
※ペルム紀の豊かな生態系の様子
大量絶滅の母
煤山PT境界層の下の部分、つまり古代ペルム紀末の石灰岩の層からは、腕足類や貝類、古生代型アンモナイト、魚類など、浅い海に住んでいたさまざまな生物の化石が発見される。もとより、石灰岩そのものが、生物の遺骸が堆積してできたものだ。
ペルム紀の海の化石を最も多く産する場所は米・テキサス州とニューメキシコ州の州境にあるグアダループ山脈にもあり、ここも世界的に有名である。そこには全長500キロの渡って山地が馬蹄型に連なりウミユリや三葉虫、魚類が「生」を謳歌していた証拠が数多く発見されている。
さて、一方その次の時代、中生代三畳紀に入るとその様子は一変する。煤山でも、PT境界層より上の部分からは、まったくといっていいほど化石は見つからない。
突然「死」の世界となるのだ。
地層の様子も石灰岩とは異なり、泥などが堆積してできた黒っぽい頁岩が主なものとなる。良く観察すると、その頁岩の層には細かい筋が何本も水平に走っている。この泥は静かに海底面に堆積してできたもの、つまりは海底の土砂を攪拌するような生物はまったく見られない、静まり返った海だった何よりの証拠である。
地層を観察してわかるのは、PTの大量絶滅が生態系を完全に破壊するほどの出来事だったということである。これは地球生命史の中で非常に大きな転換点をもたらした事件であった。実際この後の時代には、哺乳類や恐竜など、それ以前とはまったく異なる生物の体系が出現するのである。
PT境界での絶滅事件は「Mother of mass extinctions(大量絶滅の母)」とも呼ばれているのである。
さて、煤山の発掘調査から、100種を越える大小さまざまな生物がPT境界線で一気に絶滅している事実が確認された。つまり、ラウプ博士の計算値が大袈裟なものではなく、実際に90-95%もの種が消え去っていたいたことを示しているのだ。煤山の地層の中では厚さわずか数十センチの出来事である。
また、境界層の前後に位置する火山灰層に含まれるジルコンと呼ばれる鉱物をウラン・鉛法と呼ばれる年代測定法で分析し、絶滅が起きた年代を2億5140万年プラス・マイナス30万年と特定した。
さらに、絶滅が始まって生物が消えるまでにかかった時間はどんなに長くても50万年、恐らくは15万年以下という。それまでPT絶滅は2000万年もの時間がかかったと信じられていたので、そこから比べるとかなりの短期間までに絞り込んだことになる。海では極めて急激で壊滅的な絶滅が起きたというのが最新の結論である。
ところで、15万年以下というと、以外に長いと思われるかもしれない。しかし、数億年というタイムスケールを扱う地質学の世界では、10万年単位という時間間隔は地層分析の分解能のいわば限界であり、地質学者にとっては一瞬のようなものだという。
それにあくまで「これ以下」という数字であって、実際には数百年で絶滅が完了した可能性さえあるのだ。
尚、最近発見されたグリーンランドのPT境界線の分析も進み、絶滅は長くても1万年から6万年で完了したという発表も学会で報告されている。
※参考文献・出典
NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004