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古今東西のアートのお話をしよう

欲望の資本主義 その2




引き続き、セドラチェクの話し。


セドラチェクは、「欲望」について、オーストリアの精神分析家メラニー・クライン(1882〜1960)に触れている。


メラニー・クライン


彼女は、欲望にまつわる「羨望」「嫉妬」「貪欲」をこう定義している。

『「羨望は、自分以外の人がなにか望ましいものをわがものとしていて、それを楽しんでいることへの怒りの感情であり―羨望による衝動は、それを奪い取るか、損なってしまうことにある」 嫉妬は、「羨望に基づいているが、少なくとも二人の人物の関係を含んでいるものであり、主に愛情に関係していて、当然自分のものだと感じていた感情が、競争者に奪い去られたか、奪い去られる危険があると感じることにある」 貪欲は、「その人が必要とする以上のもの、相手も与えることができ、与えようと思っている以上のものを望む、激しいあくことを知らぬ渇望である」』

SNS空間では、他者の生活と自分の生活が身近に比較され、「羨望」「嫉妬」の感情を刺激し、「貪欲」を加速させる。

「マウンティング」「自己承認欲求」「誹謗中傷」…
まさに、欲望のダダ漏れ状態だ


さて、
セドラチェクは、「経済は成長し続けなければならない」という常識に対しても疑問を投げつける。



セドラチェク


先進国の経済が成長しないのは、
「皆がアイパッドを2台持っていて、3台目はただでも欲しくない状況にあるのではないか。誰も欲しがらないものを作っても意味がないから、そんなに働かなくてもいい。経済が成長しないのは、これ以上成長する必要がないから。」

「子供は成長すると背が伸びるが、大人になっても、もっと成長しようと栄養をとると横に醜く太るだけだ…」
とセドラチェクは言う。


また、GDPの230%もの財政赤字を抱える日本については、
「銀行から100万円借りて、100万円もお金持ちになったというのは馬鹿者だけだが、例えば政府がGDPの3%の国債を発行(国の借金)して、GDP1%の成長をすると、官僚たちはシャンパンを開けてお祝いしている。」と警告する。


「アベノミクス」は、営利を追求する企業の自由競争を促進し、成長を目指す市場経済市場主義。積極的な金融緩和政策(ゼロ金利政策と国債発行による調達)で、富めるもの(主に大企業)が富めば、貧しいものにも自然に富がこぼれ落ち、経済全体が良くなるという新自由主義の経済政策によっていたが、結果は、富めるものがより富む、企業格差、所得格差が進み、現在の低賃金、円安、物価高の要因となった。


発表された最新の「国民経済計算」をみると、現在の日本の状況がよく分かる。


コロナ前の19年10〜12月を100として直近と比較すると、実質GDPが100.2、実質国民所得は98.3となっている。働いた量は増えたが所得は減っている。輸入価格の上昇により所得が相殺された為。

22年1〜3月期の分配面を見ると、雇用者報酬(賃金)100.2に対して、営業余剰(企業収益)109.4で、未だ企業は収益を賃金に還元していないことがわかる。また、家計可処分所得は103.5に増えているが、消費は99.2に減っており、貯蓄は174.8に激増した。
これは、将来に対する不安のあらわれと考えられるが、欲しいものがない、買いたいものがないという需要の飽和状態もあるのではないか…

新自由主義、市場経済至上主義は、世界的な環境問題、途上国格差、国内では、所得格差、地域格差などの「市場の失敗」をもたらした。

しかし、一方では、増え続ける社会保障費、国債の金利支払、安全保障の原資を得るため成長が必要である。



資本主義は、資本の自己増殖を良しとし、欲望を無限増殖させる
システムですが、

今こそ、我々は、
何が幸せなのか、
どんな世界を目指すのか…


哲学が必要な時期だと思う







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