水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

思わず笑えるユーモア短編集-54- 地道な作業

2017年02月23日 00時00分00秒 | #小説

 アスファルト化された道ではなく、鶴嘴(つるはし)を振り上げて穴が出来た地道を平坦(へいたん)に均(なら)す作業に汗する昭和30年代の土木作業員・・正にこれこそが、字義のとおり地道な作業なのである。最近の文明は、この地道な作業を忘れつつある。やれ、パソコンでの検索だのスマホ[携帯用のスマートホーン]でラインなどと、便利さを、さも自慢するかのようにゲーム感覚で使う風潮が蔓延(まんえん)している。まあ、悪くはないものの、必ず必要なのか? と問えば、そうでもない。要は、電力を無駄に使っている訳だ。それなのに電力不足だとかの講釈をたれる文明社会なのである。
 開発担当で、すべての最先端の情報機器に関する知識を持ってはいるが、プライべートでは一切、そういった最先端機器を使わない堅物(かたぶつ)な男がいた。その名も堅辺(かたべ)という。堅辺の公務以外での日常は地道な作業の連続だった。新聞は前の日の新聞をお隣りの多島から貰(もら)い、読み漁(あさ)ることから始まった。さらに、その読み終えられた新聞は地道な作業で整理されたあと物置へと収納され、廃品回収に出されるのかと思いきや僅(わず)かな額で売られるのだった。それによって手に入れられた金は、農作物の種苗の購入費に引き当てられた。またさらに、地道な作業で実った農作物は堅辺の食料となり、生活費の一部を賄(まかな)ったのである。
「ははは…金属は食えませんからねっ!」
 希有(けう)の功労者として文化勲章を授与され、マスコミ取材を受けたときの堅辺の言葉だ。… 確かに、一理ある。

                             完


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