本当の人間関係を学び続ける学徒のつぶやき

人間関係学を学び続ける学徒の試行錯誤

脳血管疾患

2019-03-14 12:43:35 | コラム

 わが国では脳血管疾患は脳卒中と呼ばれ、突然に発症し死または重度の後遺症をきたす救急疾患として恐れられてきた。厚生労働省によれば、平成29年の脳血管疾患によるわが国の死亡数は死亡総数の8.2%を占め、死因順位は悪性新生物、心疾患に次ぎ第3位である。また、脳血管疾患は平成28年の要介護5(寝たきり)となる最大の原因となっている。

 脳血管疾患には主に血管が詰まる脳梗塞と脳内の血管が破れる脳出血がある。脳梗塞には、脳内小動脈病変が原因のラクナ梗塞、頸部~頭蓋内の比較的大きな動脈の粥状硬化巣が原因のアテローム血栓性脳梗塞、心疾患による心原性脳塞栓の3つの病型がある。また、脳梗塞の前触れとして一過性脳虚血発作(TIA)が注目される。TIAは内頚動脈の血栓が離れて脳の小動脈を閉塞して発症するが、すぐに溶解し意識障害は短時間で消失する。脳梗塞の発症は脳出血に比べると穏やかで意識障害も比較的軽いが、閉塞する脳血管によって失語などの高次脳機能障害が出現する。また、回復後も運動麻痺(片麻痺)や高次脳機能障害が残りやすい。脳出血には脳の内部で出血する脳内出血と、脳の表面を走る主幹脳動脈内の動脈瘤が破れるクモ膜下出血がある。脳出血の発症は前駆症状がなく、いきなり半昏睡または昏睡状態となる。クモ膜下出血の場合は突然の激しい頭痛や嘔吐、意識障害などの症状がある。意識障害が重い場合は予後不良で、一命をとりとめた場合も運動障害や高次脳機能障害などの重い後遺症が残る。

 日本脳卒中学会は、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、心房細動、喫煙、飲酒を主な脳血管疾患の危険因子として挙げ、高血圧症を「脳出血と脳梗塞に共通の最大の危険因子」(注1)とし、糖尿病、脂質異常症、心房細動を脳梗塞の危険因子とする。また、喫煙は脳梗塞のリスク、大量の飲酒は脳出血のリスクを高めるとする。そして、医療機関を中心に日頃の食べ過ぎや飲み過ぎ、喫煙や運動不足を慎み生活を改善して高血圧症、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を予防・改善することが、動脈硬化と脳血管疾患の予防につながると広く社会に啓蒙活動が展開されている。

 しかし、生活習慣病の背後には生活者のストレスがある。単に医学モデルの視点で、生活改善を啓蒙するだけではなく、人と環境との交互関係という生活モデルの視点からこの生活者のストレスを捉える必要がある。現代社会ではさまざまな障害や困難を抱えた人に対するセーフティネットやソーシャルインクルージョンが不十分であることが人と環境との関係のストレスになっているのではないか。脳血管疾患の後遺症のため障害を抱えて生きていかざるを得なくなった人の自分自身への葛藤、家族に対する焦燥を我々は自分自身の不安として共有すべきである。そして、障害を抱える人の生存権が十分に保障された社会を構築することこそが、この不安とストレスを軽減し脳血管疾患を含む社会全体の病理を改善することを知らなくてはならない。

〔引用文献〕

(1) 一般社団法人日本脳卒中学会 ホームページ http://www.jsts.gr.jp/jss08.html

   脳卒中治療ガイドライン 2009   p.21 http://www.jsts.gr.jp/jss51.html

   3-1 脳卒中一般の危険因子の管理 高血圧症     http://www.jsts.gr.jp/guideline/021_024.pdf

 

〔参考文献〕

1. 国立循環器病研究センター病院 ホームページ http://www.ncvc.go.jp/hospital/

2. 公益社団法人 日本脳卒中協会 ホームページ http://www.jsa-web.org/

 *「寝たきりにならないために 今日からできる脳卒中予防!」

  http://task-af.jp/wp/wp-content/uploads/2018/03/tool_05.pdf

3. 一般社団法人日本脳卒中学会 ホームページ http://www.jsts.gr.jp/jss08.html

4. 一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 ホームページ

  http://www.seikatsusyukanbyo.com/guide/cerebral-infarction.php

5. 厚生労働省 平成29年(2017)人口動態統計(確定数)の概況

 *第6表 性別にみた死因順位(第10位まで)別 死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合

 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei17/index.html

6.厚生労働省 平成28年 国民生活基礎調査の概況

 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/16.pdf

 *p.29 20 要介護度別にみた介護が必要となった主な原因(上位3位)

7. 厚生労働省 e-ヘルスネット

 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-006.html

8. 「脳卒中後遺症とその治療」竹田信彦 東京⾼輪病院脳神経外科

 https://takanawa.jcho.go.jp/wp-content/uploads/2016/06/6-1_takeda.pdf

9. 「ケアの実践とは何か 現象学からの質的研究アプローチ」

  西川ユミ、榊原哲也 編著 ナカニシヤ出版 2017

   「第9章 リハビリ看護試論 —— 生の意味を問う」 村井みや子執筆 

10. 新・社会福祉士養成講座1 「人体の構造と機能及び疾病」 第3版第4刷、中央法規 2018

11. 新・社会福祉士養成講座7 「相談援助の理論と方法Ⅰ」第3版第4刷 中央法規、2018

 

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿