やっつけ仕事

EverQuest2に登場する"本"を勝手に集めた場所。一部日記有り。08/06/20更新終了。管理は続行

ブラックバロウの大洪水

2006年01月11日 | EQ2 本
★ブラックバロウの大洪水
『大洪水』無名の旅人による記録。ページの並び順はその手記に基づいていると思われる。
エバーフロストからノールの棲家ブラックバロウを抜ける地下道は、暗く曲がりくねっていて今までに何度も迷ったことがある。ノールにこちらの所在を知らせてしまうから、いっさい明かりを灯さないようにしているのだ。とはいえ仕事は仕事なので、2週間ごとにこの暗い通路を行き来している。
私の故郷は北の国ハラスだ。ケイノス・ヒルズに行くのは仕事上の必要であり、その理由だけでノールの巣食う洞窟の悪臭に耐えなくてはならない。飼いオオカミのSilkieを先に行かせて、暗闇の中、獲物を追わせてやることもある。足の速さでSilkieにかなうノールはいないから、あいつはこの運動を楽しんでいる。そして私はといえば、吠え声のする方へとついていけばいいわけだ。暗闇の中で見る術を習得してはいるが、それを使う必要はない。
今回の旅立ちは、日中は雪が溶けて夜には凍りつくという天候だった。露出した岩盤から短剣のように尖ったつららが下がり、ときにはそれが落下して大きな音を立てた。Silkieは尾を脚の間に挟み、耳を立てたり寝かしたり、荒い息をして落ち着かなかった。その不安が私にも伝染してきた。
トンネルの入口に来てみると、ノールのガードは持ち場にいなかった。焚き火の燃えがらだけが残っていた。以前なら積もっていたであろう雪も見えず、地面は雪解け水でぬかるんでいた。Silkieはトンネルに入るのをいやがり、しまいには叱りつけなくてはならなかった。中に入ると、Silkieは前も後ろも同時に見ようとして、まるでカニの横ばいのような歩き方をした。
いつもどおりに下り道を進んでいったが、出会うものは何ひとつなかった。トンネルの中は静まりかえり、聞こえるものは闇の中にポタポタと落ちるしずくの音だけだった。やがて狭い道から少し広い空間に出たとき、Silkieがキャンキャンと吠え始めた。耳障りな鳴き声が空洞にこだまする。「静かにしろ!」と私は命令した。Silkieが押し黙ると、今度は物音ひとつ聞こえなくなった。
突然、山を根底から揺さぶるような亀裂音が響き渡り、私とSilkieは地面に叩きつけられた。Silkieはあわてふためいて立ち上がり、悲鳴をあげながら闇の奥へと走り去った。私は岩の床にしがみついた。あたかも自分が大地を押さえ込めば、この激動をしずめられるとでもいうように。ようやく揺れがおさまり、私はしんと静まりかえった闇に向かって「Silkie!」と叫んだ。だが返事はなかった。
いや、呼びかけに応じて戻ってはこなかった、と言い直そう。Silkieの恐怖に駆られたかん高い鳴き声が、まだこだまとなって聞こえていたのだから。しかしそれも消え、私は別の音を聞いた。この地下トンネルではかつて聞いたことのない轟きを。それは氷結した山の斜面を滑り落ちる雪崩の音にそっくりな、低くくぐもった轟音だった。
あわてて立ち上がったが、空洞に何重にもこだます轟音のせいで私は方向感覚を失ってしまっていた。私は呪文を唱え始めたが、歯の根が合わない。そこへ強い風が吹きつけてきた。ブラックバロウの奥深くから、何世代にもわたってノールたちが溜めこんだ悪臭を一気に運んできたような風だった。私は集中を妨げられ、呪文は四散した。
次の瞬間、私は激流に飲み込まれていた。押し倒され、波打ち際の小石のように水にもまれ、どちらが上でどちらが死に至る深淵なのかすらわからなくなった。出口を求めてさかまく奔流にもてあそばれる永遠とも思える時間が過ぎたのち、私は天井の近くにあってそれまでは存在に気づかなかった岩棚に打ち上げられた。
私は岩棚の上で何日も横たわっていたが、それでも水は引かなかった。ようやく灯りの呪文を唱えることができるようになって私が見たものは、眼下に広がる大洞窟の惨状だった。栄光ある戦死ではなく、ノールのようにここで死ぬのか。私は自分の確実な死を思い、苦い怒りを覚えた。歌に歌われることなく死ぬのは耐え難い。この手記を読む人よ、どうか知ってほしい、世界が揺さぶられたそのときに私は生きのびたのだ。しばしなりとも。

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OB中に初めて攻略した本
この本がきっかけで本クエにハマる


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