姉さんパロロワなんたら

某GR2のあの人のブログ2代目ー今度こそロワの雑感などかなりゆるくーいきますー。後は自分ロワは公開しますですー

Seven Curses/ヨルイロノヒトミ

2009-09-27 21:54:46 | 自分ロワ用
久々の姉!w
第34話です。
孤高氏からの贈り物です。
この場において限りない謝意を
有難うございます!
感想お待ちしておりますです


【Seven Curses/ヨルイロノヒトミ】


闇夜に煌々と輝く丸い月が乱立する鈍色のビルを物言わず見下ろしている。

天空に浮かぶ月も星も雲も普段と何ら変わることのない様相を示しているのに、
大地に根付いた高層ビルはその窓から一切の光を失っていた。
時刻は日付が変わった頃、深夜とはいえ普通の街なら窓にオフィスの光が漏れているはずである。
だがもの言わぬ闇に落ちた街はその一切の光源を失くしていた。

「…………」

無人の街を一人歩く赤毛の少女は無言で頭上を見上げる。
窓からは何の光も見当たらないのに、ビル屋上に設置された航空障害灯の赤い灯火が不気味に明滅を繰り返している。
まるで一種の儀式のような光景。

この島に呼び寄せられた人間は神に捧げられた供物。
窓からの光を失った真っ暗なビルは燭台。
屋上の航空障害灯は燭台に灯された蝋燭の火だった。

ぞわりと悪寒が背筋を駆け巡るのを感じ、彼女は頭を振ってそれを振り払う。
そして右手に握り締められていたモノを見て彼女――向坂環は深い溜息を吐いた。

ずしりとした金属の質感。
プラスチックで出来たおもちゃとは比べ物にならない圧倒的な存在感。
人を効率よく殺すために作られた武器――銃。

環が手に入れたものは拳銃が一挺とそのカートリッジが十個。
さらに銃身が長い狙撃用のスナイパーライフルが一挺と弾薬が五十発。
そしてサブウェポンとして使えと言うのだろうか、一振りの鋭利なサバイバルナイフだった。


「“当たり”か――」


もし、自分が“当たり”を引けていなければそんな覚悟をしなかっただろうか?
これがおもちゃの銃なら罪を犯す決意をしなかったであろうか?

否、“当たり”を引けても引けてなくても彼女の覚悟は変わらなかっただろう。
あの悲惨な光景を目の当たりにしてしまったのだから。
たった――たった十分と経たぬ時間で七人が死んだ。
死んだ誰もが自分とそう年の変わらぬ少年少女達だった。


突然の死の足音に何も出来ないまま死んだ少女。
死の恐怖を恐れ「死にたくない」と生を渇望した少女。
死の運命を受け入れ、両親に別れの言葉を告げた少年。
能面のような表情の下に僅かながら哀しみの色を湛えて死んだ少女。
これから死ぬというのに和やかに笑い合い、親友に想いを託し逝った少年達。
そして、頼りなさそうな幼馴染の少年を笑顔で励ました少女。彼女の最期の言葉は彼に届いたのだろうか。


降り注ぐ血と怨嗟と絶望と哀しみの声が環の耳にこびりついて離れない。
もし自分があの中に入っていたらどうしていただろうか。
限られた時間の中で何を遺すことが出来たであろうか。

そして……これがやがて自分達に訪れる運命。

少し頼りないところが放っておけない幼馴染の少年。
実の妹のように自分を慕ってくれた幼馴染の少女。
馬鹿だけど大切な実の弟。
いずれ彼らはお互い別の道を歩みだす。いつまでの一緒にいられることができないなんて分かってる。
だけど……だけどこんなつまらないことで別れることだけは許せない。許すわけにはいかない。

七つの死は環の心に暗い影を落とす。
七つの想いは環の心を縛る枷。
七つの呪いは環を悲壮な決意へと導く。

「タカ坊……このみ……雄二……馬鹿なお姉ちゃんでごめんね……」

環の瞳に昏い光が灯される。
そして彼女の背後から声がした。







朝倉音夢は一人無人の街を歩いていた。
目に涙を浮かべてとぼとぼと歩く。
たった今しがた友人を目の前で失ってしまった。
目の前で「死にたくない」と涙を浮かべて哀願し死んだ水越眞子。
そんな光景を前に何もできず立ち尽くしだけだった音夢。
無力感と眞子を見殺しにしてしまった罪悪感が音夢を苛まさせる。

「ごめん……眞子、私何も出来なかった……」

溢れそうな涙を堪え、音夢は一人の名を呟く。

「兄さん……」

その名を唱えると幾分か心が晴れやかになる。
義理の兄、大好きな兄、音夢にとって最も大切な存在――朝倉純一。
彼さえいればどんな事だって――

そう思った瞬間、罪悪感に襲われる。
目の前で眞子を失ったばかりなのに、兄の事さえ無事であるなら眞子の事なんてどうだっていいと一瞬でも思ってしまった。
眞子だけではない、ことりもさくらも、兄に近寄る女がいなくなってしまえば――

「っ……」

自らの心に沸いてしまった邪悪な感情に吐き気がする。
うつむいて必死に唇を噛み締め堪える音夢。
噛んだ口元からつつっと一筋の血が流れ落ちた。

ふと顔を見上げると、道の向こう。薄ぼんやりと輝く街頭の向こうに人影が見えた。
人影はこちらに背を向けたまま動こうとしない。
シルエットから察するに女性のようだった。

音夢の心臓の鼓動が早くなる。
ようやく出会えた他人、だけどどうすればいい?
もしかしたら自分や純一の命を狙う敵かもしれない。
もし敵だったら――殺られる前に殺れ。幸い相手はこちらに気づいてはいない。
背後から金属バットのようなもので後頭部を強打するだけで相手は動けなくなる。
後は相手が息をしなくなるまで永遠と殴り続けてやればいい。

そう。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

(だ……ダメ……そんなこと考えたら……)

おぞましい悪魔が耳元で囁きかける。
心の隙間に潜り込もうとする悪魔に必死に抗う音夢。
このまま来た道を戻ってしまうか?
否、このまま一人孤独に闇の中を歩いていたら本当におかしくなってしまうかもしれない。

「あ、あの……」

音夢は勇気を振り絞って女性の背後から声をかけた。
女性はびくっと肩を震わす。彼女もまた誰かが近くにいたなんて思いもしなかったのだろう。
声こそ上げなかったものの、震えた肩が彼女の動揺を物語っていた。

「ちょっと……いきなり後ろから声かけないでよ……びっくりしちゃったじゃない」
「ご、ごめんなさい!」
「まあ、いいけどね……」

頭を下げた音夢は顔を上げ、彼女を見つめる。
一言で言ってしまえば綺麗の二文字だった。
年は自分よりやや上ぐらい、ピンク色の制服に身を包んでる。
そして何より女の音夢から見ても目を見張るほどの抜群のプロポーションだった。
長身から伸びるすらりとした長い手足。
制服の上からでもはっきりと自己を主張する豊満な乳房。
切れ長の瞳に燃えるような赤い長髪と、非の打ち様のない美人だった。

(……兄さんもこんな人が好みなのかな……って何考えてるの私!)

「ん? 私の顔に何かついてる?」
「えっ? いえ、何でもないです! ちょっと綺麗だなーって、あ、わ、私何言って……!」

顔を真っ赤にしてしどろもどろな口調で答える音夢。
それを見た彼女はくすりと笑みを浮かべ言った。

「環――向坂環よ」
「えっ……たまき……」
「私の名前がどうかしたの?」
「い、いえ。私の知り合いに同じ名前の人がいて――あ、私は朝倉音夢といいますっ」

ぺこりと再びおじぎをする音夢。

「あの、人を探してるんです。朝倉純一と言って、私の兄さんなんですけど……そんな人と出会いませんでしたか?」
「悪いけど……私が会った人はあなたが初めてなの」
「そう、ですか……」
「私のほうも質問いい? 河野貴明、柚原このみ、向坂雄二。このどれかの名前に心当たりあるかしら?」
「ごめんなさい……私もあなたが初めて会った人だから……」
「そう……」

環もまた予想通りといった感じで肩を落として落胆の色を見せる。
そして、酷く哀しそうな表情で環は言った。

「ごめんなさい、あなたに恨みはないけど――」
「えっ――?」


闇夜を切り裂く一発の銃声が辺りに木霊した。







「あぐ……っ」

経験したことのない凄まじい衝撃が音夢を襲う。
そのまま地面に倒れこむ。

撃たれた?私が?どうして?

突然の出来事に頭の中が真っ白になる。
そしてじくじくと疼く肩。制服の肩の布地は破れ露出した白い肩が血が滲んでいた。
環の放った弾丸は音夢の肩を掠めただけで命中はしなかった。
なのにこの衝撃、掠っただけでこの衝撃なら当たったらどんな衝撃なのだろう。
音夢の全身に恐怖が駆け巡る、恐怖で震え歯がカチカチと音を鳴らす。

「一発で仕留めるつもりだったけど素人じゃうまくいかないものね」

環は表情を変えず、淡々と蹲る音夢を見下ろしながら言った。

「やだ……やだ……助けて……兄さん……助けてよぉ……」

迫り来る死の恐怖に怯えただ兄の名を呼びかける音夢。
やっぱり彼女は敵だった。
初めからああしておけばこんな怖い思いしなくて済んだのに!

「あなたの恨みも憎しみも絶望も私が受け止めるわ。そう、大切な誰かのためなんてという欺瞞で、仕方ないで済ませられるとは思ってないけどこれが……私が選んだ手段だから……」

自らの行為は連中の思う壺なのだろう。
だけどそうでもしなければ守れそうにないと思ってしまった弱い心。環はそれが悔しかった。
だがそんな感情も手を血に染めていくうちに消えていってしまうのだろう。
環は自嘲めいた笑みを浮かべ銃口を音夢の頭に狙いを定めた。

「出来る限り一発で済ませてあげる」
「いやぁ……死にたくない死にたくない死にたくないよぉ……兄さん兄さん兄さん……」

きっと眞子もこんな怖い思いをして死んだのだろう。
涙で顔をくしゃくしゃにしながら音夢は這いずる。少しでも環から逃げようと地面を這う。

「……さようなら」

環は銃の引き金に力を入れ――



「うーん、あなたの悲壮な決意もわかるけど……やっぱりそういうのはよくないと思うなあ」



この場に酷く似つかわしくない明るい声が周囲に木霊した。







それは闇の中にから染み出すように現れた。
ニ階建ての建物の屋上から満月を背にして一人の少女が環と音夢を見下ろして立っている。

「よい……しょっと」
「……ッ!?」

少女は身を翻したと思った瞬間、屋上から飛び降りた。
十メートル以上はあろうかと思われる高さをミニスカートを翻しながらいとも容易く飛び降り着地した。
ありえない光景に環は絶句する。
普通あんな高さから飛び降りてただで済むわけがない。よくて骨折、落ちどころが悪ければ即死してもおかしくない。
得体の知れない人物の登場に環の鼓動が早くなる。

「見た?」
「????」

着地した少女はスカートの裾を直しながら環に言った。
なぜか少し顔を赤らめ不機嫌そうな声で。

「だから、飛び降りる時私のパンツ見たでしょ。……って女の子相手に言ってもしょうがないか」

なんなんだこいつは――
環の背筋に冷たいものが流れ落ちる。
この状況でそんな事を素で言ってのける少女に心底恐怖した。
そして音夢もまた言葉を失い少女の動向を見守るだけだった。

「く……っ」

環は引き金にかける指に力を込めてゆく。
何も、恐れることはない。こっちは銃を持っているんだ……!
問答無用で彼女を撃つ――
そして銃声。

「っ……!」

銃口から硝煙がたなびいている。
なのに銃口は前を向いておらず空に向いていた。
なぜなら少女は環が引き金を引く瞬間、距離を一気に詰め銃を持つ環の右手首を捻り上げていたのだから。
細身の身体のどこにそんな力があるのか、凄まじい握力で環の右手を拘束していた。

環は身を捩じらせ必死に抵抗するもまったく無駄な徒労だった。
抵抗を止めようとしない環に少女は少し哀しそうな表情を見せて言った。

「ちょっと、ごめんね」

そう言った瞬間、環の右手首に激痛が走る。
まるで硫酸や塩酸のような何らかの化学薬品を浴びたかのような激痛。
だが環は――

「こ……のぉ……ッ!」
「ッ!?」

隠し持っていたサバイバルナイフを拘束されていない左手で、少女の腹部に思いっきり突き立てた。

「ぐ、ぅ……」

苦悶に満ちた少女の顔。そして声にならない音夢の叫び声。
環は腹部に突き立ったナイフをさらに身体の奥深く捻じ込んだ。
みちみちと筋繊維を裂いて内臓にまで潜り込むナイフの白刃。
溢れ出る血液が環の手と少女の服を赤く染め上げる。
錆びた鉄と海辺の潮の臭いを混ぜたような嫌な臭いがむぁっと立ち込める。

右手の拘束が緩む。
環は即座に拘束から脱出する。
止めを差す?
いや、あんな得体の知れない相手に長い時間はかけてられない。
それに右手の怪我は無視できない。
相手の腹には柄までナイフが突き立っている。ならば……!

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

渾身の後ろ回し蹴りを少女に叩き込む。
少女の胴を狙うにあらず。
狙うはただ一点、少女に突き立ったナイフの柄……!
環の全体重を乗せた一撃がナイフの柄の一点に集中する。
これだけの衝撃を与えれば体内はズタズタになっているはず。あれで生きていられる人間は存在しない。
命中と同時に環は脱兎の如く逃げ出した。

数メートル吹き飛び電柱にその身を叩き付けられ動かなくなった少女。
後に残されたのは呆然と佇む音夢だけだった。







「助かった……の……?」

我に返った音夢。
確かに自分は助かった。突然の乱入者である謎の少女のおかげで。
しかしその少女は――

音夢は急いでその少女の下へ駆け寄る。
銃弾が掠った肩がまだ痛むもそんな事を言ってる場合ではない。
あの少女のほうがよほど酷い怪我をしているのだから。

少女は腹部から大量の血を流し、地面に血溜まりを作っていた。
これでは下手にナイフを抜くことはできない、さらに出血が加速する。
だがまともな医療設備も、技術も経験も持った人間なんているはずがない。

「私のせいだ……私のせいでこの人が……」

涙が止まらない、声を押し殺してむせび泣く音夢。
そして――



「ちょっとぉ……勝手に殺さないで欲しいな」
「ひっ――?」



音夢が顔を上げた先――ほぼ死んだと思っていた少女が、
苦痛に顔を歪めながらも飄々とした笑顔を見せていた。

「あいたたたたぁ……もうっ私じゃなかったら死んでたよ」

彼女はむくりと起き上がってぱんぱんと服の汚れを落とす。
だが腹部に刺さったままのナイフからは今もなお血が流れ出し、
服を赤く汚しミニスカートから伸びる脚を伝ってアスファルトに赤黒い染みを作っていた。

「あっ……ひ……」

絶句する音夢。当然だろう。彼女は腹にナイフを生やしたままだというのに死んでいない。
環に腹の中身を掻き回されるように刺された上に、ハンマーで杭を打つような一撃を受けてもなお生きているのだから。
おびただしい量の血液を流しながらも動くその姿は――

(化け……物――)

そう評する他ならない。
刺しても斬っても撃っても砕いても蘇る。
まるでホラー映画に出てくるような怪物だった。

「く、ぅぅ……こんな、に深く……刺さっちゃって……」

それでも身体の奥深くに刃が突き立っているのは苦痛なのだろうか、少女は苦悶の表情でナイフの柄に手をかけた。

「ん……ぐぅ、ぅ……」
「え――っ!?」

ぶしゅっと血が噴き出す厭な音を立ててゆっくりとナイフが動き出す。
少しずつ、少しずつ引き抜かれ流れ出す血がさらに赤い水溜りを作る。

「ぐ、うぐ……げほっ、……かは、っ……いく、らこの程度で死な、ないし……死ねないと言っても痛い、よ」

激痛に身を捩り手を真っ赤に濡らしながら、ずるりとナイフが身体から抜ける。
カランと地面に落ちるナイフ。その音にぴくりと震わす音夢。
肩で息をしながら電柱を背にして座り込んだ少女はくすりと音夢に向かって笑みを浮かべ言った。

「――人間じゃないの、私」

緊張感の欠片もなく、まるで友達に気軽に語りかけるような口調だった。

「人……じゃない?」
「そだよ。隠しててもしょうがないもん、それにこんな怪我で死なないの見たらおかしいと思うよね?」
「…………」
「でもね、すっごく痛いんだよ? 死なないんだったら痛みも無かったらいいのに」

飄々とした明るい声で少女は語りだす。
そのあまりにも場違いな雰囲気に音夢は恐怖心を覚える。

屋上から飛び降りても平然としていることじゃない。
拳銃を持った相手に一瞬にして距離を詰めたことじゃない。
ナイフで腹を抉られても死なないことじゃない。
そんな事は瑣末な事。
この殺し合いという異常な状況下で普通の精神を保っていられることが音夢にとっては何よりの恐怖の対象だった。

「私の事怖いよね。不死身の化物だもん……まあいっか、そういうこと思われるの馴れてるから」

少し寂しそうな声の少女。

「何百年も生きてるとね、ちょっとやそっと嫌なこと、怖いこと、哀しいことがあっても『まあいっか』と思えるようになるの」

少女の言葉を聞いて音夢はどきりとする。
その夜色の瞳で彼女に抱く恐れを見透かされてるようだった。

「……っと、休憩おわりっ! じゃあ私行くね」
「えっ……?」

そう言って少女は立ち上がる。
うんしょと背筋を伸ばすがまだ足取りがふらつき、出血も止まりきってはいない。
それでも彼女は明るい表情で音夢に微笑みかける。

「きっと、私といると危ない目に会うから――それにこんな化物と一緒にいるのは嫌だと思うし」

「ばいばい」と少女は寂しげな笑顔で別れの挨拶をして歩き出した。


(…………)


本当に彼女を行かせてしまってもいいのだろうか?
彼女は化物だ。あんな怪我でも生きていられる不死身の化物。
極力関わり合いになるのは避けたほうがいいのかもしれない。
だけど、このまま闇の中に自分一人残りたくない。
環のような殺し合いに乗った人間が他にもいるかもしれない場所でこれ以上孤独でいるのは耐えられない。
今、声をかければ彼女は立ち止まる。
たとえ彼女を呼び止める理由が自らの保身のための打算であっても、勇気を出して――音夢は去ろうとする少女に声をかけた。


「お願い……ひとりにしないで……ひとりでここにいるのは嫌……」


不安と恐怖に怯えた小さな声で。
少女はぴたりと足を止めてゆっくりと振り向く。
その動作が音夢にとっては永遠とも思える長い時間だった。

「四方茉莉。それが私の名前だよ」

闇に溶けてしまいそうな漆黒の髪と深い夜色の瞳を持った少女はにこやかに言った。




【C-8、市街地/1日目 黎明】
【朝倉音夢@D.C.P.S.】
【所持品:支給品一式×1、不明支給品(1~2)】
【状態:情緒不安定】
【思考・行動】
基本方針:純一と再会する
0:ひとりは嫌……


【四方茉莉@sola】
【装備:ホットナタデココ@Memories Offシリーズ】
【所持品:支給品一式×1、不明支給品(1~3)、大量の飲み物】
【状態:腹に深い刺傷(数時間で完治)】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いに乗らない、蒼乃を止める。
0:まずは自己紹介。
1;あ痛たたたたぁ……







「はぁっ……はぁっ……!!」

あれからどれくらい走っただろうか?
時間にしたら十五分も走ってないのかもしれない。
だけど息は上がり、動悸も激しい。
運動能力は人並み以上はあると自負していた環もこの異常な状況下で普段の状態を保てるわけでもなく、
やがて足は鈍り立ち止まって地面に手を付き蹲った。

「けほっ……ぐ、……うぅ……」

息が上がって呼吸もままならない。ピンク色の制服はぐっしょりと汗に濡れてしまっている。
右手のあの少女に掴まれた場所はドス黒く変色してしまっている。
手の平を開いたり閉じたりはすることはできるものの手首の感覚があまりない。

赤く染まった左手が視界に入る。フラッシュバックする刺したナイフの感触。
肉を裂いて柔らかい内臓を潰す酷く嫌な感触。
――初めて人を殺した。

「うぐっ……」

こみ上げる吐き気を抑えて目に涙を浮かべる環。
なんて無様な姿。
幼馴染を守るために悪魔になろうと決意したのにこの体たらく。
たった一人殺しただけでこうなるのが悔しくて、そしてまだ良心が残っていることにどこか安堵する。

「もう……戻れないのよ……!」

そう、自分はもう殺人者。禁忌を犯した者。
望んでその道を選んだはずなのに沸き起こる後悔の念を必死に振り払う。
環に課せられた罪と罰。
幼馴染を守るために他の全ての人間を皆殺しにする。
正気を保ちながらそれを遂行しなければならない。

「タカ坊……」

ふと幼馴染の少年の名を呟く。
それと同時に一人の少女の最期の言葉が脳裏に浮かぶ。



志雄?……あのさー私、あんたのことがす――――



なぜかその言葉がひどく心をかき乱す。
彼女が最期まで言えなかったその言葉。それがどうして貴明と一緒に浮かぶのだろう。

貴明もこのみも雄二も守るべき大切な人達。
誰も優劣がつけられない大切な人なのに
貴明への想いがこのみと雄二に向けられたものと違うということにまだ環は気がつかない。




【C-7、市街地/1日目 黎明】
【向坂環@To Heart2】
【装備:SIG SAUER SP2022(13/15)】
【所持品:支給品一式×1、SIG SAUER SP2022予備マガジン×10、M24 SWS(5/5)、M24 SWSの予備弾×50 】
【状態:疲労、右手の感覚無し】
【思考・行動】
基本方針:幼馴染を守るため参加者を皆殺しにする。
0:初めて人を殺した……

※茉莉を殺したと思い込んでいます。

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1 コメント

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2009-09-28 00:09:05
たま姉ーーー!!
まさかマーダーに走るとは……
音夢も不安定だし、茉莉も危ないかもなぁ
しかし純一と会ったら嫉妬ゲージが振り切れそうで余計に危険になる予感!
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