goo blog サービス終了のお知らせ 

星空Cafe

//satoshi.y

あの日の老紳士

2021年02月10日 | 焼き芋みたいなショートエッセイ


      焼き芋みたいな
      エッセイ・シリーズ  (30)

      『あの日の老紳士』


森の風景を眺めようと部屋の窓際に立った時、
目の前の「丘の階段」のちょうど真ん中辺りを、

一人の御老人が杖をつきながら降りて来るところだった。


僕はその御老人のおぼつかない足元が少し気にもなり、

しばらく窓際から見守っていた。

すると、ふいに、御老人が顔を上げ僕の方を見た。
僕と老人の目が合った。

距離にすると小道を挟んですぐの所だから、
お互いしっかりと顔を見合わせる格好になった。


二人の空間越しに生れた暫しの沈黙のあと、
御老人は「大丈夫だ」とでも言わんばかりに、

僕に向かって杖を持つ右手を軽く上げた。
そしてまたゆっくりと、

一段一段、足元を確かめるように降りて行った。

気をつけて下さい・・そう僕は呟き、    
丘の階段を無事に降り切り、バス停の方へ歩いて行く
御老人の後ろ姿をしばらく目で追った。

どこか懐かしい色合いの、英国風のコートを着た
風格ある老紳士だった。 


話は変わるが、
じつは今でも印象深く思い出す老紳士がいる。

18歳の冬、大学進学で北海道から上京する為に乗った始発電車。
僕の席のはす向かいのボックス席に、一人の老紳士が座っていたのだが、
僕はその老紳士のことが妙に気になった。

何か見覚えがあるような、じつはよく知った方のような、

もしかしたら会った事のない遠い親戚であるかのような、
もっと言えば、なにか別の次元に存在し佇んでいるかのような、
不思議なものを強く感じた。

その老紳士は、物思いに耽るように車窓に顔を向け、
凛とした佇まいで座っているだけなのだが、
ずっと僕を見て、何かを語りかけているようで、
この旅立ちは間違いだぞとでも言われているようで、
少し不安な気持ちにさえなった。
                   
けどあれは、いよいよ故郷を離れ一人立ちする時だったし、
色々と不安だったり、緊張していたせいもあるのだろうと、
そう思う事にしているが、それでもやはり、あの老紳士が頭から離れない。
僕と同じ、終点の札幌で降りて行った気がするのだが・・。
       
   

 
       
           

  

         星空Cafe、それじゃまた。
           皆さん、お元気で!


                  

                     
                                                                                                                                                                                            




















最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。