
※A ユーステノプテロンの骨格
B 代表的な初期両生類の骨格
アカンソステガは1987年の夏、イギリスのケンブリッジ大学(クラック博士のチーム)によって東グリーンランドの3億6000万年前の地層から発見された。「とげの装甲」を意味するこの名前は、頭蓋骨の後ろ側に尖った角状の突起があることに由来する。
アカンソステガは、魚と陸上四肢動物のちょうど中間段階の特徴を持った生物である。骨格を調べると明らかな共通な部分もある一方で、四肢動物と同じ部分もある。魚でもなく完全な四肢動物でもない、そんな進化の中間段階の生き物であったのだ。
中間動物とは、ダーウィンがミッシング・リンクと呼んだ化石生物のことである。つまり、魚からいきなり四肢動物には進化できない。何万、いや何百万にわたる体の小さな変化の積み重ねがあってはじめて大きな進化を遂げる。その中間の進化段階を示す動物化石があってもいいはずである。これをダーウィンはミッシング・リンクと呼んだのである。
アカンソステガの体で最も魚らしい特徴を保っているのは尻尾だ。尻尾の周りを鰭膜が覆っている。この鰭膜は背中側だけでなく、尾の下の方までぐるりと回っており、魚そのものである。
背骨は「粗雑な構造」だった。ひとつひとつの骨の形に違いはほとんどなく、むき出しの脊索(せきさく)を大きな輪が囲んでいるようなもので、まるで魚のような原始的な特徴を持っていた。
通常四肢動物では、尻尾、腰骨の接合部分、背中、肩の接合部分、首との接合部分で骨の形はそれぞれ違っている。部位ごとに役割分担があるためだ。ところが、アカンソステガにはこの役割分担が見られない。このため、魚のように背骨全体でS字を描くような動きをする構造になっていたと考えられている。
肋骨は魚よりも進化していたが、まだ短く、重力から内臓を守るように覆われてはいなかった。このことから、胴体を常に水の力で支えていた動物だったと考えられている。
一方四肢動物の特徴としては頭が挙げられる。
頭と胴体がつながっている魚とは違い、アカンソステガには原始的な首があり、体から独立した頭蓋骨を持っている。このため、頭を多少動かすことができたと考えられている。さらに目は大きく、位置も頭の横ではなく、上についている。
このような中間動物のアストンステガについて、クラック博士は次のように説明する。
アカンソステガが明らかにしたのは、魚から陸上四肢動物への進化は、地上を目指して一歩一歩階段を積み上げるように体全体が均一に進化したのではなく、むしろモザイク状に進んだ、という事である。進化はバラバラに起きていたのである。しかも、一見陸上生活のために生まれたと考えられている器官もじつは水中で相当進化していたことが分かったのである。
※参考文献
NHK地球大進化プロジェクト・地球大進化・日本放送出版協会・2004