ひかりとしずく(虹の伝言)

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花に嵐と言うけれど  『ちゃぶ台だより』85 〔セピア色の切り抜き帖〕

2011-04-10 | ポルカさんのあいあいメールから
五木寛之さんの「みみずくの夜メール」4 朝日新聞より

その日は雨だった。博多港の埠頭に立つと水平線は灰色にかすんでいる。釜山(プサン)行きの高速艇がエンジン音をひびかせて通過していく。最近は目の整形手術をうけに釜山に出かけていく若い娘さんたちも少なくないそうだ。

ロシアの貨物船の横を通って、埠頭の端に立つ。およそ半世紀前、十四歳の少年だった私は妹をしょってこの場所に帰ってきたのだ。かつて日本帝国の植民地だった土地から敗戦後に帰国した民間人たちは“引揚者”と呼ばれた。私たち一家は、平壌(ピョンヤン)からの引揚者である。当時ソ連軍の管理下にあった地区を脱出し、開城(ケソン)の難民キャンプに収容されたのち、仁川(インチョン)から米軍の軍用船で博多にたどりついたグループだ。博多港外で検疫のため長い間待たされたあと、ようやく上陸が許された。まず真っ白な粉を頭から浴びせられる。それがDDTという強力な殺虫剤であることはあとで知った。その後四つんばいになって肛門に検査の棒をさしこまれる。男はそれですんだが、女性たちは婦人相談室という部屋で質問を受ける人とその必要のない人たちがいた。かたちの上では相談だが、実際は調査である。

不法妊娠対策 
その調査もしくは面接は、子供と一目で高齢者とわかる女性ははぶかれた。その理由を書く気にはなれない。要するに敗戦の混乱のなかで、レイプやそのほかの被害を受けた日本人女性が数多くいたということだ。当時の「釜山日本人世話会」が行った調査の資料(一九四六年三月)によると旧満州や朝鮮半島北部から南下して収容された女性の一部八百八十五人のうち、レイプを受けているものが七十人。その結果性病にかかっているものが十九人だったという。約一割に当たる。さらに外国人兵はそのほかによる暴行で、少なからず女性が妊娠していた。当時は、そういったケースを「不法妊娠」と呼んでいた。

桜並木の下で
面接調査の趣旨は、そのような被害者である女性たちのケアであった。しかし実際に公的機関が憂慮したのは、彼女らが悪質な性病を国内に持ち込むことを波打ち際で食い止め、また「不法妊娠」によるトラブルを事前に防ぐことだったと思われる。当時の役所関係の通達には、それが露骨に表れている。

これらの被害者たちは、連日のようにトラックで施設に運ばれた。博多港へ着いた女性たちのなかの被害者は「二日市保養所」へ回され、治療と手術をうけた。

その頃は人工中絶は「堕胎罪」の対象である。しかし政府の黒黙の了解の下に、数多くの中絶と手術が行われた。九州大学医学部関係の医師をはじめ、多くの人々がその仕事にたずさわっている。医師や看護士にとっても、それは勇気が必要だし、またつらい仕事でもあった。私がお会いした当時の日赤看護婦のMさんのお話によれば麻酔薬さえない手術を、だれもが歯を食いしばって耐え、泣き声をあげる人は無かったという。母と娘がほとんど同時にレイプを受けてふたりとも「不法妊娠」しているケースもあったそうだ。処置された胎児は保養所の一角にあった桜並木の下に埋められたという。私が訪ねたときはその桜並木はなくなっていた。私は桜を見ると今でも胸が痛む。

雨の博多港の立って、そんな五十年前のことを思い出した。

(ひとこと) この五木寛之さんの記事に私は衝撃を受け、忘れることが出来ませんでした。「戦争は犯罪だ。どんな理由があったとしても起こしてはならない。銃を持った男性たちも、銃後の女性たちも人間性を踏みにじってしまう。」誰をも納得させる内容です。

私たち一家も引場者です。父は大きなリュックをしょい、両手にカバン、兄たちは小さなリュック、母は三つの私を背中にオンブして帰国したとの事。旧満州の奥地から引場者の難避行など、いつか書きたいと思います。

ポルカ

この新聞記事を紹介されて、私は戦争の影響で心が何て蝕まれるのだろうかと、当時の人々が体験したことを思うとつらくなります。

今でもアフリカで内戦中の国で同じようなことが起こっていることを、書店で読んだ本で知りました。敵側の兵士によって暴行を受けて妊娠し、出産したシングルマザーの若い女性たちがいるとか。日本でもそういうことがあったのですね。戦争は悪魔の仕業としか思えません。
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