日々草創

「清く、楽しく、気持ち良く」、、、アホのままでもいいんです。

ニックネーム

2011-07-30 | 日記
社会を成形するコミュニティーの中で、相手の名前を呼ぶ時などに親しみを込めてニックネームというものを使う事がある。
例えば英語圏で伝統的に人名として使われている名前でいえば、ロバートをロブやボビー、マイケルをマイク・ミッキー・マイキーなどと短縮形を使う場合であったり、元日本人大リーガーの鈴木投手などはマクドナルドのハンバーガーが大好物な事から「マック」というニックネームを付けられたりと、いわくからくる物であったり、それら理由は様々である。

恐らくそのニックネームは、親しみ度が強いほど使われる頻度が多くなるものなのだろう。

そんな親しみ易いアイテム「ニックネーム」ではあるのだが、先日ちょっとだけそのニックネームに困らされる出来事があった。


僕は以前より自営をしている社業発展のため、とある中小企業家が集まる団体に属し、各地で行われる会社経営に関する勉強会や懇親会などに出掛ける事がある。
これがなかなかの自己啓発になり、雰囲気も良く、とても為になる会だ。

僕は先日その会が主催する定例会に出席する折、造園業を営んでいる幼馴染みの友人にもその会を紹介しようと招待したのだった。

その会は普段からアットホームで、それほど垣根を感じない暖かい雰囲気のある集まりではあるが、月例となっている例会では、いちおう会社社長や取締役員だけで構成されるメンバーが大人数集まるだけあって、少しは気を引き締めて出席しなければならない。

僕もその日は着なれないスーツを羽織い、背筋を伸ばして会場へ向かう。
そしてその途中、招待した幼馴染みと落ち合った。

「こんなカッコで良かったかな・・・もっとちゃんとした方が良かった??」
「いやいや、格好なんてそんなに気を遣わなくていいよ、いもさん」

そう、彼のニックネームは「いも」。

彼とは小学校当時からの友人で、気づいた時には「いもさん」と呼ばれていた。
その由来は、坊主頭にゴツゴツした顔立ちで「男爵芋」に似ていることから付けられたのだろうと、誰に聞かずとも解る事である。

そんな彼と例会会場へ到着すると、さっそく例会が始まった。

その内容は、いち会員が体験・経験した社業に関しての学んだこと、苦労した事など、聴いている側にもやる気を起こさせるような心地よい講演だった。

幼馴染みの彼にも好印象だったようで、この会をいたく気に入ったようだ。
その後、同席したテーブルの会員らとディスカッションを交わし、有意義な時間を過ごした後、ステージにて招待客の方々に自己紹介をしていただこうという計らいの時間が用意してあった。

司会が、その彼の名前を読み上げ、ステージへと催促する。
それと同時に「紹介者の方も・・・」という様に、僕も呼び出された。

ここ最近、人々の前でマイクを持つ機会がわりと多く少しばかりの慣れはあるものの、やはり中小たれど会社のトップに立つ方々が大勢集まっている場だけあり、ここでは緊張をしてしまう。

スーツの方々が会場を埋め尽くすステージ上というのは、誰でもその厳粛な雰囲気に飲まれてしまいがちになっても不思議ではないだろう。

そんな堅苦しい空気の中、僕はその彼の紹介を言葉を選びつつ話し始めた。

「え・・・本日お越しいただいた造園業を営むいもさん・・・いや、クワヤマさんですが・・・」

考えてみれば小学校以来、彼の事を「いも」としか呼んだ事がない。
名字で呼んだ事もなければ、下の名前で呼んだこともない。
非常に歯がゆいのだ。

「・・・といった訳で、いも・・・クワヤマさんは・・・」

このデリケートな御時世、子供に「いも」なんぞというアダナを付けられていたとなれば、ちょっとしたイジメとしてPTAで問題になってもおかしくない。
っていうか、40歳にもなって「いも」はないだろう。
まるで僕が昔に彼をイジメていたようにも取られかねない。

「では、いも・・・い・・・クワヤマさんに自己紹介していただきます・・・」

あぶなかった。
40年間生きてきた中で培った自分の中での当たり前を、緊張感が漂う中で抑えきる難しさをまざまざと思い知ったスピーチだった。

この会における例会という場は、会員の間で「学びの場」として持て囃されている。
そのスピーチは、僕にとってその日一番の学びとなったのは間違いないだろう。

なにはともあれ、その日をさかえに彼も会のメンバーになった。
そして「これから彼をどう呼べばよいのか」という課題も出来た。

ニックネームとは、その人の将来を左右しかねない大切な物である。

しかしながら、小学生とは純粋で残酷な生き物であり、そんな物はおかまいなしだ。
だからこそ、このスピーチの様にそれを打破する大人心が、その後に活躍するのである。


とはいいつつも、残念ながらそんな大人心を無視するかのようなニックネームも存在している。

少し前の事だが、よく遊ぶ後輩達と町中で遭遇した時のこと。
1人の後輩が今までとは全く違うニックネームで呼ばれていた。

「ねぇねぇ、オペってさぁ・・・」
「オペ?」

そういえば、少し前に彼が転職してと聞いたような・・・

「なにかのオペレーターとか、そんな仕事してたっけ??」

何気なく訊いた僕の質問に、一人の後輩がさりげなく答えた。

「なんでオペか?って事?」

「うん」

「包茎手術したんだって」

「・・・オペ?」


子供心を持つ大人は、もっと残酷な生き物なのである。
コメント (1)
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