世の中には不思議な人が多いであります。
「そういうお前が一番変だ。」
という外野からの声はこの際水に流して、
私の人生の中で度々遭遇してきた
不思議くん、不思議ちゃんについて書いてみたいと思います。
まずは、なっちゃん。
小学校5、6年生のときに同級生だったなっちゃんは、
サリーちゃんの親友よし子ちゃんをインドネシア産にしたような女の子だった。
なっちゃんの生い立ちは、当時11年という長さにもかかわらず、
ど演歌という樽の中でこれでもかぁっというほど
島倉千代子味に漬け込まれたスパルタ演歌ものであり、
彼女に起こった様々な出来事を語らせたら、
それだけでみのもんたの電話相談コーナーの特番が
簡単に出来上がってしまうこと請け合いで、
しかしそういった話は全て頼んでもいないのに
彼女自身の口から無理矢理に聞かされたものであるので、
信憑性のほどは恐ろしく脚色されているのではないだろうか、
というものであるのですが、しかしそのインパクト性にかけては
忘れじの君ナンバーワン。
なっちゃんの摩訶不思議な逸話の中でも突出していたのが、
なっちゃんのお父さんは、プロボクサーだった。
このボクサー父ちゃんというのが、すさまじく謎にまみれた人物であり、
ある日なっちゃんが丸坊主頭で教室に現れたので、
皆びっくりしてその理由を彼女に聞くと、
「お父さんが、私が寝ている間にバリカンで剃っちゃった。」
となっちゃん。
「えぇええええっ、なんで寝てる間にぃっ?!」
と隣にいた子が更につっこんで聞くと、
「夏だから。」
謎であります。
またある時には、なっちゃんが両手の甲を痣まみれにして登校してきたので、
「どうしたの、なっちゃん、その手?」と心配して聞くと、
「お父さんが。」
「まさかお父さんに殴られたのっ?!」
「お父さんは殴らないよ、絶対に。」
「じゃ、お父さんがどうかしたの?」
「ボクサーの練習に、殴ってくれっていうから。」
「殴ったの?」
「うん。」
「お父さん、平気なの?」
「うん。鼻血が止まらなくなって救急車で病院に運ばれた。」
「えぇえええええっ、大丈夫なの、お父さんっ?」
「大丈夫だよ。プロボクサーだから。」
プロボクサーだから一体何が大丈夫なのかまったく説得力に
かけていたのでありますが、当時小学生だった私達は、
そうかボクサーだから鼻血が出てもあしたのジョーなんだな、
とこれまた意味不明の理解力で納得していたのであります。
しかしなっちゃん、今なら私は思うのだ。
お父さんは本当にボクサーだったのですか?
それともボクサーになりたかった人だったのですか?
農協の窓口で働いているなっちゃんのお父さんを見た、
ついでにお父さんは西はじめのような容姿の人だった、
という度々の目撃証言は、果たしてただの
都市伝説のようなものだったのだろうか?
そしてなによりも、私たちの住んでいた土地は、
プロボクシングという世界からブラジルと日本くらいかけ離れたところに
位置していたという事実は些細な事柄だったのだろうか。
このようになっちゃんは、とても不思議な子でありました。
いじめられッ子では決してなかったのに、
みずから半径3m以内に絵の具を混ぜ合わせたパレットのような、
またはドロロ閻魔くん的なおどろ~な雰囲気を醸し出して
クラスメートをわざと遠ざけているような感があり、
そしてそんな状態を何より本人自らが密かに影で楽しんでいる、
というタイプの子だったように思うであります。
私が彼女と直接にかかわった椿事で鮮明に覚えているのが、
ある日の図工の時間でのことでありました。
課題である版画を製作していた時に、
隣の席に坐っていたなっちゃんがいきなり
「ねぇ、私の秘密知りたい?」と話しかけてきたので、
「え、秘密? う~ん、どうしようかな~。」
と曖昧に答えた私。
「聞きたくないの、私の秘密? 聞かないと損するよ。」
「なんで?」
「だって、怖いんだから。」
「えーっ、怖い話なら聞きたくないよ~。」
「なんで?」
「だって怖いのやだもん、私。」
「やなの? それじゃ~話してあげる。」
「やだよ~、やめてよ~。聞きたくないから、私。」
「あのね、私ね、」
「だぁーっ、やめてってばぁーっ。」
「クラスの子全員のね、」
「ちょっとぉ~やめてよーっ!」
「わら人形もってるの。」
「エ?」
「今日は誰をつつこうかな~。」
謎を通り越してギャグやで、なっちゃん。
しかしその当時その時に彼女から受けたわら人形インパクトは鮮烈で、
その日以降一週間近く、夜ベッドに入ると、
ろうそくを頭に二本立てた丑三つ時の小川真由美のような
なっちゃんの姿が頭に浮かんで怖くてろくに寝付けず、
結果生まれて初めて寝不足というものを経験した私でありました。
なっちゃん、実はもしかしたら、あなたは影に隠れた
とてもパッシブな隠密いじめっ子だったのだろうか?
でもなっちゃん、
どうしてあんな突拍子もないことを言って
みんなを煙に巻いていたのだろう。
そんなことをしてわざと注目を引かなくても、
いつでもみんなの仲間に入れたのに。
不思議ななっちゃん、今どうしているのかな?
どこかの空の下で、幸せに暮らしているといいな。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます