あ可よろし

「あきらかによきこと」は自分で見つける・おもしろがる
好奇心全開日記(不定期)

残る想い

2015-11-15 | 本(文庫本)
宮部みゆきさんの『小暮写眞館』を読みました。遅ればせながら……。
上下巻なのにどちらもたっぷりめの大長編で、だけど決して途中で読み飽きたりしない、読み応え十分の作品でした。流石でございます。

16歳の花菱英一の両親が、結婚20周年を機にマイホームを購入した。しかしその家は、寂れた商店街の中にある元写眞館。あえて「小暮写眞館」の看板をそのまま残して住むと決めた、ちょっと風変わりな両親のおかげで、ある日、英一に1枚の心霊写真が持ち込まれる。若干不本意ながらもその写真の謎説きに乗り出す英一。優しくて頼りがいのある同級生たちの協力もあって、心霊写真の謎は徐々に解明していく。

「心霊写真」となると、おどろおどろしい展開になるのかと思いきや、実際は実にハートフルで、あったかくて、カバー写真の「桜」「菜の花」「青空」「のんびり走る電車」の雰囲気をそのまま文字にしたような作品でした(まさに私の好きな季節の風景ですね)。そしてこの風景は、最後まで読めば「何故この写真がカバーデザインとして選ばれたのか」が分かるものとなっていました。
そしていつものことながら、宮部さんの少年の描き方の巧みさといったら、毎度毎度脱帽なので、もう脱ぐ帽子もないのですけど、本当に見事だと思います。
このくらいの年齢って、子どもの部分がありながら大人の気持ちも同じくらいに混じっていて、だからこそもがいたり自分でも意味が分からなくなったりするのだと思うのです。そのデリケートな感じを、本当に見事に書き分けられる作家さんだな~、と。
多少のネタばれですが、後半で恋をする英一の気持ちとか、どうやら好きになれそうにない父親の兄弟たちに向かって飛ばす啖呵。これらは子どもではできないし、大人ならしないこと。この危うさにおばちゃんはハラハラするけど、凄くうらやましいとも思いました。
英一と年の離れた弟「ピカ」の間に、実は4歳でインフルエンザ脳症で亡くなった妹・風子がいるのですが、この子がこの物語の骨子であろうことも記しておきます。風子の死を引きずる英一の家族だけど、そこからの再生もきちんと果たしていきます。
風子ちゃんの存在と、小暮さんの幽霊が出るという「小暮写眞館」。少年の時期を過ぎようとしている英一……。全部が素敵でした。こんなに素敵が詰まった大長編。ごちそうさまでした。
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