瓦斯の暖炉に火が燃える
ウウロン茶、風、細い夕月
――それだ、それだ、それが世の中だ
彼等の欲する真面目とは礼服の事だ
人工を天然に加へる事だ
直立不動の姿勢の事だ
彼等は自分等のこころを世の中のどさくさまぎれになくしてしまつた
曾て裸体のままでゐた冷暖自知の心を――
あなたは此を見て何も不思議がる事はない
それが世の中といふものだ
心に多くの俗念を抱いて
眼前咫尺の間を見つめてゐる厭な冷酷な人間の集りだ
それ故、真実に生きようとする者は
――むかしから、今でも、このさきも――
却て真摯でないとでないとせられる
あなたの受けたやうな迫害をうける
卑怯な彼等は
又誠意のない彼等は
初め驚異の声を発して我等を眺め
ありとある雑言を唄つて彼等の閑な時間をつぶさうとする
誠意のない彼等は事件の人間をさし置いて唯事件の当体をいぢくるばかりだ
いやしむべきは世の中だ
愧づべきは其の渦中の矮人だ
我等は為すべき事を為し
進むべき道を進み
自然の掟を尊んで
行住坐臥我等の思ふ所と自然の定律と相もとらない境地に到らなければならない
最善の力は自分等を信ずる所にのみある
蛙のやうな醜い彼等の姿に驚いてはいけない
むしろ其の姿にグロテスクの美を御覧なさい
我等はただ愛する心を味へばいい
あらゆる紛糾を破つて
自然と自由とに生きねばならない
風のふくやうに、雲の飛ぶやうに
必然の理法と、内心の要求と、叡智の暗示とに嘘がなければいい
自然は賢明である
自然は細心である
半端物のやうな彼等のために心を悩ますのはお止しなさい
さあ、又銀座で質素な飯でも喰ひませう
検索用・片山千恵子