
3月も後半になり桜の開花予想がしきりに取り沙汰される季節となりました。


仙見川の天魚

ニッコウイワナ

書籍「イワナの顔」より相ノ又沢のニッコウイワナ
今年は山域での降雪が盛んで新潟の山岳地は未だ春を迎えられずにいます。
今月解禁を迎えた渓流釣行は既に二度に渡り、参拝を兼ねた初日は大雪と雪代による増水に見舞われ坊主を喰らう結果となりましたが二度目の釣行でようやく新年初渓魚の顔を拝むことができました。

毎年思うことですが早期の山岳渓流釣りはポイントが釜や淵に限られ、大半の時間は雪代で足元が見えづらい川の遡行になるし林道では足を雪に沈めながら息を切らして歩かなければいけないしで苦行に近いものがあると感じざるを得ません。
解禁初山女魚は持ち帰るにはやや小ぶりな為リリースしました。その後は釣果が振るわず納竿となり帰路に着きました。
私はシーズン序盤で山女魚や岩魚を釣り、持ち帰って食べたらその後の釣行では基本的にキャッチアンドリリースを心がけていました。大量に釣って山岳地の渓魚を無闇に減らすべきではないと思っていたからです。しかし最近リリースという行為の「善悪」はいずれなのか?ということをしばしば考えてしまいます。
この記事では種の保全という観点における「善悪」について考えたいと思います。
釣り人の常識ではキャッチアンドリリース(今後はC&Rと表記します)は好意的に評価されがちです。勿論ブラックバスやブルーギルなどの特定外来生物のC&Rは法律で処罰の対象となります。
それでは特定外来生物に指定されていないニジマスやブラウントラウトに関してはどうか。ブラウントラウトは特に北海道で生息域を拡大しており在来の生物に対する脅威となっていることから法的な強制力はないがC&Rは推奨されるべき行為ではないものと考えられます。ニジマスはかなり大型になるし在来生物への悪影響は少なからず出ているものと考えられるためC&Rはやはり非推奨であると思うが、何故か外来種であるニジマスは毎年漁協による放流がなされています。正直生態系への影響は鑑みず釣り人の為の商業放流ではないかと穿った見方をしてしまいます。
県内にある仙見川では新潟には存在しないはずの天魚が釣れます。

仙見川の天魚
仙見川に天魚がいる経緯は不確かで、かなり昔に誤放流が行われてしまったとの情報がweb上にありますが定かではありません。
現在、当該河川の放流実績に天魚は該当されていないものの仙見川で山女魚の姿をこれまで見たことはなく、釣れる渓魚は天魚と岩魚のみです。仙見川の天魚は国内外来種であると見て間違いないのではないでしょうか。
こちらに関しては後程触れることとします。
日本に生息するイワナ属はニッコウイワナ、エゾイワナ、ヤマトイワナ、ゴギの4亜種です。

ニッコウイワナ
この4亜種存在するイワナ属は分類学上極めて遺伝子が近縁な為に別種として扱うかどうかが曖昧で外見の相違点でしか差別化出来ないという意見もあるようです。
ただ間違いなく見た目が特異な地域個体の岩魚も存在する以上この4亜種を同一視することは罷り通らないと私は思います。
新潟に生息する岩魚は大半がニッコウイワナで一部エゾイワナも生息しているようですが今回はニッコウイワナのC&Rについて考察していきたいと思います。
例えば魚野川中流域で釣れたニッコウイワナをC&Rすることは善いことなのかと問われたら答えはYESとは言い難いと思います。
ここで述べる私の意見にはかなり賛否が分かれることになるかと思いますが、魚野川という新潟随一の渓流河川は岩魚の放流も盛んに行われており、ここで放流されている個体群のルーツがC&Rの善悪に大きく関わってくる要因となります。
一口にニッコウイワナと言っても、かなり特徴的な体色の地域個体も存在します。

書籍「イワナの顔」より相ノ又沢のニッコウイワナ
なぜ仮に魚野川で釣れた岩魚をC&Rすることが善ではないのかというと、まずは釣れた放流個体のルーツの出所が不明瞭なこと。それに加えてルーツが曖昧な放流個体と在来個体が交雑し遺伝子汚染が生じている可能性があることが挙げられます。
この個体群が生息域を広げ交雑していけば在来個体が減少することは想像に難くありません。したがって放流個体は持ち帰り、在来個体はリリースすることが最善なのではないでしょうか。
しかし私の考察にはかなり大きな欠点があります。それは放流個体と在来個体、交雑個体をどのように見分けるのかということです。稀に他の個体とは異なる体色を示す個体が釣れることがありますが、体色が特徴的だからといって在来種であるという根拠にはなり得ません。逆もまた然りで、ありきたりの体色だから放流個体であると断定は出来ないのです。
そもそも在来種の定義とは何なのか。先にも述べた通り分類学上イワナ属の4亜種はごく近縁という見方もあるようですが、かなり特徴的な地域個体群が存在する以上4亜種にとどまらず更に細分化して分類すべきなのではないかと思います。
ただ、ルーツの曖昧な個体を放流することに加えて、放流個体と在来個体の交雑はかなり深刻な問題だと思います。
先に述べた仙見川の天魚を見ると事の深刻さがよく分かると思います。現在仙見川を含む阿賀野川水系では当然ですが天魚の放流など行われていないにも関わらず天魚が釣れ続けています。これは昔放流された天魚が山女魚との生存競争に勝ち続けているのか、山女魚と交雑し朱点という体色の特徴を残しているのか。いずれにしても(国内)外来種が在来生物に干渉している事実は残るわけです。
在来種とはっきり判別する術があればC&Rは善であると断言出来るが、そもそも在来岩魚の資料が少なすぎて判断材料に困り果てているのが現状の種の保全における課題でしょうか。
しかし、林道の整備により源流域へのアクセスも容易であり、大型の養殖岩魚を源頭放流している個人までいる様な現状で果たして在来岩魚など残っているのでしょうか。
かつての「幻の魚」は今と昔ではその意味合いが大きく変わってしまったのかもしれません。
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