蟷螂亭日記

「蟷螂の斧」という言葉は、弱き者が抵抗するという意味であるが、たとえ無駄であっも抵抗しなければならないこともあると思う。

中国によるウイグル弾圧-天安門自爆テロ事件に思う

2013年11月01日 12時05分24秒 | 日記
・中国天安門におけるウイグル人による車両爆破事件(いわゆる自爆テロ事件)について中国政府はやっとその事実を認め、犯行は国外の東トルキスタン独立派テログループによるものと発表した。中国政府は、この事件をテログループの犯罪とすることで、中国当局のウイグル(新疆ウィグル自治区)における弾圧を隠蔽するとともに、それに抵抗し独立を勝ち取ろうとするウイグル人たちを悪辣非道な無法者扱いして、この事態を乗り切ろうとしている。

・こうした中国政府の対応に対して、日本政府をはじめ世界各国の政府も静観しているだけで何の反応も示していない。また、これを報ずる日本のマスメディアも、事件の背景に中国政府によるウイグル弾圧があることを匂わしてはいるが、これをハッキリとは伝えず、中国政府の見解をそのまま伝え、今後、中国政府のウイグル人への「締め付け」が厳しくなるだろうと伝えるばかりである。(この「締め付け」という中途半端な言い回しはなんなんだ!「弾圧」だろ!)

・普段なら人権弾圧や人種差別に対するヒステリックな批判を展開するマスメディアが、こと中国に関してはどんな人権弾圧があろうと何故か頬被りしてしまう体たらくを情けなく思うし、こんなメディアに果たしてジャーナリズムを担う資格があるのかと思うのである。

・まあ、それはそれとして、中国によるウイグル弾圧の実態をここで整理しておき、読者に今回の事件はウイグル人の正当な抵抗運動であることを伝えておきたい。

・最初にウイグル国家の独立の正当性について述べておく。現在の新疆ウィグル自治区は、もともと土着のムスリムが国家を築いてきた土地であったが、何度も武力による侵略を受けて征服されてきたが、その都度これを跳ね返しムスリム国家を再建してきた土地である。近世以降も18世紀に清に征服され、辛亥革命後は中華民国に、国共内戦後の1949年には中国に統一されて、1955年に新疆ウイグル自治区が設置されて現在に至っている。

・ここで注意しなければならないのは、ウイグルが武力侵略を受けて無理矢理統合されてしまったという事実であり、そして、こうした武力支配に対して住民は常に抵抗し独立を勝ち取るための運動を続けてきたという事実である。清の時代には各地で反清を旗印にした反乱を相継い起こしてきたし、1933年と1944年の二度にわたって民族国家東トルキスタン共和国の建国がはかられるなど、様々な形で独立運動を展開してきた。これを常に弾圧と懐柔により圧殺してきた中国支配の実態を見れば、現在の中国の支配の正当性というものは一かけらもないということは明らかである。

・この独立と抵抗の運動は今現在も続いており、これに対する中国当局の弾圧も苛酷を極めている。主な事例をピックアップすると、次のとおりである。(ただし、ここに挙げたものはごく一部であり、中国政府の報道規制により発覚していない事例はこの他に山ほどあるはずだ。)
①中国政府は、自治区のロプノールで、1964年から1996年にかけて、地表、空中、地下で延べ46回、総爆発エネルギー20メガトンの核爆発実験を行い、19万人が死亡し、健康被害者は129万人に上ったと推計されている。
②中国政府による大躍進政策とその後の文化大革命(1966年)により、自治区の経済及び住民生活も大打撃を受け多数の死者を出すとともに多数のモスクの破壊された。1962年には、中国共産党による支配に絶望した国境地帯の住民7万人以上がソ連領内に逃亡した。
③文化大革命が終結し、言論統制の緩和がなされた1980年代には、自治区における民族自治の拡大を求める動きが見られ、また、海外の汎トルコ主義者が独立を主張する動きも見られたが、中国政府はこれを厳しく取り締まった。
④2009年にはウイグル人と漢民族の対立が激化し、ウイグル騒乱が発生。武装警察の介入もあって、世界ウイグル会議によると死者1,000人から最大3,000人、中国当局によると死者197人の大惨事となった。
⑤2011年7月に自治区のホータンとカシュガルで警察による住民の不当拘束に抗議した派出所襲撃事件が起こり、中国政府はこれを制圧する名目で武装警察隊を投入したが、その詳細は不明である。
⑥2013年6月にトルファンでウイグル人の武装集団による警察署襲撃事件が起っており、これにより35人が死亡したと伝えられている。

・以上、武力衝突・弾圧を中心に事件を列挙したが、この背景には中国当局によるウイグル人に対する無慈悲で冷酷な人権抑圧が存在していることは言うまでもない。この点についても知りうる範囲内で実態を列挙する。
①ウイグル人への監視を強化するため、首都ウルムチにおいて、6万台に及ぶ監視カメラを設置するとともに、高額の報奨金を出して反中運動の密告を勧奨している。
②言語・宗教における非ウィグル化を進めるために、中・高・大学におけるウィグル語授業を中国語に切り替えるとともに、ウィグルの民族教育を禁止している。また、18歳未満の未成年者、大学生、国家公務員についてはモスクに出入りを禁止している。
③ウイグル族の分断化を図るため、中国に協力的な者や従順な者に対しては就職や賃金で優遇し、反抗的な者に対しては解雇等の厳しい措置をとっている。
④14~25歳の女性を都市部へ強制移住させ漢人と結婚させるとともに、自治区へ漢人を大量移住させて、ウイグル人の中国への同化策を推進している。

・中国政府は、治安に名を借りた凄まじい暴力を穏健なイスラム教徒のウイグル人に振るっている。また、あらゆる手段でウイグル人からウイグル人らしさを剥ぎ取り、中国への絶対的服従と中国への同化を強いている。これはチベットに対する弾圧とともに、現在、地球上で行われている人権弾圧の中で最悪のものであり、決して見逃してはならない事実である。こうした事実をマスメディアがしっかり伝えない中、一人でも多くの人がこのことを知ってもらい、ウイグル人の人権の擁護に立ち上がってもらうよう、あえてこれを書いた。

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