(2493字)
高校の制服を着て巨大SCの中を歩いている。時間になると掃除をしなければいけないと知っているので、近くの喫煙所の中に入り、とりあえずそこを掃除しようかと思う。ただ、自分の今の格好ではまずいかもと一瞬躊躇う。まあすぐ終わらせればいいか……軽い気持ちで中に入ったところをクラスメイトに見られていたらしく、すぐにクラスでもうるさがたが乗り込んできて捕まえられる。
理由を話し放免された後にトイレで小便をしはじめ数秒後、密告をした同級生のT井田が入ってくる。私は小便器にこびりついた汚れを放出される自らの勢いで洗い流すことに集中していたが、一物自慢の彼は気づいた時には隣に並び、こちらのモノをなんとはなしのつもりを装いながらもかなり執拗に覗こうとしていた。期せずして互いが立てる音に包まれる連れションの形を取っていたので、子供じみた見比べ行為も微笑の内に受け取り、全体の雰囲気としては打ち解けつつある、と。まぶたを半開きに気持ちも安らかでいた。
しかしそんな期待をしていたのは一方の思い込みに過ぎなかった。先ほど説明した、掃除のために入ったという話は本当かどうかと、態度をわずかに難化させたことを譲歩の証とはしても、疑り深い性格は根深にも相変わらずの探りを入れてくるのだった。
三人くらいの男と再び制服を着て歩いている。自分はもう三十を越してしまったなどと考え、そう言えばZ河もそろそろ三十路を迎えるのだと一旦胸に落とし込んでみれば、何故だか過剰なほどに感慨が迫るのだ。
目の前に現れた駄菓子屋に入る。手前に並べられた白い袋に入ったモナカを見ているとなかなかに美味そうでもある。隣には赤い餡のはみ出したイラストの書いてあるキムチ餡入りモナカも売っているのだった。五個入りで195円、予想よりも高いと感じた。
部屋に戻るとZ河と合流することになる。相変わらずついついのはにかみ癖に自ら照れている様子でもあり、こちらもかつてからの表情を妙なむず痒い嬉しさとともに迎える。彼は、実は自分もついに三十路になってしまったよと告げようとしていながらも、口にするタイミングをことごとく外しているのだった。少しバツが悪いみたいだ。
私にノートを取り出させ、そこの中に書かれた何かを確認して欲しいようだ。言葉の代わりにこちらに伝えたいことがあるのだろう。いつの間にか近くにあった、以前使っていた自分のカバンから三四冊を取り出す。彼は授業中ろくに勉強もせずにいて、様々な空想に耽っていたりしたとか。というわけで、似た趣味を持つ私にシンパシーを感じていたのだ。
大学ノートを開くと何かのゲームキャラクターのリアルなイラストが描かれていた。よく見るとキャラクターの外枠は太めの黒マジック、中は色鉛筆で塗られている。
私は教員がホワイトボードに記す文字を板書したり、思いついた文章を書いていたつもりでいたが、自作の塗り絵を作っていたことを初めて知る。周りの男達は肩口から覗きこみ、しきりに感心している。何枚かめくってみるとFF8のリノアが首を絞められそのまま体を持ち上げられている画。
危機に陥って彼女は魔女化しようとしているが、その直前の姿だ。太く化け物じみた、血色の悪い腕によって胴体をガシリと抱え込まれ、呼吸も苦しげ。
もう一方の手はリノアの首に掛かり、今にも力が込められようとしている。半透明の皮膚に紫の長い爪、節くれ立ったその手は魔女イデアのものだった。「心臓が握り潰される瞬間に意識を私に飛ばしなさい」とのこと。イデアは多分操られていて、残された意識で彼女も戦っているのだろう。
よく見るとリノアは上着を着ておらず、貧乳にサラシを巻いている。残された力を振り絞り、相手の手を引き剥がそうともがくことによって短いスカートがずり上がりしまい、元々が体を持ち上げられていたせいもあって、下着が見えている。誰かが早速指摘すると皆が「おお」とどよめき、私も少し興奮するのだった。
酒盛りが始まる。缶チューハイをたくさん用意し、漆塗りの黒い一人用座卓を各々の前に置く。旅館の宴会場風、二十畳程度ある部屋の中央に五六人でコの字に座っている状態だ。
飲食店バイトをしていた頃によく来ていた常連客が途中参加し、畳へ直に置かれたアルコール度数8℃のチューハイを開ける。レモン味とトマト味があるようだが、彼は早速トマト味へと手を伸ばす。ぐびりとかたむけるが感じからして大して飲んでいない。傍目では酔いが回るにしても早過ぎると思えたが、直後にはヤケが混じったっぽいやたらな明るさ、少し大袈裟過なくらいの調子で美味いと一言だけ口を開くと、そのまま顔を真っ赤にして寝てしまう。ゴツイ見た目のわりにそんなに酒が強くないんだなあと畳に突っ伏した彼を横目に苦笑しながらも、自分も飲んでみたいという気持ちになる。
酔い潰れた彼の知り合いが来て、こいつはかなり酒が弱いんだとのことをなんとなく弁明調で告げる。蓋が開けられ一口しか呑まれていない、畳に置かれたままになっていたチューハイを取り上げ口をつけるのだった。やはり美味いらしい。再び下に置かれた缶を次に私が手に取り、おっさん二人が口を付けたものかと一瞬躊躇してから、興味が勝りまあいいかと飲んでみることにした。
酸味はせず、まろやかだが何の味か分からない。やがてみかん味だと気がつき、ひらがなの下手な字で缶の表面に「みかん」と書いてあることも確認された。缶を手刀で横に真っ二つにすると中に残った液体も明らかにオレンジ色で、浮いていている果肉からしてもトマトではないのだ。
突然妹が出てきてあの二人がトマトって言うんだからトマトなんだ、お前なんかが勝手に判断するなと突っかかってくるのだった。
私はこんな弾力のあるツルツルの果肉はみかんに違いないだろと主張するが、妹は全くそれを聞き入れず怒りをあらわにする。付き合いきれないと感じ一旦顔を逸らすと同時に、手にしていた缶がなんとなく気になりだし目を向ければ、中身を揺蕩[タユタ]う液体の色は赤でもオレンジでもなく、薄く濁った白色になっていた。
高校の制服を着て巨大SCの中を歩いている。時間になると掃除をしなければいけないと知っているので、近くの喫煙所の中に入り、とりあえずそこを掃除しようかと思う。ただ、自分の今の格好ではまずいかもと一瞬躊躇う。まあすぐ終わらせればいいか……軽い気持ちで中に入ったところをクラスメイトに見られていたらしく、すぐにクラスでもうるさがたが乗り込んできて捕まえられる。
理由を話し放免された後にトイレで小便をしはじめ数秒後、密告をした同級生のT井田が入ってくる。私は小便器にこびりついた汚れを放出される自らの勢いで洗い流すことに集中していたが、一物自慢の彼は気づいた時には隣に並び、こちらのモノをなんとはなしのつもりを装いながらもかなり執拗に覗こうとしていた。期せずして互いが立てる音に包まれる連れションの形を取っていたので、子供じみた見比べ行為も微笑の内に受け取り、全体の雰囲気としては打ち解けつつある、と。まぶたを半開きに気持ちも安らかでいた。
しかしそんな期待をしていたのは一方の思い込みに過ぎなかった。先ほど説明した、掃除のために入ったという話は本当かどうかと、態度をわずかに難化させたことを譲歩の証とはしても、疑り深い性格は根深にも相変わらずの探りを入れてくるのだった。
三人くらいの男と再び制服を着て歩いている。自分はもう三十を越してしまったなどと考え、そう言えばZ河もそろそろ三十路を迎えるのだと一旦胸に落とし込んでみれば、何故だか過剰なほどに感慨が迫るのだ。
目の前に現れた駄菓子屋に入る。手前に並べられた白い袋に入ったモナカを見ているとなかなかに美味そうでもある。隣には赤い餡のはみ出したイラストの書いてあるキムチ餡入りモナカも売っているのだった。五個入りで195円、予想よりも高いと感じた。
部屋に戻るとZ河と合流することになる。相変わらずついついのはにかみ癖に自ら照れている様子でもあり、こちらもかつてからの表情を妙なむず痒い嬉しさとともに迎える。彼は、実は自分もついに三十路になってしまったよと告げようとしていながらも、口にするタイミングをことごとく外しているのだった。少しバツが悪いみたいだ。
私にノートを取り出させ、そこの中に書かれた何かを確認して欲しいようだ。言葉の代わりにこちらに伝えたいことがあるのだろう。いつの間にか近くにあった、以前使っていた自分のカバンから三四冊を取り出す。彼は授業中ろくに勉強もせずにいて、様々な空想に耽っていたりしたとか。というわけで、似た趣味を持つ私にシンパシーを感じていたのだ。
大学ノートを開くと何かのゲームキャラクターのリアルなイラストが描かれていた。よく見るとキャラクターの外枠は太めの黒マジック、中は色鉛筆で塗られている。
私は教員がホワイトボードに記す文字を板書したり、思いついた文章を書いていたつもりでいたが、自作の塗り絵を作っていたことを初めて知る。周りの男達は肩口から覗きこみ、しきりに感心している。何枚かめくってみるとFF8のリノアが首を絞められそのまま体を持ち上げられている画。
危機に陥って彼女は魔女化しようとしているが、その直前の姿だ。太く化け物じみた、血色の悪い腕によって胴体をガシリと抱え込まれ、呼吸も苦しげ。
もう一方の手はリノアの首に掛かり、今にも力が込められようとしている。半透明の皮膚に紫の長い爪、節くれ立ったその手は魔女イデアのものだった。「心臓が握り潰される瞬間に意識を私に飛ばしなさい」とのこと。イデアは多分操られていて、残された意識で彼女も戦っているのだろう。
よく見るとリノアは上着を着ておらず、貧乳にサラシを巻いている。残された力を振り絞り、相手の手を引き剥がそうともがくことによって短いスカートがずり上がりしまい、元々が体を持ち上げられていたせいもあって、下着が見えている。誰かが早速指摘すると皆が「おお」とどよめき、私も少し興奮するのだった。
酒盛りが始まる。缶チューハイをたくさん用意し、漆塗りの黒い一人用座卓を各々の前に置く。旅館の宴会場風、二十畳程度ある部屋の中央に五六人でコの字に座っている状態だ。
飲食店バイトをしていた頃によく来ていた常連客が途中参加し、畳へ直に置かれたアルコール度数8℃のチューハイを開ける。レモン味とトマト味があるようだが、彼は早速トマト味へと手を伸ばす。ぐびりとかたむけるが感じからして大して飲んでいない。傍目では酔いが回るにしても早過ぎると思えたが、直後にはヤケが混じったっぽいやたらな明るさ、少し大袈裟過なくらいの調子で美味いと一言だけ口を開くと、そのまま顔を真っ赤にして寝てしまう。ゴツイ見た目のわりにそんなに酒が強くないんだなあと畳に突っ伏した彼を横目に苦笑しながらも、自分も飲んでみたいという気持ちになる。
酔い潰れた彼の知り合いが来て、こいつはかなり酒が弱いんだとのことをなんとなく弁明調で告げる。蓋が開けられ一口しか呑まれていない、畳に置かれたままになっていたチューハイを取り上げ口をつけるのだった。やはり美味いらしい。再び下に置かれた缶を次に私が手に取り、おっさん二人が口を付けたものかと一瞬躊躇してから、興味が勝りまあいいかと飲んでみることにした。
酸味はせず、まろやかだが何の味か分からない。やがてみかん味だと気がつき、ひらがなの下手な字で缶の表面に「みかん」と書いてあることも確認された。缶を手刀で横に真っ二つにすると中に残った液体も明らかにオレンジ色で、浮いていている果肉からしてもトマトではないのだ。
突然妹が出てきてあの二人がトマトって言うんだからトマトなんだ、お前なんかが勝手に判断するなと突っかかってくるのだった。
私はこんな弾力のあるツルツルの果肉はみかんに違いないだろと主張するが、妹は全くそれを聞き入れず怒りをあらわにする。付き合いきれないと感じ一旦顔を逸らすと同時に、手にしていた缶がなんとなく気になりだし目を向ければ、中身を揺蕩[タユタ]う液体の色は赤でもオレンジでもなく、薄く濁った白色になっていた。