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モーツアルトの音楽2 The Magic Flute – Queen of the Night aria (Mozart; Diana Damrau, The Royal Opera)

2021年05月23日 | 音楽
音楽評論家ではありませんが、モーツアルトの音楽に関して改めて彼の才能にただただ感心するばかりの作品の一つです。
各作品のAdagioでは正に天から降り注ぐ音符の流れを書き留めたような美しい曲を作ったかと思うと、このように考えもしない曲を書いた事に改めて感激します。


The Magic Flute – Queen of the Night aria (Mozart; Diana Damrau, The Royal Opera)





小説「Obralmの風」



元来た道を引き返しながら岳は仁川の清流に目をやった。
この水が下流で武庫川に合流しやがて河口で塩水に混ざる。
大きな大海へ辿り着くまでの短い距離を流れる清流、これこそ明子の職場である教育の場ではないだろうか。
この清い流れを何人たりとも自我で汚してはいけないのだと岳は切実に思った。
仁川の駅に着いた岳の足が急に止まった。
岳の正面に向かって若い女性が歩いて来る。
「アッ!」
それは紛れもなく大山で出会った泊り客の女性だった。
「久保さんですね?」
「ハイ、そうです。どうして僕の名前を?」
「お忘れになられたのですか?以前西宮北口駅で無理やり名刺を差し出されたことを」
彼女の冷たそうな表情に、岳はその事実を一瞬忘れていたことと、無理やり名刺を手渡した行為を悔いた。
「いや、覚えていますよ。あの時はお話をしたくて礼儀もわきまえず申し訳ありませんでした」
「私、先日名刺を見て電話しました。そうしたら退職されていて、何だか変な感じでした」
彼女は怒りの表情を見せた。
「そうですか、あなたが吉井美華さんですね。ここでは何ですから、そこでお茶でもいかがですか?」
岳は駅近くの喫茶店を指した。
「ええ少しなら」
返事はしたが冷たい顔つきは変わらなかった。
彼女は椅子に座ると同時にバッグから携帯電話を取り出し、着信暦を確認したのか直ぐに閉じてテーブルの上に置いた。
その仕草はよく見かける若い世代の携帯依存症候群のように思えるし、一種のファッショナブルな行動なのかも知れない。
「ところで、お電話頂いたご用件は?」
岳は彼女が何かの勧誘ではないかと内心身構えた。
「私の方こそ先におききしたいです。以前駅のホームで私に追いすがって名刺を差し出したのは営業目的やったのですか?」
逆に問い詰められた形になった岳は一瞬たじろいだ。
「じゃあ僕の方から言います」
岳達は互いの改めて自己紹介もなしに会話を始めた。
むしろその会話が目的でこの場に来たようなものだった。
「実は以前鳥取県の大山に宿泊した時、吉井さんを見かけました。というよりあの時は私と君しか泊り客は居なかったような気がします」
彼女の反応を見て、岳は話の的が外れていないことを確信した。
「私はあなたのことをはっきりは覚えてません」
「そうですか、夕食の時に君は後から来られましたよ。まあそんなことより、あの日の夜私は風呂場で奇妙な声を聞きました」
そう言いながら岳は全身鳥肌が立つのを覚えた。
「やはり・・・」
彼女は心のどこかで安心したのか少し表情が和らいだように思える。
「そうおっしゃることはあの声を聞かれたんですね?」
「はい、女性の鳴き声のような・・・、今思い出してもゾッとします。私あんなこと始めてでしたから」
「君はたしか深夜にチェックアウトされましたよね」
「相方は来ないし、薄気味悪い声は聞こえるし、とてもじゃないけど一人であの部屋で眠る訳にはゆかなかったんです」
「やっぱりそうやったのか」
一見冷たい表情だがこれは彼女が意図的にそう演じているのではなく自身に備わった表情なのかも知れない。
「久保さんはあのまま泊まられたんですか?」
両手でコーヒーカップを持つ仕草から見て彼女はごく普段どおりの接し方をしているのだろうと岳は推測した。
「ああ、怖かったけど我慢したというか開き直って寝ちゃったよ」
「まあ、さすがは男の人ですねえ、私は怖くて我慢ができなかった。あの日から私はどこの浴室に入るのも怖くて。最近また聞こえて来るんですあの声が」
何気なく聞いた最後の言葉に岳は一瞬鳥肌が立って両腕を擦った。
「えっ、まさか。あれはあの場所だけのことではないんですか?」
「私もそう思いたいのですが確かに聞こえて来て、もしかしたら気がおかしくなったんやないかっと思うので一度病院に行ってみようかなって。この前名刺を差し出された時に同じペンションに泊まっておられたとお聞きしたので、一度お聞きしたかったんです」
「そうやったのか、残念ながら僕はあれ以降は何も聞こえないよ」
「やはりそうでしたか」
「失礼ですけど吉井さんはどのような仕事をしておられるのですか?」
彼女は思わぬ質問に一瞬驚いた。
「別にお教えするほどの仕事はしていません」
「いや、変な意味あyなくて、少し疲れているんやないかと思って」
岳は空気を和らげようとわざと笑顔を作った。
「そんなに忙しくはないわ」
と、その時突然テーブルに置かれた彼女の携帯がブルブルと振動した。
彼女は慌てて携帯を開き見入った。
「ごめんなさい彼から連絡が入ったの行かなくては、今日はありがとうございました」
そう言いながら立ち上がった。
「彼ってあの夜待っていた人?」
「そう、そうなの早く行かなきゃまた殴られちゃう」
つい本音を言って後悔したのか手に持った携帯で口を隠した。
「ちょっと待って、殴るって君を?」
彼女はコクンと頷いただけでレジに向かって行く。
このような可愛い女性をぶん殴るってただ事ではないし、他人の岳でも許せる行為ではない。
「ええよ、ここは僕に払わせて、それより女性に手をかけるやなんてひどいやないか。また会えるかなあ」
岳は後姿に問いかけた。
「久保さん悪いひとやなさそうやし、また連絡します」
「じゃあ、ここに電話くれる?」
岳はレシートの裏に自分の携帯番号を書いた。
彼女は夕日が作る長い影を追いかけるかのように早足で急いで駅に向かった。
その後ろ姿を眺めながら、相手の男性への怒りと昼間再会した明子を苦しめるクレーマーの父兄を重ね合わせて考えた。
(何だか世の中が狂ってる・・・)

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