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2013-12-14 16:01:44 | セミナー

Anguera, J. A., Boccanfuso, J., Rintoul, J. L., Al-Hashimi, O., Faraji, F., Janowich, J., Kong, E., Larraburo, Y., Rolle, C., Johnston, E. and Gazzaley, A. : Video game training enhances cognitive control in older adults. Nature, Vol.501, 97-101, 2013
Abstract(日本語要約)

<抄録>
認知制御とは、ヒトが目標達成に向けて複雑な環境と相互作用することを可能にする一連の神経過程と定義される。複数の目標を同時に達成しようとする際(マルチタスク行動)にはいつも、ヒトはこのような認知制御過程に対処することを強いられ、その結果、基本的な情報処理能力の制限に起因する干渉が生じる。テクノロジーが氾濫する現代社会では、マルチタスク行動があらゆる所で見られるようになっていることは明らかであり、高齢化が進むヒト集団におけるマルチタスク行動の難しさと認知制御能力の低下については多くのエビデンスが集まっている。本論文では、特別に設計した三次元ビデオゲーム(ニューロレーサー)によって評価されるマルチタスク課題の成績が、20~79歳の年齢に関連して直線的に低下することを示す。マルチタスク訓練モードに適合させたニューロレーサーを実行することで、60~85歳の高齢者のマルチタスク処理時におけるコストは、対照群(シングルタスク実施群や訓練非実施群)のよりも低く、20歳の未訓練被験者のレベルを超えるところにまで達し、この改善は6か月間持続した。また、脳波により測定された加齢による認知制御神経指標の低下は、マルチタスク訓練によって改善した(前頭正中部のθ波パワーと前頭後部のθ波コヒーレンスが増大した)。重要なことに、この訓練による成績向上は訓練していない他の認知制御能力(注意の持続や作業記憶の改善)にも及び、前頭正中部のθ波パワーの増大から、訓練による注意の持続と6か月後までのマルチタスク遂行能力の向上維持が予測される。今回の知見は、高齢者の脳の前頭前野の認知制御系にはロバストな可塑性があることをはっきり示しており、特別に設計したビデオゲームが、若者から高齢者までの認知能力の評価や、その基盤となる神経機構の検討に使用でき、また認知能力強化の有効な手段となることを示した、我々の知るかぎりで最初のエビデンスである。

<感想>
今回、“ドライビングゲームを用いた訓練による認知機能の改善”に関する論文を読んだ。同時処理能力や注意をはじめとする認知機能が年齢を重ねるごとに低下するという事実は、これまでにも多く報告されており、高齢者の主観的経験からも明らかである。そのような中、“加齢に伴う認知機能低下の予防や改善”に関心が集まり、本邦においても数年前にゲームを用いた脳トレブームが到来した。ゲームを用いた脳トレは手軽であり、日々の生活に取り入れやすい。しかし、ゲームを用いた脳トレの効果については、賛否両論あり、個人的には、これまでやや否定的な意見の方が多い印象を受けていた。効果が否定的というよりも、効果検証が曖昧なものが多く見受けられた。しかし、今回のニューロレーサーを用いた研究は、介入による効果検証に複数の認知課題における行動指標、および脳波による生理学的指標の両方を用いて行われた。マルチタスクモードで訓練したグループはシングルタスクモードで訓練したグループや訓練を行わないグループよりも、マルチタスクの成績に加え、ワーキングメモリや持続的注意の成績も向上し、さらに、前頭前野が活発になっているという結果が示された。シングルタスクモード群も脳波による解析では活性化がみられていたが、行動指標と生理学的指標の双方においてマルチタスク訓練の効果が示されたことは意義深い。著者らも述べていたが、今後、認知症をはじめとする疾患群においても効果がみられるかが気になるところである。
また、本研究は、ニューロレーサーにおけるマルチタスク訓練モードの効果を示すものであったが、マルチタスク訓練は他の課題にも取り入れることが出来る。確かにニューロレーサーは運転という多くの人が日常生活で行う実生活に即した行動を訓練に取り入れており、操作方法も簡便で魅力的なツールであるが、高齢者にはゲームが嫌いな人、運転を行わない人、デジタルよりもアナログを好む人、など様々である。したがって、“何がよいか”ではなく、“どのような事が良いか”について明らかにすることで、一人一人に応じた認知トレーニングの提供につながるのではないかと感じた。そのためにも、今後、ニューロレーサー以外のマルチタスク訓練における認知機能改善効果についても研究が行われ、エビデンスが積み重ねられることを期待したい。
 今回、セミナー中にいろいろなご指摘をいただき、読み込み不足を痛感したが、とても良い勉強になった。