10月28日、6時47分。私は上野駅の新幹線のりかえ口にいた。
何度かお世話になっている。けれど不慣れなその場所で、ひとり高鳴る心臓の音を聞いていた。
「とき 303号」と書かれた切符を差し込み、無事に改札を通り抜けると、今度は思ったよりも深く長いエスカレーターに不安が過った。
まさかホームにたどり着く前に、乗るはずの電車が発車してしまっているのではなかろうか。
人知れず焦りながら、徐々に見えてくる19番線のホームの発車標に目を凝らす。「とき 303号」の文字を見つけ、強張っていた肩からほっと力が抜けた。
私が初めて〝新潟県〟を意識したのは、服飾専門学生の頃。付き合っていた彼が新潟県の出身だった。
元々は美大を目指していたという彼のデザインする洋服は、発想がクラスの中でも飛び抜けておかしくて、本当にこれ着られる?パターンにおこせるの?と、真面目な服づくりしかできない私はいつもびっくりさせられていた。
自分にはない魅力を秘めた彼を羨ましくも思い、一人暮らしの彼の家で一緒に課題をするのが楽しかった。
彼の実家からの仕送りにはいつも笹団子が入っていて、冷凍庫には常に笹団子が凍っていた。
お腹空いたねと手渡されたそれは、いつ食べても甘く優しい味がした。
新潟駅に着くとその大きさに驚かされた。工事中だったこともあり、步けども步けども目的の場所に辿り着けない。
この日はまず、新潟県立万代島美術館で開催中の「庵野秀明展」を見に行く予定を立てていた。
展示に合わせて〝にいがた〟と〝庵野秀明展〟をもっと楽しむための「街めぐり企画」というものもあるという。街中に散りばめられた「名セリフポスター」を3枚以上写真におさめてツイートすると、オリジナルステッカーがもらえるというものだ。これはファンなら欲しいに決まっている。私もステッカーを手に入れる気満々だった。
10分後。地図の読めない私はすっかり道に迷っていた。新潟駅東側連絡通路掲示板を目指していたはずが、南口広場に立っている。何かがおかしい。
こうなったらあとは勘を頼るしかないと開き直り、我が道を突き進むこと20分、駅をほぼ一周したところで奇跡的に目的のものを発見した。急いで写真におさめ、バス停へ走る。10月も末だというのに汗だくでバスへ乗り込んだ。着いて早々、新潟駅を知ることができた。素晴らしい企画である。
乱れた呼吸を整えながら、そういえば新潟出身の彼もアニメ好きだったな、とどうでもいいことを思う。
彼はエヴァンゲリオンより攻殻機動隊の方が好きだった。キャリングケースに笑い男のステッカーを貼っていた気がする。私は単純なので、そんな彼が好きな攻殻機動隊を、それから間も無くして好きになっていった。
次回【新潟巡り(2)庵野秀明展】