中学生だった頃(約60年前)学校の音楽鑑賞部に入っていた私は、先生に引率され吹奏楽部員と阪神間の音楽会に行ったことがありました。
尼崎市にある「アルカイックホール」が未だ立っていなくて古い文化会館で朝から夕方まで阪神間から集まって来た学校生徒によって演奏が繰り広げられていました。
勿論同行していた我が中学校の吹奏楽部も演奏しました。(タイケ作曲:ツェッペリン伯爵行進曲)
でも半数は女性とのピアノ演奏でした。この頃ピアノを習っている生徒にはこの曲が適していたのか大半がモーツアルトのピアノソナタKV331でした。
だからこの曲を聴けば必ず中学生の頃の記憶が蘇ります。
偶然YouTubeで見付けた石井琢磨さんのピアノ演奏がしなやかで美しいので紹介させていただきます。
モーツァルト : トルコ行進曲 / W.A.Mozart : Sonata K.331
小説「Obralmの風」
外はようやく涼しくなりかけ、風が都会の匂いをかき集めかのように様々な香りを運んで来る。
「過ごしやすい季節にくなったなあ」
岳がそう言いながら地下街へ降りようとすると美華は立ち止まった。
「せっかくいい風が吹いているんやから地上を行きませんか?」
「そうやな、新鮮な空気の方がええわ。梅田まで歩こか?」
「ええわね、どこまででもええけど」
「いや美華さん年頃やし、そんなお嬢さんを一晩中引っ張り回す訳には行かんわ」
「別にええんよそんなこと」
美華が吐き出した言葉には別の人格の音色がした。
「どうしたん?急に排他的に聞こえるけど」
岳は彼女の内面にもし歪んだ部分があるのなら修復してあげたいと思い始めた。
「どう?駅まで腕を組まへん?こんな中年のおじさんで申し訳ないけど」
彼女はフフフと笑いながら岳が差し出した腕に自分の腕を絡めた。
「まあ年齢の差はあるし、俺には若い女性の気持ちなんて知る手立てはないけど、何か心の中に詰まっているものがあるんやったら遠慮なく吐き出したらええよ」
「そんなこと言い出したらキリがないわ。だいたい私は世間の感覚とはずれているの」
「おいおい、なんか抽象的やなあ」
「ねえ、今夜久保さんところに泊まってもええ?」
岳は彼女の唐突な質問に計り知れない驚きを覚え、咄嗟にどう答えていいのか判らなかった。
「ああええけどご両親は?」
彼女は大きな声で笑った。
「久保さんっておもしろい。両親なんてとっくに居ません」
「そうやったんか、それは失礼なことを言うたな、ごめん」
「いや別に謝ってもらわなくても。本当に久保さんって真面目、そんな性格やと病気になるわよ」
彼女の言葉に岳はドキッとした。
(そうかこんな性格だから病魔にとりつかれたのか)
「男所帯で何もないけど美華さんさえよかったら構へんよ」
「でも誤解しないでね、私変な気持ちじゃなくもう少し久保さんと話がしたくなって、それに今夜は一人きりのアパートに帰るのが何となく・・・」
「勿論、俺の方こそ女性を泊めるなんて始めてのことやから緊張するわ」
「ほんとぉ?」
「この年になるまでそんなことも無いのかって思ってる?どうせ生まれつきの偏屈だから仕方がないわ」
美華は再び大声で笑った。
「誰もそんなこと言ってないわよ。その偏屈屋さんやから安心して言ったの」
彼女とは以前から知り合いだったかのように会話は続いた。
「でも不思議やなあ、以前西宮北口のホームで電車に乗り込もうとした君に名刺を渡したことがついこの前やったのに、今こうしておもしろく話してるやなんて」
「あの時は突然大山の事を言い出され、何のことだか判りませんでした」
「ハハハ、あの時君はすごく驚いていたなあ」
「当たり前やないですか、初対面の男性に突然過去のことを聞かれるなんて」
岳は今、美華の存在で心の中に何かが急に芽生え始めているように感じた。
今まで勿論女性とは接して来たことはあったが、それらとは違った不思議な感覚である。
互いの感性にどこか共通点があるのだろうか、身構えなくても心をさらけ出せる局面が多々あるように感じるのは岳だけだろうか。
楽しく会話を交わして歩くと知らぬ間に阪急梅田駅に着いていた。
「ええよ、僕が出すから」
乗車券を二人分買う、これから一緒に同じ場所に帰るのだと思うと、不思議な喜びに胸がキュンとなった。
(これはどうしたことや)
乗車券を取る手が微妙に震えている。
尼崎市にある「アルカイックホール」が未だ立っていなくて古い文化会館で朝から夕方まで阪神間から集まって来た学校生徒によって演奏が繰り広げられていました。
勿論同行していた我が中学校の吹奏楽部も演奏しました。(タイケ作曲:ツェッペリン伯爵行進曲)
でも半数は女性とのピアノ演奏でした。この頃ピアノを習っている生徒にはこの曲が適していたのか大半がモーツアルトのピアノソナタKV331でした。
だからこの曲を聴けば必ず中学生の頃の記憶が蘇ります。
偶然YouTubeで見付けた石井琢磨さんのピアノ演奏がしなやかで美しいので紹介させていただきます。
モーツァルト : トルコ行進曲 / W.A.Mozart : Sonata K.331
小説「Obralmの風」
外はようやく涼しくなりかけ、風が都会の匂いをかき集めかのように様々な香りを運んで来る。
「過ごしやすい季節にくなったなあ」
岳がそう言いながら地下街へ降りようとすると美華は立ち止まった。
「せっかくいい風が吹いているんやから地上を行きませんか?」
「そうやな、新鮮な空気の方がええわ。梅田まで歩こか?」
「ええわね、どこまででもええけど」
「いや美華さん年頃やし、そんなお嬢さんを一晩中引っ張り回す訳には行かんわ」
「別にええんよそんなこと」
美華が吐き出した言葉には別の人格の音色がした。
「どうしたん?急に排他的に聞こえるけど」
岳は彼女の内面にもし歪んだ部分があるのなら修復してあげたいと思い始めた。
「どう?駅まで腕を組まへん?こんな中年のおじさんで申し訳ないけど」
彼女はフフフと笑いながら岳が差し出した腕に自分の腕を絡めた。
「まあ年齢の差はあるし、俺には若い女性の気持ちなんて知る手立てはないけど、何か心の中に詰まっているものがあるんやったら遠慮なく吐き出したらええよ」
「そんなこと言い出したらキリがないわ。だいたい私は世間の感覚とはずれているの」
「おいおい、なんか抽象的やなあ」
「ねえ、今夜久保さんところに泊まってもええ?」
岳は彼女の唐突な質問に計り知れない驚きを覚え、咄嗟にどう答えていいのか判らなかった。
「ああええけどご両親は?」
彼女は大きな声で笑った。
「久保さんっておもしろい。両親なんてとっくに居ません」
「そうやったんか、それは失礼なことを言うたな、ごめん」
「いや別に謝ってもらわなくても。本当に久保さんって真面目、そんな性格やと病気になるわよ」
彼女の言葉に岳はドキッとした。
(そうかこんな性格だから病魔にとりつかれたのか)
「男所帯で何もないけど美華さんさえよかったら構へんよ」
「でも誤解しないでね、私変な気持ちじゃなくもう少し久保さんと話がしたくなって、それに今夜は一人きりのアパートに帰るのが何となく・・・」
「勿論、俺の方こそ女性を泊めるなんて始めてのことやから緊張するわ」
「ほんとぉ?」
「この年になるまでそんなことも無いのかって思ってる?どうせ生まれつきの偏屈だから仕方がないわ」
美華は再び大声で笑った。
「誰もそんなこと言ってないわよ。その偏屈屋さんやから安心して言ったの」
彼女とは以前から知り合いだったかのように会話は続いた。
「でも不思議やなあ、以前西宮北口のホームで電車に乗り込もうとした君に名刺を渡したことがついこの前やったのに、今こうしておもしろく話してるやなんて」
「あの時は突然大山の事を言い出され、何のことだか判りませんでした」
「ハハハ、あの時君はすごく驚いていたなあ」
「当たり前やないですか、初対面の男性に突然過去のことを聞かれるなんて」
岳は今、美華の存在で心の中に何かが急に芽生え始めているように感じた。
今まで勿論女性とは接して来たことはあったが、それらとは違った不思議な感覚である。
互いの感性にどこか共通点があるのだろうか、身構えなくても心をさらけ出せる局面が多々あるように感じるのは岳だけだろうか。
楽しく会話を交わして歩くと知らぬ間に阪急梅田駅に着いていた。
「ええよ、僕が出すから」
乗車券を二人分買う、これから一緒に同じ場所に帰るのだと思うと、不思議な喜びに胸がキュンとなった。
(これはどうしたことや)
乗車券を取る手が微妙に震えている。