妄想と戯言2

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はじめに!を読んでください。

その心、濁すも救うもアナタ次第(魯粛+周瑜)

2017-01-12 20:33:47 | 無双シリーズ

さくまさんリクエストの魯粛殿と周瑜様のお話。短いよ!









「────と、なる訳だ。良いか、呂蒙」
「はっ。この呂 子明、周瑜殿のお言葉、しかと胸に刻みました」

とりわけ珍しくもない光景ではあった。
上の者が下の者へ教え、そして導く。かつては己でさえ、その道のりを歩いてきたというのだから問題などあってはならない。
そう、例えばそれが未来へ繋ぐための襷のような物だとして。その襷を俺は彼から受け取り、今度は俺が、その役目を成さねばならないというのに。

己の中の小さな感情が疼き始めていると確信を持った頃、難しい顔で書簡を睨み付けていた弟子と、そして、それを懐かしむように瞳を細めていた、俺が師として仰いだ端正な横顔が、不意にこちらへと向けられた。気付くが早いか、まずは弟子である呂蒙が俺に頭を下げる。それには頷いてだけ返し、呂蒙の隣で微笑む男へと向き直り手を合わせて挨拶を済ませた。

「魯粛殿!」
「ああ。いつになく勉強熱心だな、呂蒙よ。周瑜殿も、こやつに物事を学ばせるにはさぞ骨が折れた事でしょう」
「そ、それは…否定は出来ませんが…」
「フフ、そうでもないさ魯粛。才能とは物分かりの良さではなく、その探究心にある。キミは良き弟子を持ったのだな」

さらり、と溶けるように美しい髪が揺れる。その隙間から除く顔が、一層優しく微笑んだ。あの周瑜殿に誉められたことに気を良くしたのか、普段はしかめ面ばかり浮かべる呂蒙でさえも、つられて笑顔になっている。よくもまあ簡単に言えたものだ。「良き弟子」などと。

芽生えた濁りが渦巻きを深くし、目の前に広がる「当たり前の風景」にさえ疎ましい色が掛かってしまう。

未熟な弟子の顔つきが締まることはない。微笑む美しい横顔が此方に向くことも然り、だ。未だに周瑜殿への質問が尽きぬのであろう、書簡を広げる男の名を呼ぶ。なんでしょう!と顔を輝かせたのも束の間。

「日々精進せよ、お前はまだ甘い」

ハッといつものしかめ面に戻った呂蒙は、短い返事の後、鍛練があるからとその場を急いで去ってしまった。




「…浮かない顔だな?」

呂蒙を見送った直後、軍議へ向かう途中の廊下に響いたその言葉は、悪戯に俺の動揺を誘いだした。いつもならば軽口のひとつでも返すところだが。

「はて、俺の事ですかな?」
「フフ。キミも存外、イヤらしい男に育ったな」
「…返す言葉もありませんな」
「ははは!今のは褒めたのだ、魯粛よ。軍師たるもの、その性格は称えられるべきだ」

そう思うだろう、と言葉にはしなくとも、数歩先を行く偉大な背中から全てが伝わってきてしまう。おそらく本心なのだろうが。今の俺には何を言われようとも、全てが影を引いてしまうのだ。

「何を意地悪することがあるんだ」
「意地悪、でしたか?」
「褒めて伸ばしてやる事は基本だろう」
「ほう…それは可笑しいですな」
「…と、言うと?」
「周瑜殿の仰る事が本当ならば、どうにも俺は褒めて伸ばされた記憶だけが抜け落ちてしまったようだ」

少し大袈裟に、天を仰ぐような仕草で返せば、振り返った周瑜殿が一瞬だけ呆けた顔で此方を直視した。しかし、すぐ俺に向き直ったったかと思えば、次はくつくつと、堪えるでもなく豪快に肩を揺らしている。

「そうか、魯粛。そう言うことか。どうにも私は勘違いをしていたらしい!」
「……」
「ははは、安心するといい!」

宥めるように、その優しげに細められた瞳に見上げられる。気づかれたとて、今更な感情ではあるが…どこか居心地の悪さと、呂蒙に対する幾らかばかりの罪悪感とに自然と肩を竦めていた俺を、やはり笑い飛ばして彼は続けた。

「私は弟子一筋だ。その可愛い弟子の、次の後継者を甘やかしてしまう気持ちを許してくれ、魯粛」

言われ、流石に言葉に詰まる。今度は俺が呆けた顔をしてしまっているだろうが、幸いにも薄暗い廊下では背丈のあるほうが表情は見えにくい。先ほどまで心を支配していた濁りは微塵も見当たらず、案外単純な己に呆れ返る暇もなく。
さあ行くぞ、と響いた優しい声に、やはり敵わないと今度こそ大袈裟に、天を仰いだのだった。





おわり!

誰だって、大好きな尊敬する師匠を取られたくはないはず、と思い書きました。どちらかというとブロマンス的なイメージの二人。

リクエストありがとうございました!


お粗末さまでした!

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