ぽっぽぶろぐ

まだまだ謎の田園主婦・ぽっぽ(水須ゆき子)です。
題詠blog2008参加中。

【017:医】富田林薫さん

2006年03月31日 | 宝石箱
美男子で医者の息子で金持ちで背も高いけど指が嫌いだ/富田林薫


そいつはダメです。
過労死か浮気か家庭内暴力か、
財産をめぐる骨肉の争いが待つだけよ。(笑)

富田林さんの歌、
どれも楽しいですね。勢いがあります。

どんな指かな。
こういうこだわりってあるよね。
言い切っているところが凛々しくて、
でも未練を振り切るみたいで可愛い。

【017:医】鈴雨さん

2006年03月31日 | 宝石箱
手術後の写真を吾に透かしつつ「完璧だな」と医師つぶやきて/鈴雨


おそらく、
レントゲン写真ではないでしょうか。

「写真を吾に透かしつつ」が、
ちょっと分かりづらかったのですが、
患者(吾)に向かって写真をかざすようにしているとか。
でもそれだと「写真に吾を透かしつつ」になるのかしら?(悩)

まあ、
そういう細かい点はともかく、
ポイントは下の句の医師のつぶやきですね。

「完璧だな」

自分の腕前に惚れ惚れしている。
写真に透かされた吾がオブジェのように見えました。

どこの写真かによって、
ギャグにもなりそうですけれど。(整形美容とか)
でもこの歌は静かですから。それは読み違いかな。

言い差しで終わる結句は、
普通はあまり良くないのですが、
この歌では成功しているような気がします。
「医師つぶやけり」では完結しすぎちゃう。

【017:医】船坂圭之介さん

2006年03月31日 | 宝石箱
謀られて此処に居るかやさむき午後の医院の窓にひとつ飛ぶ蠅/船坂圭之介


「医」
医療というものに対する、
賛否両論の歌が多く見られました。

その中でこの船坂さんの歌は、
現時点で私のベストです。歌の姿も内容も。

ひとつ飛ぶ蝿は、
実景かも知れませんが、
詠っているのは蝿のことではない。

私もかつて、
半ば謀るように実父を養護施設に入れました。
里帰り出産をして十日後ほどのことでしたね。

それでも、
父の首に回したタオルを引き絞るよりは、
良かったはずだと無理矢理信じています。
もう亡くなってから四年近くが過ぎました。

どうにもならないことがある。
それをそのまま切り取った歌だと思いました。

【016:せせらぎ】ことらさん

2006年03月31日 | 宝石箱
夏宿の窓を放てばせせらぎの上に煌めく黄金律は/ことら


黄金律、
私は黄金分割と間違って覚えていました。(^_^;)

聖書の言葉なんですね。
「人からして欲しいと思うことのすべてを人々にせよ」

それをこの歌に当てはめて読むと、
うーんむずかしいなー。(笑)

でも、
すごくきらきらしててね。
この世の存在するであろう善きことの欠片たちが、
せせらぎの上で跳ねているような。

少なくとも、
作者にはそう見えたんじゃないかしら。
信じることを忘れない心の強さと明るさに一票。

【016:せせらぎ】しゃっくりさん

2006年03月31日 | 宝石箱
人工のせせらぎを聞く春の日やブルーテントは一掃されし/しゃっくり


人工のせせらぎの歌も何首かありました。
その中で最も異色だったのがこの歌。

「春の日や」の切れ字(詠嘆)の後、
下の句でいきなりブルーテントが出て来ます。

状況は分かりませんが、
私が思い浮かべたのは工事現場、
あるいはホームレス居住区跡地。
「一掃されし」の語調の強さから見ると、
後者かも知れません。違っていたらごめんなさい。

作者が聞いたこと、
見たことを説明なしに並べてある歌なので、
余人は踏み込めない感があります。
分からなきゃ分からんでもいい、ということなのかも。

でも、
もうないブルーテントの青が目に刺さる。
こういう歌も面白いなと私は思いました。

【016:せせらぎ】春畑 茜さん

2006年03月31日 | 宝石箱
逆光に釣り上げられて束の間をせせらぎの上(へ)に魚が歪めり/春畑 茜


「せせらぎ」
浅い瀬などを水が流れる音。また、その所。小川。小流。
と広辞苑には載っています。

この言葉自体が既に詩的なので、
改めて使い直すのが難しいお題でした。
手を入れにくいんだよね。(^_^;)

さて、春畑さんの歌。
たおやかな力技、という感じ。

第三句の「束の間を」で、
主語が重なりながら入れ替わっています。
それまでは魚、それ以降は作者になる。

こういうことを力みなくこなして、
歌は影を背負いつつも清らかに明るい。
作者の画像処理の腕を感じました。一瞬の春。

【015:秘密】やすまるさん

2006年03月30日 | 宝石箱
君により花の秘密は隠されたミントブルーのジャケットの裏に/やすまる


現代の花守の制服は、
ミントブルーなのでしょうか。
羽織袴よりは軽快でいいやね。(^^)

どういう状況なのか、
実景なのか比喩なのか、
全く分かりませんが色が綺麗。

「花」の部分を、
他の言葉に置き換えたら別の歌にもなります。
ちょっと近いような気もしたんだな。花とミントブルーは。

【015:秘密】佐藤紀子さん

2006年03月30日 | 宝石箱
母われに秘密いくつか持ち始め娘が少し美しくなる/佐藤紀子


生活の歌を素直に詠まれる佐藤さん。
今年はひと味違いますね。ひそかに注目しています。

母の目というか、
女の目を感じたのは、
「少し」美しくなるという下の句。

花は突然咲くわけではない。
少しずつ開いてゆくのです。
それを敏感にとらえている。

多分お母さんは、
娘さんに何も告げていないはず。
告げないままただ見つめている。

これは、
ある意味で非常に怖い視線です。(笑)

でもお母さんは、
娘さんを監視しているのではない。
見守っているのです。大事な人ですから。

うちの娘は、
まだ背中からシャツがはみ出ても平気なちびですが、
やっぱりそのうちこういう時期が来るんでしょうね。

その時はせいぜい、
ネタになってもらいましょう。(こらこら)

【015:秘密】本原隆さん

2006年03月30日 | 宝石箱
バラしてもあまり痛がらないことを選んで出したあたりが秘密/本原隆


「秘密」
言葉の意味は定まっていますからあとはどう使うのか。
どんな秘密が出て来るのかなと楽しみに拝見しました。

さて、本原さん。
「秘密のはずなのにみんな知ってた」
という歌は他にもありましたが切り取り方が巧いです。

逆転の発想、
とでもいうのかしら。
本物の「秘密」なら誰も知らないはずだもの。

「これ、秘密だよ」
と前置きされた話の中身は、
こんな風に選ばれて耳打ちされるのでしょう。

広辞苑には、
「かくして人に知らせないこと」と載っていますが、
それは秘密という言葉の建前。実体はこちらですね。

痛い話は、
それぞれの胸の内に。

【014:刻】振戸りくさん

2006年03月30日 | 宝石箱
タマネギと一緒に刻み込んだから涙と私の味がするはず/振戸りく


刻むもので一番多かったのがネギ。
その中から今回はこの歌を盗んで来ました。

通り過ぎそうになって、
引き返したんですよ。「私の味」って?

涙は私の味、
みたいなことはよく聞きますけど、
涙と私の味ですから。これはホラーか!と。(笑)

指、切っちゃったのかしら。
それも涙と一緒に混ぜて食べさせちゃった。

一見かわいらしくて健気な歌ですが、
実は現代の魔女の歌かも。手料理って怖いわね。

【014:刻】おとくにすぎなさん

2006年03月30日 | 宝石箱
使い分けできないひとがほそい線ばかりで刻む版画のウサギ/おとくにすぎな


おとくにすぎなさん、
いい歌が多いですね。やっと盗んで来られました。

現実に即して読めば、
「使い分けできない」のは彫刻刀でしょう。
だから同じ種類の細い線だけでウサギの絵を刻んでいる。

頑固で不器用。
一途なのかも知れないし、
めんどくさがりやなのかも知れません。

でも、
もし全てを比喩と取れば、
ウサギの版画に重なって見えて来るものがある。

使い分けができない彫刻刀は、
生き方の象徴なのではないでしょうか。
歌の中では一言も彫刻刀とは言っていませんし。

作者の視線は、
それを決して非難していない。
冷静に眺めた上で見守っている気がします。

細い線だけで版画を彫るのは大変ですけど、
出来上がりは綺麗でしょうね。ふわふわのウサギさん。

【014:刻】なかた有希さん

2006年03月30日 | 宝石箱
指先に金平糖の刻印をのこしたまま午後二時の数学/なかた有希


「刻」
いろいろと応用の利く言葉ですね。
いいなと思う歌がたくさんありました。

さて、
なかた有希さんの歌。
金平糖の甘さと第四句の字余りなど、
若さを感じさせながらも老成した雰囲気がある。

定型を充分に意識しているからでしょうか。
言葉選びが慎重で巧い。「のこしたまま」の仮名遣いも。

それでも、
変に作り込んだ重さは感じません。
歌の中に風が吹いているようで。午後二時の永遠、かな。

【013:クリーム】KARI-RINGさん

2006年03月29日 | 宝石箱
間違いなく恋愛感情はさまずにたっぷりクリーム落とすコーヒー/KARI-RING


題詠マラソンの頃から、
毎年いろいろな方にお会いすることができましたが、
今年は懐かしいお名前を拝見することができました。

KARI-RINGさん、
お久しぶりです。お元気でしたか?(^^)

「間違いなく」という初句の、
ちからいっぱいな否定が可笑しい。

これは多分、
恋に落ちてはいけないという自制ではなくて、
恋になんか落ちるわけがないという確信でしょうね。(笑)

そして下の句。
「クリームたっぷり」の方が流れはいいかも知れませんが、
とにかく自分の好きなように味を調えてコーヒーを飲む。

ブラックを気取る必要はない。
ありのままの自分を出しても恥ずかしくない。

テーブルの向こうに座っているのは、
気の置けない戦友のような異性なのかも知れません。

夫婦も長く暮らしていると、
まるで兄妹か姉弟か友達のようになりますけれど、
「間違いなく」と念を押すことはまずありません。
そこに微かな緊張感が残っていてうらやましいな。