【合気道 横濱金澤クラブ】電子掲示板

横浜市立金沢中学校の武道場をお借りして合気道教室を開いています。もっぱら初心者を対象として基本技を中心に教えています。

嘘をつかない

2014-06-03 19:55:01 | エッセイ
 この言葉は次の二つの意味を含んでいる。
1. 嘘をつかない。(正直であること。)
2. 絶対約束を違えない。(約束を守る。武士に二言なし。)
『甲陽軍鑑』とそれに続く『可笑記』『葉隠』『武道初心集』など諸々の武道書もまた、「嘘をつかず正直であること」を徳目の第一に掲げている。
『武道初心集』に「義はすなはち善、不義すなはち悪なり」とあるとおり、「義」はまずもって善行である。善をおこない、悪を退けること。不正に走らず、不正の物に手を出さぬことである。たとえ周囲の多くの人間が加わっておろうとも、不正な企てには同調しないと言う態度を持すること。とされていた。
 1.の意味については、嘘をつかないで正直であれ、とは誰でも簡単にできそうだけれども、人間には、自分を良く見せようとか、上司に叱られたくないなど自己保身などの気持ちがあり、思わず嘘が口から出ることも考えられる。武士が活躍する戦場ではこの嘘の報告が指揮官の判断を誤らせ致命的な結果を招くことがある。この単純で基本的な「嘘をつかない。(正直であること。)」という徳目は、組織が戦(いくさ)に勝つため、部下(家来)たちに要求すべき第一の徳目であることが理解できるのである。特に戦況報告では、「見たまま、ありのままの事実を報告すること」が非常に重要となる。

次に2.の意味であるが、正直の徳は自らの約諾の遵守となり、信義・信頼の貫徹へも進んでいく。武士はひとたび言葉を発したならば、それを違えることは許されず、約諾は命に代えても守り抜くという気風が強調されるようになった。余談であるが、武士同士が堅い約束を結んだとき、金打(きんちょう)といって、刀の刃と刃又は鍔と鍔を打ち合わせることによりその証としていた。

 1,2とも、武士が生きた時代はもちろんのこと現代においても(戦闘)組織には欠かせない徳目であることが理解していただけよう。

写真:什の掟(会津若松市:日新館)
 一方、作家の池波正太郎は「関ヶ原」(『真田太平記』第七巻)で、西軍から東軍へ「最後の瞬間」で寝返る武将の姿を生々しく描いている。特に小早川秀秋に代表されるところの、究極の選択を迫られた時の人間の弱さが存分に出ている。名のある武将たちの「嘘をつかない」という徳目に反する行動をどう評価するのか。これは別の機会に譲りたい。
コメント
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