臨 終 中原 中也
秋空は鈍色(にびいろ)にして
黒馬の瞳のひかり
水涸(か)れて落つる百合花
あゝ こころうつろなるかな
神もなくしるべもなくて
窓近く婦(をみな)の逝きぬ
白き空盲(めし)ひてありて
白き風冷たくありぬ
窓際に髪を洗へば
その腕の優しくありぬ
朝の日は澪(こぼ)れてありぬ
水の音したたりてゐぬ
町々はさやぎてありぬ
子等の声もつれてありぬ
しかはあれ この魂はいかにとなるか?
うすらぎて 空となるか?
「秋空は鈍色にして・・・」の鈍色(にびいろ)とはどんな色なのだろうか?
「鈍色は、ほとんど黒に近い灰色に青を潜ませた. 鉄のように重苦しい色。 日本では古くから(平安時代には既に)喪の色、 凶事の色とされていたそうですよ。 寒色 」
中原は愛する幼子を亡くしていた時期もあるので、こういう詩が生まれるのでしょうか。
弘前は20日まで送り火が焚かれます。
虫たちの音がにぎやかになってきました。
この空は昨夕の雲の色です。