炭鉱遺産と今

北海道炭鉱遺産の現状と思い出をエッセィ風に記述

黒い雪

2012-04-06 21:31:43 | Weblog

黒い雪が目立つようになった。

冬の間、何台ものトラックが火力発電所へ石炭を運ぶ。荷台からこぼれ落ちた粉塵が道路沿いに堆積し、雪解けとともに浮き上がってくるのだ。車道に流れ出た水も黒ずんで、車はたちまち汚泥で塗りつぶされてしまう。坑内炭鉱はすでにないが露頭炭採掘が続いているこの町の4月の汚れた道路は、依然として炭鉱町の風物詩だ。

石炭ストーブを焚いていた時代はもっとひどく、春先になると街全体が黒く染まった。冬期間、エントツ掃除で飛散したスス(煤)が、降り積もった雪が沈むにつれて表面に露出してくるからだ。

炭鉱長屋のエントツはストーブから垂直に屋根を通して空に突き出ていた。直径12、3センチの円形のエントツ内壁には、石炭に含まれる油質(スス)が付着して1カ月に1度掃除をしなければならない。ススがこびり付くとストーブの火力が落ちるばかりでなく、火が逆流して家の中に「ボッ」と煙が噴き出すことさえある。

屋根に上って行うエントツ掃除は冬の大仕事。長い木棒の先に5メートルほどの針金を付けその先に鉄の輪を付ける。その鉄の輪を、ちょうど釣り糸を垂らすようにエントツの中に静かに入れて上下させると、ススが剥がれ、ストーブの火力に押されて勢いよくエントツの先から空に舞い上がり、家の周りの白い雪をたちまちのうちに黒色で覆ってしまう。一冬で4,5回、各家の掃除で吐き出されるススは降る雪とともに累層を作るが、雪解けとともに黒い部分だけが重なって顔を出す。道路も平地もみんな真っ黒だ。

そんな炭鉱長屋の「エントツ掃除」。もう見ることはできなくなったが、記憶の中では鮮明に残っている。道路脇の粉塵が浮き出る季節になると、あの光景が懐かしく思い出されてならない。