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ガリレオの焼き芋

2021年02月11日 | 焼き芋みたいなショートエッセイ




      焼き芋みたいな
      エッセイ・シリーズ  (31)

      『ガリレオの焼き芋』



          バイク旅の夜。
        焚き火にあたりながら沸かしたてのコーヒーを飲んでいる。
        森の木々の隙間には、いつものようにぽつんと浮かぶ月。
      
        僕は弱くなってきた焚き火の火をトングでかき混ぜたあと、
        残り一本となった薪をくべて、またコーヒーをすすった。


        焚き火の向こうには、
        とうの昔に死んだはずの爺ちゃんが座っている。

        いつもの紺色のジャンバー姿だ。


                    

       「焼き芋食うか?」
        
爺ちゃんが生前とまったく変わらない口調で言った。


       「うまいぞ。食うか?」                   
       「うん。食うよ」

                      
        そう答えた僕に、爺ちゃんは焚き火の灰の中に腕を伸ばし、
        こんがりと程好く焼けた芋を取り上げて僕に渡してくれた。


       「美味いだろ」
       「ああ、美味いよ」

       「なぁお前、知ってっかあ?いつの時代も世界は複雑怪奇だべさ。

        んだけどな、些細なことなんかナーンも気にしなければな、
        物事は単純になるんさ。覚えてるべ?」

       「ああ、爺ちゃんの好きなガリレオの言葉だったよな」

       「んだ。400年以上も前にさ、ガリレオという偉い先生がな、

        ちっこい事を気にしなければな、
        全ての物体は同じ速さで落下すると言ったんだあ。
        よーするにな、でっけえバスケットボールも、
        ちっこい野球ボールも、同じ高さのとっからセーので落とせばな、
        ふたつ同時に地面に着地すんだ。びっくらこくだろ、
        なあお前。不思議だろ、なあ 」    

        
「昔、よく話して聞かせてくれたよな 」    

         そう答えた時、(答えた瞬間に何となくは気付いたが)
         爺ちゃんはもうそこにはいなかった。

        「あれ?もぅ行っちゃったよ」
         ホクホクの焼き芋をほうばりながら、僕は周りを見渡した。



                      


          
夜更けの森の木々を、風がザワザワと揺らし始めている。
          急に冷え込んで来たようだ。
          さっきくべた最後の薪も、いつのまにかほとんどが燃えてしまって、
          時おり残り火がパチパチと小さな音を立てている。


          僕はバッグの中から薄手のジャンバーを取り出して素早くそれを着込み、
          マグカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干した。


         「爺ちゃん、世界は単純だとしてもさ、

          なんか俺、ちょっと疲れたよ。
          今夜はもぅ寝るわ。おやすみな  」 






               星空Cafe、それじゃまた。
                  皆さん、お元気で!



                    













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2 コメント

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おはようございます (けんすけ)
2021-02-11 10:00:17
いつも素敵なエッセイに心躍ります
有難うございます
楽しみしてるんですよ
文中の(なぁお前、知ってっかあ?いつの時代も世界は複雑怪奇だべさ。んだけどな、
       些細なことなんかナーンも気にしなければ、物事は単純になるんさ。覚えてるべ?)
私もその通りと解釈してます
余計な知識や説に囚われて複雑にしてしまう
やはりいつも本質を捉えて単純に考えるようにしてますよ。
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けんすけ様へ (S.Y)
2021-02-11 11:50:09
けんすけ様、いつも恐縮です。

爺ちゃんには、あーだこーだあんまり考え過ぎるなよと言われてました。
寒くなったら服を着る、腹が減ったら飯を食う、
眠くなったら寝る、どんな時代になろうと生き物は皆基本的にそんなもんだあと。

最近は色々と情報が多すぎて、気を付けないとこんがらがりますね。
知らなきゃ良かったと思う事も多くてちょっと疲れます。なるべくピュアな気持ちを忘れたくはないです。

いつもコメント、ありがとうございます。励みになります。(^^)v
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