炭鉱遺産と今

北海道炭鉱遺産の現状と思い出をエッセィ風に記述

釧路に入坑して       

2011-10-10 14:57:14 | Weblog

今年も、釧路コールマイン炭鉱の坑内見学会を実施した。参加者15人。事務局の私以外みんな初めての入坑体験だ。見学現場は坑内の最先端、掘進切羽。そこでは直径1メートル程のアームを持つ掘削機が唸りを上げて回転していた。岩壁から崩れ落ちた石は蟹の手のような鉄製の爪でかき集められ、キャタビラ付きのベルトコンベアーに乗って炭車に積まれる。私が働いていた頃の掘進作業はピックを使った手掘りか発破を使用して岩石を壊すかで、ズリ(砕けた石)は大角スコップで炭車に手積みしていた。機械化が進んだこの現場を見ると労力も危険度も大幅に軽減されているのを感じる。

昭和48年、住友赤平炭鉱マイナス430レベル。「人が埋まった!」との声に、急いで掘進切羽へ駆けつけると一人の作業員がズリに埋まっていた。作業中、岩壁が崩れ、足を取られたらしい。仲間の救出にもかかわらず、天盤から落ちる細かい石は瞬く間に腰まで覆った。近くの現場から駆け付けた数人が天盤に差し木する。しかし、上からの石はなかなか止まらない。カッチャ(小さな鍬)で体の周りから石を取り除こうとするが、数十分の間に首まで埋まってしまった。その時、苦しげに男が叫んだ。

「埋めてくれ!」

低く、まさに地を這うような声だ。それでも、仲間は聞こえないかのように黙々と天盤を固める。どのくらいの時間が経っただろうか。落ちる石がピタッと止まった。ほどなく男は助け出された。救出後、仲間が坑道の脇に座りタオルで額の汗を拭いていたが誰も声を出すものがいない。必死の救出だったことが、その無言の中から伝わってきた。

坑道幅、高さとも約8メートル。地下300メートルの海底下の想像を超える大型機械に一同感激の様子。あの時、後方で材料搬入に携わっていた私には忘れられない坑内事故となったが、今、15のキャップランプが一点に集中している掘進切羽に不安を感じさせるものは何もない。特段に進歩した坑内現場だ。来年もまた見学会を催そうと思う。