御鏡壱眞右往左往

繰言独言、謂いたい放題・・・

虚しい「回答」

2006-10-25 22:40:06 | サイエンス?
まず簡単に解説しておこう。

昨年11月に、ロシアのイリーナ・エルマコバ博士が
予備的試験として自身の研究成果を発表したのだが、
その内容というのは
「GM大豆粉を与えたラットから生まれた子どもは、非GM大豆や対照餌を与えたラットの場合に比較して死亡率が高く成長が遅い」
というものだった。

これを受けて、今年6月から8月にかけて、
遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンを主催する天笠啓祐氏らが
エルマコバ博士を招致して講演会の全国行脚を敢行している。
その際に様々な疑問や質問が提示されたのだが、

”時間がないので(←主催者コメント)”第3回目以降講演会の席上で質問の時間は設けられず、
質問に対する回答は後日、ということになっていたそうな。


で、その回答がここに公開されているわけなのだが・・・・・・


はっきり言って読んでいて苦しくなった。

・・・笑いを堪えるのに。

いくつかピックアップしてみよう。

「Q1 使用した大豆は生か加熱か」
これまで起きたさまざまな事件と同様、バイテク企業が動いたものと思われます。
(これを言っては議論ができない。思い込みだけで議論を打ち切る暴挙に等しい。)

「Q2 GMOの影響を見る動物実験では、どのような論文が出ているのか」
同じような実験を行うのが筋だと思うのですが。
(そのとおりであるが、実験を再現するために必要な情報の開示が不十分であり、実験のデザインができない。)

「Q3 博士の実験は否定されているのか」
実験事実を否定しているわけではなく、GM以外の他の要因も考えられる、としてさらなる情報を提供するように求めています。
(上に同じ。その求めに対し情報を提示できていないわけで、ある意味語るに落ちている。)

「Q4 エルマコヴァ博士が追試験をしても科学界に通らないのか」
エルマコヴァ博士の実験は、最初の試行錯誤の段階です。他の研究者が同様の試験を行うことが必要で、それによって初めて客観的な評価が得られると思います。
(と言う割には講演会等では明らかな事実として確認されたかのような強い論調であったように感じられる。今回の実験結果には客観的な評価は得られていないと言う判断でよいのか。)

ところが現在、そのような方はなかなか出てきません。(中略)なぜなら、必ず企業からの妨害が入るからです。
(まず第一に実験内容の詳細な情報が無いことには再現試験にならない
 =実験してもその結果がエマルコヴァ博士が今回示した実験結果を否定あるいは肯定するための材料になり得ない。
 第二に、これだけ情報ネットワークが充実した世界において、一企業が言論を封殺することなど可能なのだろうか。
 逆にいえば今回の試験程度の内容が世界に発信されていることを考えると、逆説的であるように思われるが…。)

「Q5 GM大豆の影響は、プラスミドが要因なのか」については全くの議論のすり替え。質問に対する答になっていない。書かれている内容については考慮する余地のある問題であるが、質問とは直接的な関係は薄い。

「Q7 GM作物は世界で消費されているが、これまで影響は出ていないのでは?」
インドのアンドラプラデーシュ州でGM綿を収穫した後の畑に放牧された羊が1600頭死んだケースがあります。原因は不明ですが、農薬の可能性が薄いことから、GM綿の影響と見られています。
(このようなニュースはきちんと記録し、継続して観察していくことが必要である。ただし、原因が他にあることが明確になったならば、その情報も正しく伝えられなければならない。「原因不明」を都合よく利用してはならない。)

「Q8 加熱しても組み換え遺伝子は検出されるのか」は明らかなタイトルの間違い。質問の主旨は、加熱しても何らかの遺伝子組み換えによる生産物が残るのかを問うており、回答者もタンパク質や、なぜかプリオンのことまで述べているが、遺伝子(遺伝情報あるいは遺伝物質)については触れていない。ただ、このように間違ったタイトルを掲げること自体に作為的なものを覚える。勘繰りすぎであってほしいが…。

「Q18 安全な食品を食べるにはどうしたらいいのか」
Q 生の野菜をよく食べるのですが、除草剤や農薬も気になります。
A もっともよい方法は、有機農業で作った野菜を入手されることです。
(有機農業で生産されていた昔は、野菜を生で食べることは無かった。必ず加熱するか、日に当てるなど加工してから食べていた。危険だったから。)

「Q19 GM作物の人体への影響は?」
GM作物がどのような影響をどのような形でもたらすかといった課題も未解明ですし、作物の組み換えDNAやそれが作り出すタンパク質がどの程度で影響を及ぼさないようになるかといった問題も未解明です。
(これは基本的に正しい。しかし同時に悪影響があるかどうかも未解明であることには触れていない。悪影響が無い可能性は高い。)

「Q23 日本政府はどうしてGM作物に慎重に臨まないのか」
慎重というより、むしろ推進の立場をずっととってきました。その底流には企業の利益優先という立場があると思います。
(↑これを妄想と言う。)

「Q25 医薬品を作り出すというGM技術の現状は?」
医療には多少のリスクを受けても、病気の原因がわかるなどの恩恵(ベネフィット)の方が大きければ必要だとする「リスク・ベネフィットの考え方」があり、それによって得る利益と危険性を秤にかけて考えて見る必要があります。
(何故医療に認めて他に認めないのか。ダブルスタンダードでは?)


正直、頭が痛くなってきた。
既にこの実験の問題点は様々な場面で指摘されてきている
(そしてその内容の多くはネット上に公開されている)
にも関わらず、それらの内容については一顧だにされていない。
なんと言っても、
「バイテク企業が動いた」が説明になっているようじゃなぁ・・・

未だに企業が悪で、消費者運動が善などという単純な図式が
彼らの脳内では成り立っているのだろうか。
それとも、方便のつもりなのだろうか。

事実と道理に立っているかどうかで善悪を判断するのであって、
立場が善悪を決めるのではない、という程度の認識は
いまどき小学生でも持っていそうなものだと思うのだが・・・


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