ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

電子書籍元年2010 №11 デジタルとアナログの共倒れ

2010-08-29 | Weblog
 電子書籍の普及は、出版業界にどのような影響を及ぼすでしょうか? 京都新聞ホールで京都MICフォーラム「デジタルメディアとジャーナリズム」が8月21日に開催されました。友人に誘われ、わたしも出席し話しを聞きましたが、ゲストのおふたり、藤代裕之と烏賀陽弘道両氏は「紙と電子、これからどうなっていくのか、正直なところ分からない」

 出版社はすでに赤字の社が多い。超大手は、小学館・講談社・集英社だが、前2社は2年連続の赤字決算。集英社は前期、はじめての赤字になってしまった。
 書店も苦しい。黒字を計上している社は少ない。全国チェーンの大手は安泰だろう、という方がおられるが、売り場面積が広いだけに家賃が高い。大手書店のほぼすべては、売り場を賃貸で借りている。
 海外だが、アメリカ最大の書店、バーンズ&ノーブルはついに会社を売りに出したようだ。大手のもう1社、ボーダーズは、たばこ会社に身売りしてしまった。「B&Nとボーダーズが経営統合し、リアル店舗を大幅に閉鎖することでしか、今後の生き残り策は描けないのかもしれない」<「週刊東洋経済」2010年7月3日号>

 2009年3月時点でみると、日本の電子書籍の売り上げは、年わずか464億円にしか過ぎない。全国の雑誌・書籍売上は、減ったとはいえ2兆円近くある。アメリカの電子書籍売上はそれよりも少ない150億円ほどである。現状では電子書籍はまだまだ、紙本屋の敵ではないのです。
 しかし、これから電子書籍が順調に伸びれば、すでに疲弊している本屋は、持ちこたえられなくなってしまうでしょう。数年にして紙の本屋は、雪崩を打って押しつぶされていくのではないか。

 新しく誕生したキンドルやアイパッドが、紙本業界を打ち破るのではない。すでに数年前から崩壊のきざしは見えていたのである。書店も多くの出版社も、将来に希望を持てない状態にあった。赤字経営が、たくさんの社で常態化しつつあったのである。これ以上、経営が悪化すれば、たくさんの本屋と出版社は、業界から退場するしかない。電子書籍のわずかの動きが、長年の大雨でゆるんでいた地盤を、あっけなく崩壊させるのである。

 本格的なデジタルの電子書籍時代を迎えようとしているいま、新時代の扉が開こうとする直前に、既存の書籍業界は地崩れを起こしてしまいそうである。1990年に3万軒あった書店は、いま半分の1万5千軒ほど。あと数年にして、5千軒ほどになってしまうという予測もある。
 そうなれば本を創作する著者が作品を発表するチャンスと収入が減ってしまう。すでに総合誌など、雑誌が大幅に休刊してしまい、書き手は発表の場と収入が縮小してしまった。
 新作を書いても、作家は十分な印税・著作権料を得られなくなってしまう。本屋が激減することによって、紙の本は発行部数・点数とも極端に減ってしまうのである。電子書籍では著者の望むだけの権料は、おそらく獲得が困難であろう。
 プロの著者・ライターが十分な収入を得られなくなると、出版文化は崩壊に向かう。著作収入以外に安定した所得のある著者、それとごく少数の売れっ子作家、著作市場は彼らの独壇場になってしまうでしょう。著者の疲弊と減少のため、紙本と電子本は、あと数年にして共倒れしてしまう可能性を感じます。そして残るのはもうひとつ、ロングテールの素人作家でしょう(わたしも?)
 なぜこのような事態になってしまったのでしょうか? 新聞の苦境同様、本も雑誌も、インターネットに負かされたのだと、わたしは思います。最新のニュースも、たいていの情報も、コンパクトなかたちで、だれでもがネットで簡単に手に入れることができるからではないでしょうか。最大の原因はインターネットです。20世紀の終盤には、すでにはじまっていました。書店、すなわち出版社の売上ピークは1996年でした。
<2010年8月29日>
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16 コメント

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崩壊 (ほんや)
2010-08-29 18:36:39
インターネットから始まっていたのですね。
納得です。
本屋として、反対勢力の電子書籍に賛成票を投じたいと思います。
出版文化、著者の生計、ともに育てるのが使命ですね。
電子も、読者以上に著者のことを考えるべきです。
芸術・学術・文化は、クリエーター・著者から生まれるのですね。
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アナログ♡デジタル (こうの)
2010-08-29 19:22:48
最近は 紙書籍と電子書籍は共存出来るのではないかと思うようになってきました。ただしそれは既存の書籍業界が消費者(読者)にとって魅力あるものということが前提ですが。

インターネットによる情報収集はとても魅力です。
点と点がつながっていく感覚は面白い。
一方 紙書籍の魅力は第三者が編集してるところだと思います。
まったく思いがけない発見の可能性が高いのはもしかしてアナログではないかと感じます。物販としての書店も同じです。

知らない言葉は必ず紙辞書で調べるという人がいるそうです。
理由は 両隣に記載されている言葉も一緒に覚えられるから。
この感覚は無視できないなと思います。

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こうのさま (かたせ)
2010-08-29 20:00:03
確かに、アナログとデジタルは別世界でありながら、同じ舞台で共存できるように思いますね。
グーグルにしろ、アマゾンにしろ、並べ立てるのはコンピュータの確率です。
しかしアナログの世界、本屋がそうですが、人間の感性や経験で並べますね。
第3者の編集とは、すごい言葉だと思います。
どんぴしゃ検索はデジタル。周辺部を見渡すのが辞書同様、アナログ。
遊びこころで散歩逍遥することが、忙しい現代には必要なのでしょうね。
ポイントは自由な時間、時の捻出かもしれません。
明日は月曜日?
ただ、出版業界がまもなく崩壊してしまう危機だけは、何とか回避せねば…


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返信コメント (こうの)
2010-08-29 20:22:42
僕の感覚でいうと かたせさんから聞かせていただくお話も、編集されているわけです。自分で検索できない話や情報です。

出版業界は既存の配本など含む制度に目を向ける時期にきてるのかなと思います。相当 難しいだろうけど。
家賃や感性の話にもつながると思います。

デジタルの脅威で済ませられる話じゃない気がします。
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編集 (かたせ)
2010-08-29 21:14:34
どうも「編集」がキーワードのようですね。
デジタル時代になっても、いたるところで広義の編集がポイントなんでしょうね。
出版社だけでなく、書店も、市民のわたしたちも日々、編集行為を行っているのかもしれません。

紙の『広辞苑』第4版(古いですね)をみてみました。
「編集・編輯」資料を或る方針・目的のもとに集め、書物・雑誌・新聞などの形に整えること。
映画フィルム・録音テープなどを一つにまとめることにもいう。

「編集権」新聞・雑誌・書籍などの刊行について、企業経営権のうちの一部として、編集上の企画その他、必要な管理を行う機能。

※字数超過のため、後に続けます。これ前篇。
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編集2 (かたせ)
2010-08-29 21:30:49
『広辞苑』続編
「編集著作権」素材の選択または配列によって創作性を有する編集物を編集した物に認められる著作権。素材の著作者の権利には影響を及ぼさない。[こんな権利があったとは、驚きです]

『ウィキぺディア』をみますと、
解説が長いので、一部を抜粋します。
「編集のもとの用字は編輯。輯は車輪の中心にスポークが集まって車輪をなす様子を現し、<あつめる>という動詞でもある」
bookmakeとして「企画立案から表装までも含む業務。本づくりとするのが正確であろう…博打の胴元の意味もある」

ウィキペディアは、やはり楽しいですね。書き込んだ方の遊びこころが匂います。

集め編む行為には、豊かな創造性、オリジナリティが不可欠でしょうね。
もう少し考えてみます。子どもの夏休み終盤、溜めていた宿題のようです。
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Unknown (ナーガ)
2010-08-31 19:09:47
情報の伝達という原点に戻らないと、良いことがおこっているのか、悪い方向なのか見定めにくいです。
あと、前提にしている教養主義的なものに正当性があるかどうかも心配です。
いずれにしても、知の有様は、量的に拡大し、質で言えばデータベースから検索ロボットの方にシフトしてきてはいたのですが、急加速しています。
どうなるんでしょうねえ。
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なーがさま (かたせ)
2010-08-31 20:36:37
いい方向化、悪い方向化、いずれに向いているのか、
何事においても、当面の判断はむずかしいですね。
ご心配いただいた通り、しみじみ、自分でも判断しかねます。
困ったものです。
ところで検索ロボットの判断ですが、
グーグルはそろそろ、頭を打つのではないでしょうか?
国立国会図書館の長尾館長も示唆しておられますが、
より実用的な、ひとに社会に役立つ検索サイトが産まれるのではないか、
そのように待望しています。
また、グーグルは常に情報の3コピーを持っていて、同じ質問が来ると、サーバーを動かさずに、コピーを送る。
だから返信スピードも速い。
そのように聞きました。
だんだん手抜き状態のようです。
日本にオリジナル検索エンジンのないのが残念ですが…
韓国のNAVER日本語版なんか、成長を期待し、応援したいです。
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Unknown (ナーガ)
2010-09-01 20:09:10
長尾って長尾真??
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今後の行方 (信楽たぬき)
2010-09-01 20:46:51
白熱したコメント恐れ入ります。
こういう議論の中から、きっと両者が共存できうる方向性がきっと見えてくるのだと思います。
目先の利益に踊らされるのではなく、採算ラインを十分睨みながら、その中でいかに熱意をもって本つくりをできるか・・・
そういう人がひとりでもふたりでも出てくれば、日本の将来は明るいはず。
 皮算用は小生にお任せして、今後貴重なご意見をたくさん読めますことを楽しみにしております。
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