ランチ・セミナー

2006-03-15 12:19:14 | 研究

日本経済新聞のコラム「私の履歴書」の今月の執筆者は生化学者の早石修さんです.今日の話題はアメリカ留学中に所属していた国立衛生研究所(NIH)でのゼミの様子です.

毎日正午になると,研究室の面々が緊張した表情でセミナー室に集まってくる.発表者が口火を切る.「この論文は着想こそ優れているが,実験方法がてんでなっていない.私なら別の実験で裏付ける.」研究部長のアーサー・コーンバーグがやり返す.「いや,仮説自体に飛躍があるんじゃないか.」


1950年末,首都ワシントン郊外のベセスダの米国立衛生研究所(NIH)に移った.憧れて指示したコーンバーグは NIH 傘下の国立関節炎・代謝疾患研究所に属し,酵素部門を率いていた.そこでの恒例行事が「ランチ・セミナー」.土日を除く毎日,サンドイッチなど軽い昼食をつまみながら約一時間開く勉強会である.


みなぎる緊迫感に圧倒された.当番研究者が最新の論文を一つ俎上(そじょう)に載せ,着想や方針の立て方,実験の細部,結論を導くに至った過程などを徹底的に分析する.参加者は鋭い批評眼で討論に加わり,喧々囂々(けんけんごうごう)の議論が続く.その真剣さは研究所全体に知れ渡っていた.(略)


いわゆる「ジャーナル・クラブ(雑誌輪読会)」ならどこの大学や研究所にもある.だが,他人の論文をそのまま吸収しても,知識が豊富になるのが関の山だ.一人で図書館か自宅で勉強すればいい.


ランチ・セミナーは実践的な訓練の場だった.切磋琢磨しながら「真の独創性とは何か」を学んでいく.


私が学生のときに所属していた研究室のゼミはこれに近い感じでした.学生同士が議論し,これがお互いの問題解決力を切磋琢磨することになっていたと思います.いまの研究室でもこういうゼミをやりたいと考えています.


私が所属している学科には4年生の演習 II や大学院の輪講という授業があります.これらは,いわゆる「ジャーナル・クラブ(雑誌輪読会)」とは似て非なるものです.これらの授業では,「英語の論文を良く読んで理解すること」「論文を適切に要約すること」「研究発表のスタイルを身につけること」などが目的となってしまっていて,「真の独創性とは何か」を学ぶことはできません.


その論文の問題設定は適切か」「その問題に対して提案されている手法は適切か」「その手法の有効性を示すための実験は適切か」「その実験結果から導かれた考察や結論は適切か」「自分はどう考えるか,自分ならどうするか」などについて,学生同士で議論できるようになればいいですね.