彼女は書いている。

  本のあちらこちらで、勇ましいことを書きつらねているわり
  には、見苦しいことを言っている。

  本当に長生きしすぎて一文なしになったら、死んだ後、誰に
  も迷惑になることがないよう、密かに孤独死をするのがよか
  ろう。
   
  というのが、彼女の本の勇ましさに似つかわしいと私は
  思えてならない。
 



  ところで、

  彼女が「一文なし」になることがあるだろうか?
  彼女には、膨大な印税がはいるはずだ。
 
  現在住んでいる家だって、土地だけでも何億円のしろもの
  かもしれないのだ。

  あらゆる知人や周囲の人にタカります。と言っている。
  逆ではないか、彼女に知人や周囲の人がタカリにくるのだ。


  (それにしても、タカる相手が、子どもや親族ではなく
   あらゆる知人が先になっているのはどうして?)



  それに、自分をみてくれる人がだれ一人としていないような
  薄情なこの世なら、もう生きていなくてもいいじゃないです
  か。

  と言っている。

  本のあちらこちらで言った勇ましい発言は、どこにいった。

  自分の老いた母親の心情を推し量ることはできなかった
  くせに自分のことになると、甘ったれようとしている。
 
  本の中で、「くれない族」を揶揄したが、あれってなん
  だったんだろう。
 
  人に「老いの才覚」などと物知り顔する前に、自分自身の
  老いの才覚に疑問を持つことが必要ではないか?

 
  そにれつけても、

   それに、自分をみてくれる人がだれ一人としていないような
  薄情なこの世なら、もう生きていなくてもいいじゃないです
  か。

  と言っていることがどういう意味を持っているか、彼女は分か
  っているのだろうか。

  この箇所を読んだ夫や子ども夫婦にとって、この文章がどういう
  意味を持つか考えなかったのだろうか。

  彼女の母親お葬式に20人ほど集まったようであるが、この人達
  にとって、この文章がどのように伝わるのだろうと、考えなかった
  のだろうか。

  あなたのつきあってきた多くの親しき知人友人はこの文章をどう
  受け止めるのか考えなかったのだろうか。

  あなたにしては、決して言うべきでないことを、言ってしまった
  ような気がするのだが。

  あなたが80歳手前まで生きて積み上げたものが、すべて
  泡となって消えたような気がするのだが。



  モンテッソーリの幼児教育 ママ,ひとりでするのを手伝っ
  てね! [単行本(ソフトカバー)]  相良 敦子 (著)

  という本があるそうであるが、私は子どもが老いた親にできる
  ことは、この本のタイトルと本質的に同じでは思っている。

  「誰か、私がひとりでするのを手伝ったくれたら、いろいろ
   やりたいし、何でもできるのに」である。

  できるかぎり、毎日を生き生きと暮らしてもらうようどのよ
  うな支援ができるか。

  老いて生きる意味に迷う時にも、子どもだからこそ、答えが
  見つかるかどうかは別として、一緒に悩む人が自分の身近に
  いるということを感じてもらうだけでも、わたしは親孝行だ
  と思っているのだが
   
  曽野綾子は、どう考えるだろう?
  
  あなたは書くべきでない本を書いてしまったような気がする
  のだが。

  あなたが、ただの小説家であれば、このような手厳しいことを
  書くことはなかったのだが。


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