カメラを持って出掛けよう

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今さら何ですが・・・Once Upon A Time In The West (Ennio Morricone) cover

2022年10月15日 | 音楽
Once Upon A Time In The West (Ennio Morricone) cover


近年の作曲家で好きな一人だったエンニオ・モリコーネは残念ながら亡くなってしまいましたが、数々の美しい作品はこれからも聴く人の心を癒してくれると思います。

余談ですが、もうそろそろコロナ騒動は止めて普通の風邪扱いにしては如何でしょうか?とりわけマスク
着用は場所によっては外さないと一生このままになるのでは?
そんな習慣なんて絶対嫌です。




小説「Obralmの風」



こうして岳と美華との奇妙な共同生活が始まり、一人増えただけなのに部屋は賑やかになったような気がする。
しかし一歩外へ出ると近所の視線は岳達二人に向けられ始めている。
興味本意で『最近若い女性が出入りしておられるけどご親戚の方?』などとエレベーターホールで近所の人に問いかけられ、岳はその都度どう返答しようかと迷うが『ええ、姪をしばらく預かることになりまして』と適当に答えはぐらかしている。
美華は毎朝決まったように九時に出て行き、夕方五時半には帰って来る。
彼女がどこでどのようなアルバイトをやっているかは知らなかった、彼女もあえて口にはしなかった。
ある日、夕食後ワインで少し酔った美華がいつもになく会話に絡み始めた。
「どうしたんや今日は職場で何かあったんか?」
「いえそんなんじゃなくて・・・」
「そんなんじゃなくて何?」
美華はワイングラスを手で玩びながら岳を睨むように見詰めた。
「久保さんから私って見れば魅力のない女ですか?」
「突然何を言い出すんや」
岳は飲みかけのワインを危うく噴出すところだった。
「だってここで一緒に暮らし始めて半月も経つのに久保さんからは何のアプローチもないから、私ってそんなに魅力がないのかなと思ってみただけ」
「そんなことないよ。でも最初に言ったやないか、僕の命はあと僅かなんやで。ここで君を好きになって愛し合うようになったら綺麗な君を置いて死んでも死に切れんわ。それに残された君が苦しむやろ?」
「そうかしら、案外そうなってみないと判らないかも知れないわよ」
「だいいちこんな美しい容姿を見て魅力を感じないはずないやないか。でも知らぬ振りするのはやっぱり俺は頑固なんかなあ」
美華ほんのり頬と目の周りを酔い色に染め、少し潤んだような瞳は妖艶な光を発していた。
このまま彼女を抱き寄せピンク色した唇を奪えば、後は会話のいらない男と女の世界で思い切り愛し合えるのかも知れない。
死に際に頑固な自分をかなぐり捨てて赤裸々な男になってしまおうか。
岳は心の中で揺れた。
「じゃあ今日は特別サービスで久保さんにハグを許しましょう。但しハグだけですよ、今の信頼関係を壊したくないから」
(何んやねんアプローチが無いなんて言っておきながらハグに条件をつけるのか)
岳は不服感を覚えたが、わざと明るく笑ってみせた。
「ハハハ、判ってるよ、おもしろいなあ君は。それにしても上から目線あやなあ」
彼女も笑いながら立ち上がると岳の席に歩み寄った。
「じゃあお言葉に甘えて」
立ち上がると軽く彼女と胸を合わすように抱き合うと互いの背中を擦りあった。
二人は現状を維持するかのように明るく笑って、心が淫らな方向へ向かないよう努めた。
岳は彼女の肩越しにつぶやくように言った。
「俺ってどこまで無粋な男なんやろう」
「どうして?」
「こんな時に気の利いた音楽でも掛けられたらしっとりとダンスでも踊れるのに」
「えっ、久保さんダンスを踊れるの?」
「いや、それは無理。本当に俺って駄目や」
彼女は笑って体を離そうと腕を動かし始めた。
岳はもう少しこうやっていたいと意思表示を腕で示した。
こうして若い体を抱き寄せていると彼女が持つ若い生命力を吸収出来るような気持ちがしてならない。
「もう時間切れ?」
「ええ、これ以上続けて変になったらいけないから」
「了解!」
岳は性の支配者にはなれなかった。
そんな理性が勝ち誇っていいのか、意気地なしだと落胆するのか複雑な気持ちで体を離した。
「さあ後片付けしましょう」
美華は長い髪を耳の後ろに掻き分けながら食器を運び始めた。
岳は心の中に燻った物をどう処理しようかと迷った。
「どうしたんですか?急に元気がなくなった様子ですね」
「いや何でもないよ」
彼女は食器を洗いながらつぶやくように問いかけた。
「中途半端でした?『せっかくその気になったのに・・・生殺しは止めてくれ~』ですか?」
「まあそんなとこかな。でももう少しああして居たかったなあって思っただけ」
「じゃあリビングでもう一度ハグしましょうか?でも変な気にならないでね。今日はだめだから」
「えっ?今日はだめって・・・。ああそういうこと」
岳は思わず苦笑した。
(いや、そこまで望んでいないけど・・・。でも結局そうなってしまうかも知れないなあ)
「何も久保さんが赤くならなくてもいいじゃないですか」
「いや、僕赤くなってへんわ」
「うそ、耳まで真っ赤よ。意外と純情なんですね」
「ち、ちがうよ、ワインの酔いで赤くなっているだけ」
「じゃあハイハイ」
そう言いながら彼女は岳の背中に手を回した。
岳は先程より少し強く彼女を抱きしめた。
彼女の肩越しにほのかに女性の香りがする。
岳は胸の奥底までその香りを吸い込むと、昔の恋人を思い出した。
彼女とは三年付き合って別れた。
勿論彼女との肉体関係はあったが、結婚するには至らなかった。
ある日突然、彼女は新しい男と一緒に岳の前から姿を消してしまった。
それから岳の病的とも思える女性不信は始まったであった。
岳はキッスだけの限定付きで彼女の唇を求めようかと考えた。
(何をしているんや、本能の赴くまま行動に出ればええやないか・・・)
この杓子定規な物の考えが自分の棲む世界を縮小して、挙句の果てには病にまで追いやったのかも知れない。
彼女の両肩を手で掴み瞳を見詰めればきっと上手く行く筈だ。
そんな心の囁きに支配されようとした時、彼女は肩越しに数回首を横に振った。
「だめだめ、このまま・・・」
そう言いながら両腕を岳の首筋に巻きつけた。
先程より芳しい女性の匂いが岳の嗅覚を満たし始めた。
女性の体臭に岳の脳は刺激されたのか、突拍子もない情景を脳裏に映し出した。
我ながらこの場で何故その情景なのか自分自身説明がつかない。
それは徳島の阿波踊りで両手を掲げて踊る女性だった。
半月型の編み笠を深く被り、艶やかな笑顔の顎にキリッと締められた白い編み笠紐。
カラフルな浴衣から高く掲げられた手に白い手甲、細く優しそうな指は空に向けて伸びている。
白足袋に赤い鼻緒の黒下駄、踊る度に上げられた足の白い脹脛(ふくらはぎ)が何とも言えぬ艶美を醸し出している。
現実的に言えばただ汗と白粉の匂いしかしないのかも知れないが、今の岳には彼女の体臭がその情景を脳裏に投影しているのだった。
その姿は岳の心の中では、女性の香りとリンクしているのかも知れない。
突き詰めれば岳は母親の香りを懐かしんでいるのだろうか、これはもしかして一種のマザーコンプレックスなのだろうか。

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