
8月のある暑い日に、久しぶりにその友人から電話があった。
まもなく9月だね。秋が来るんだなあとか、やたらと前置きが多い。
これは何かあるなと察したが、途中から急に長野愛知方面の話になり、「あの店に行きたいな」と言い出した。
あの店とは5年前の紅葉の時期に、信州から名古屋方面に一緒に4泊5日で車で出かけた時の、第一日目に寄った安曇野の店である。思えばインターチェンジを降りてすぐの所で、昼食をした店だ。
2時という時間でお腹がすいていたから、近くで名前の知っている店に入った。彼はその店にまた行きたいと言っているのだ。
遠くてなあと答えると、違うよと返ってくる。よく話を聞いてみると、要はあの安曇野と同じ店がこの私の町にもあるから、そっちへ行って同じチェーン店に入りたいということだ。
彼がその店を気に入ったのも無理もないのかなとよくよく思ってみた。応対が非常に良かった。
このような山の方には適当な一流企業の働き口が少ないんだろうなと、食事しながらその時思った。それでこういうお嬢さんも普通のレストランに勤めているのだろうと思う。
言葉がすてきで、笑顔が非常に良かった。そのうえ美人。
彼女以外の他のスタッフもまた同じような感じである。
だからそのイメージが残照として5年近く過ぎた今もあるので、また行きたいと彼は言っているのだ。
その日は大町温泉に宿泊したが、翌朝もケーキを食べに寄ったら私ら二人を彼女らは覚えていてくれて、明るく応対してくれた。
途中、店に来る前に開店直後の大王わさび園に寄った。
わさびは水の助けが大きいと今さらのように気づく。人間にも同じことが言えるんだろうなと、しみじみ思う。
このレストランはわが町にも同じ店はあるけれど、応対は格段の差のような気がする。頭ではわかっていても、やはり旅の残照の良さがあるから、彼はそれを大切にしたいのだろうと思っているのが私にはよく理解できた。
旅ってそういうものなんだろう。
またいつか安曇野に一緒に行く機会があったら、その店に行ってみよう。ぜひ寄りたい。
一緒にではなく、一人ででも寄るかもしれない。
いい店って、そういうものだと思う。
「心に残る旅(10)安曇野のあの店」









