あべっちの思いをこめた雑記帳

ある女流作家の自伝を読んで

 前田栄子さんという人に関しての本を読んだ。ある女性作家が約20ページくらいにわたり、その彼女への思いを綴ったものである。
色白で小柄でけっこうの美人だったらしい。でもそういうことではなく、彼女の優しい人柄と生きる姿に感動したとのこと。

 彼女は大阪の人のようだ。19歳で親を亡くし、家業の医院を継いだ。といっても医師の資格はないので、経営と受付▪事務をやったらしい。
 誰にも優しく接し、たちまちその大阪の医院は評判になった。著者ともその頃にはだいぶ親しくなっていたようだ。午前中は医院で仕事、午後は雑用や習い事。そして夜はまた医院で働く。

 ところが彼女が40歳頃に、大阪市内の2度目の空襲の時にその医院は全焼した。それからが地獄の道のり。
 終戦間近に佐賀県にいた時の空襲で、一緒に壕にいた兄夫婦は即死。自分は左手が重傷、顔もすごい火傷を負った。そして長兄も戦死していたことを間もなく知った。
 それでも彼女は苦難からはい上がり、大阪で貧しくも生きてきた。
その後、平成元年1月、朝ごはんのお粥を近所の人が持って行ったら、アパートの一室で彼女はふすまにもたれ、冷たくなっていたようだ。前の日には「風邪で食欲がない」などと話していたとか。

 死後、彼女の残された部屋の遺品の中に、その作家からの手紙72通が見つかった。そしてその中には「人生ですばらしい人にめぐり会った」という内容のものも。その作家は、あらためて自分で出した手紙を目にしたのである。

 さらに、その栄子さんの書いた文章も出てきた。
 やはりその作家のことを、すばらしい一生の出会いのような文面がありありと残されていたとのこと。と同時に、生涯独身を通した彼女の40歳の時の記録には、20代で戦死した思いをこめた人がいたことがしみじみと語られていたものも見つかった。

 それほどまでも栄子さんとその作家との、長期間のつながりや心の優しさを知って、私は何とも言えない人間のうれしさを感じた。

           「つれづれ(101)ある女流作家の自伝を読んで」

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