あべっちの思いをこめた雑記帳

素朴な朝市と川沿の昼神温泉

 

 広いとは言えるほどの川幅ではないが、一面は白い石におおわれている。その間をぬぐうように、お情け程度に水が流れている。川の流れというよりも、それは気持ちほどの水の行方と表現したほうがいいのかもしれない。よく見ないと、たとえば車の中からなどだと気づきにくいほどの川水の情景。

 両岸には新旧入り交じった宿が点在し、夕刻ともなると浴衣姿の散策も目にうつる。秋もいよいよ深まり、あたりは赤や黄の紅葉が目立ちはじめている。
飯田方面から行くともう少しで愛知県、右折すれば長野県南の妻籠になろうとするこの地。そして岐阜県とも隣接する。
 昼神温泉とはどなたが最初に名付けたのかは知らないが、私の好きな温泉の一つだ。今回はちょうど5年ぶりの訪湯となった。

 私の住む関東では渓流沿いの温泉というのがいくつもあるが、鬼怒川や塩原やみなかみ温泉のように、ほとんどがその川面の位置と温泉街の地面にかなりの段差があるのが普通だけれど、この昼神はまわりの温泉街の土地と川の面の高低差があまりない。だから珍しいというか、関東に住む私には興味のある温泉となっている。
 そして前述もしたが、川に敷かれた白石のきれいさ。誰でもこの地を訪ねたことのある人は、最初はその白い石を美しいと感じることであろう。

 各地にある武田信玄の隠し湯の一つとして昼神温泉は古くから湯治客に知られていたが、明治20年の地震により宿屋は損壊し、その温泉名は消えたらしい。
 ところが昭和48年の中津川トンネル工事中に温泉を偶然に発見し、再度昼神温泉として現在に至っているようだ。

 やや奥地にある今回の宿は、黄に色づいた並木を進んだ所に位置する。近代的な設備を有し、その庭園も見事であるが、なんといってもこの宿の魅力はお風呂であろう。
 大浴場・露天風呂の先に170mもある洞窟を有するが、その入口には4~5mくらいの奥行きのある珍しい洞窟風呂がある。閉鎖していたのでそのことをフロントで尋ねたら、コロナ禍の影響で換気その他の理由からしばらくの間は入ることはできないとのこと。それでも温泉好きの人には満足できるほどの大浴場と露天風呂の湯量とスペースを持ち合わせている。

 そしてこの昼神の良さに朝市を忘れてはならない。
 さして規模は大きいとはいえないが、温泉街、山並みなどの風情を抱き合わせ、旅の心をきっと癒してくれること間違いない。朝市を散策したらぜひ地元のおばあちゃんやおじいちゃんの売り子さんとも飾り気のない田舎の言葉を聞きながら、会話をしてみたいものである。こういうことが旅のもつよろこびの要素にもなっている。
 おばあちゃんの楽しい会話につられて、水引のストラップを6ケも買ってしまった。みんな柄や作りが違って2000円とはかなりのサービスである。値札は1ケ500円なのに、会話をするたびに料金は下がっていく。
 奥地のひなびた所でありながら、遠いけどまた来てみたいと帰りの車の中でふと思った。

(令和2年10月末の旅行記)

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