第2 申入れの理由
1 行政書士法で認められている「代理権」の範囲について
行政書士法においては、
①「官公署に提出する書類を官公署に提出する手続について代
理すること」(同法第1条の3第1号)、
②「契約その他に関する書類を代理人として作成すること」(同
第2号)が、規定されています。
今次の改正で、②は新たに規定されたものですが、これは、「従
来からの行政書士の業務を明確化するために、行政書士が作成す
ることが出来る書類に係わる官公署への提出手続の代理、代理人
として契約その他の書類の作成業務が出来ることを確認しただ
け」であり(平成13年6月7日衆議院会議録)弁護士法第72条
の関係で、行政書士の業務範囲を拡大するというものではありま
せん。従って行政書士は代理人として相手方に請求したり、交渉
することはできません。(弁護士法第72条、司法書士法第73条
第1項、第3条第1項第7号、等)
ここに行政書士法において使用されている「代理」の概念は、
弁護士が依頼者を代理し相手方と交渉する際に有する代理権とは
全く異なり、一種の「書面の作成の代行」と考えられます。
行政書士は、「官公署に提出する書類を官公署に提出する手続
について代理すること」が、認められています。この「官公署」
には、司法機関である裁判所・検察庁は含まれておりません。裁
判所に関する手続の代理は、本来弁護士のみに認められた権限で
あり、今次、例外的に認定司法書士にも認められるなどしたもの
です。(弁護士法第72条、司法書士法第73条第1項、第3条第1
項第4号、等)
2 「法律家」「Lawyer」と称される法曹の有する代理権
「法律家」「Lawyer」に該当するのは我が国では一般的に弁護
士、裁判官、検察官、すなわち法曹であります。現在では、ほか
に外国法事務弁護士、そして法改正後の認定司法書士も、簡裁に
おける訴訟代理権を有しており、「法律家」であると考えられま
す。民間の法律家である、弁護士、司法書士の有する代理権は、
当事者の依頼を受け、相手方と交渉し、契約を締結し、和解し、
その効果が全面的に本人に帰属するものであります。これら「法
律事務」についての代理権は、弁護士法第72条により原則として
弁護士にのみ認められるとともに、司法書士法等その他の法律に
よって司法書士等に認められているところであります。この代理
権は先述の「書面の作成の代行」と本質的に異なるものであるこ
とは、前者についてのみ、厳しい「双方代理の禁止」等の倫理規
定が不可避的に一体となっており、後者には全く規定がないこと
などからも明らかであります。
3 別紙パンフレットについて
(1)別紙パンフレットには、日本行政書士会連合会の英文表記と
して、Japan Federation of Gyoseishoshi Lawyer’s Associatio
nsと記載されています。また行政書士を表す「頼れる街の法律家」
との記載があります。
(2)例2の「債権債務に関する手続」について
別紙パンフレットには、「行政書士は債権債務問題の解決に向け、
債権者または債務者の代理人として、必要な書類の作成を行いま
す。そして、債権者と債務者との間で協議が整った場合には「和解
書」等も作成します」(例2)との記載があります。ここには「代理
人として必要な書類の作成」とのみ表現しており、「裁判所に提
出する書類の作成権限」や、「相手方との交渉権限」についての
記載はありません。従って直接弁護士法に抵触する表現は避けて
いることは窺えます。しかし、冒頭に「Lawyer」や「法律家」と
の記載があることから、パンフレットをみた市民が「法律家」「L
awyer」が一般的に有する「代理権」を行政書士も有すると誤解す
る可能性が極めて高いと判断されます。
また債権債務問題の主要部分を占める消費者の債務整理の事案
では、作成すべき書類のうち裁判所に提出する特定調停、債務弁
済調停及び自己破産の書類等が重要な割合を占めていると考えら
れます。
しかし、行政書士には、債務者の代理人として債権者と交渉す
る代埋権もなければ、裁判所等に提出する書類を作成する権限も
認められておりません。「必要な書類の作成」と表現しながら、
裁判所提出書類が作成できないのでは、このパンフレットを読ん
だ市民に大きな誤解を与えるものとなります。
さらに「債権者と債務者との間で協議が整った場合には「和解
書」等も作成します。」との記載ですが、これをみた市民が交渉
について代理権があると誤解する可能性が高いと判断されます。
(3)例3の「交通事故の解決」について
パンフレット例3記載の表現を厳格に解釈してその範囲を遵守
し、市民から依頼を受けて、その陳述するところを整序して正確
に表現する限度で、自賠責保険金請求書を作成したり、被害者と
加害者との間で示談の合意が成立したことを前提に上記限度で示
談書を作成することは弁護士法第72条に違反するものではあり
ません。しかし、そのパンフレットの記載をみた市民は、上記の
業務範囲を超え、損害賠償額の算定や過失割合の判断など法的判
断に立ち入ったり、被害者の代理人として加害者及び保険会社と
交渉する権限があると誤解する可能性が極めて高いと考えられま
す。特に「法律家」との記載が冒頭にあることから、その危険は
一層増幅される可能性が高いと考えられます。「法律家」であり
ながら「交渉権限」がないことなど考えにくいと思われます。従
ってこの表現も市民に誤解を与えるものとして不適であります。
4 貴連合会のこのパンフレットは一般市民に行政書士が代理人と
して相手方と交渉するなどの紛争処理業務や、それを前提とした
相談業務について権限があると誤解を与えております。このパン
フレットとの因果関係はさておき、各弁護士会から行政書士が弁
護士法第72条に違反しているのではないかとの報告が当連合会
に寄せられています。ついては、貴会会員が適正な職務権限の範
囲を遵守し弁護士法第72条に違反しないよう会員に対する適切
な指導を要望致します。
5 行政書士の英文表示について
以上から行政書士の本来の職務には裁判所等司法機関とは関係
のない職務であることは明らかです。かつ紛争解決の代理権はあ
りません。そしてLawyerは英語圏においては弁護士、又は法曹の
意味に用いられており、紛争解決の代理権のない行政書士が使用
することは大きな誤解を招くものです。行政書士の通常の英訳と
して用いられているものはadministrative scrivenerであり、現
在の英語表記は改められるべきものと考えます。
6 「法律家」の表示について
また別紙パンフレットの表紙には行政書士を「頼れる街の法律
家」と表示してあります。しかし、行政書士は、法律事務を取り扱
うことができません。極めて限定的な「書面の作成の代理」に制
限されています。従ってその権限の内容からして「法律家」の表
現は極めて不適切です。従って今後、行政書士を表示するものと
して「法律家」の用語を使用しないよう改めるべきと考え、その
改善を強く要望します。
7 以上の通り、貴連合会発行の別紙パンフレットには利用者に対
して行政書士の権限について誤解を生じさせる内容を多く含むと
考えられます。よって、「Lawyer」「法律家」の表現の使用をや
めるとともに、パンフレットから、その業務範囲について誤解を
招く表現を改めるよう求めるとともに、貴連合会会員に対し業務
範囲を遵守するよう適切な指導をされるよう、申入れの趣旨記載
の申入れをする次第です。
1 行政書士法で認められている「代理権」の範囲について
行政書士法においては、
①「官公署に提出する書類を官公署に提出する手続について代
理すること」(同法第1条の3第1号)、
②「契約その他に関する書類を代理人として作成すること」(同
第2号)が、規定されています。
今次の改正で、②は新たに規定されたものですが、これは、「従
来からの行政書士の業務を明確化するために、行政書士が作成す
ることが出来る書類に係わる官公署への提出手続の代理、代理人
として契約その他の書類の作成業務が出来ることを確認しただ
け」であり(平成13年6月7日衆議院会議録)弁護士法第72条
の関係で、行政書士の業務範囲を拡大するというものではありま
せん。従って行政書士は代理人として相手方に請求したり、交渉
することはできません。(弁護士法第72条、司法書士法第73条
第1項、第3条第1項第7号、等)
ここに行政書士法において使用されている「代理」の概念は、
弁護士が依頼者を代理し相手方と交渉する際に有する代理権とは
全く異なり、一種の「書面の作成の代行」と考えられます。
行政書士は、「官公署に提出する書類を官公署に提出する手続
について代理すること」が、認められています。この「官公署」
には、司法機関である裁判所・検察庁は含まれておりません。裁
判所に関する手続の代理は、本来弁護士のみに認められた権限で
あり、今次、例外的に認定司法書士にも認められるなどしたもの
です。(弁護士法第72条、司法書士法第73条第1項、第3条第1
項第4号、等)
2 「法律家」「Lawyer」と称される法曹の有する代理権
「法律家」「Lawyer」に該当するのは我が国では一般的に弁護
士、裁判官、検察官、すなわち法曹であります。現在では、ほか
に外国法事務弁護士、そして法改正後の認定司法書士も、簡裁に
おける訴訟代理権を有しており、「法律家」であると考えられま
す。民間の法律家である、弁護士、司法書士の有する代理権は、
当事者の依頼を受け、相手方と交渉し、契約を締結し、和解し、
その効果が全面的に本人に帰属するものであります。これら「法
律事務」についての代理権は、弁護士法第72条により原則として
弁護士にのみ認められるとともに、司法書士法等その他の法律に
よって司法書士等に認められているところであります。この代理
権は先述の「書面の作成の代行」と本質的に異なるものであるこ
とは、前者についてのみ、厳しい「双方代理の禁止」等の倫理規
定が不可避的に一体となっており、後者には全く規定がないこと
などからも明らかであります。
3 別紙パンフレットについて
(1)別紙パンフレットには、日本行政書士会連合会の英文表記と
して、Japan Federation of Gyoseishoshi Lawyer’s Associatio
nsと記載されています。また行政書士を表す「頼れる街の法律家」
との記載があります。
(2)例2の「債権債務に関する手続」について
別紙パンフレットには、「行政書士は債権債務問題の解決に向け、
債権者または債務者の代理人として、必要な書類の作成を行いま
す。そして、債権者と債務者との間で協議が整った場合には「和解
書」等も作成します」(例2)との記載があります。ここには「代理
人として必要な書類の作成」とのみ表現しており、「裁判所に提
出する書類の作成権限」や、「相手方との交渉権限」についての
記載はありません。従って直接弁護士法に抵触する表現は避けて
いることは窺えます。しかし、冒頭に「Lawyer」や「法律家」と
の記載があることから、パンフレットをみた市民が「法律家」「L
awyer」が一般的に有する「代理権」を行政書士も有すると誤解す
る可能性が極めて高いと判断されます。
また債権債務問題の主要部分を占める消費者の債務整理の事案
では、作成すべき書類のうち裁判所に提出する特定調停、債務弁
済調停及び自己破産の書類等が重要な割合を占めていると考えら
れます。
しかし、行政書士には、債務者の代理人として債権者と交渉す
る代埋権もなければ、裁判所等に提出する書類を作成する権限も
認められておりません。「必要な書類の作成」と表現しながら、
裁判所提出書類が作成できないのでは、このパンフレットを読ん
だ市民に大きな誤解を与えるものとなります。
さらに「債権者と債務者との間で協議が整った場合には「和解
書」等も作成します。」との記載ですが、これをみた市民が交渉
について代理権があると誤解する可能性が高いと判断されます。
(3)例3の「交通事故の解決」について
パンフレット例3記載の表現を厳格に解釈してその範囲を遵守
し、市民から依頼を受けて、その陳述するところを整序して正確
に表現する限度で、自賠責保険金請求書を作成したり、被害者と
加害者との間で示談の合意が成立したことを前提に上記限度で示
談書を作成することは弁護士法第72条に違反するものではあり
ません。しかし、そのパンフレットの記載をみた市民は、上記の
業務範囲を超え、損害賠償額の算定や過失割合の判断など法的判
断に立ち入ったり、被害者の代理人として加害者及び保険会社と
交渉する権限があると誤解する可能性が極めて高いと考えられま
す。特に「法律家」との記載が冒頭にあることから、その危険は
一層増幅される可能性が高いと考えられます。「法律家」であり
ながら「交渉権限」がないことなど考えにくいと思われます。従
ってこの表現も市民に誤解を与えるものとして不適であります。
4 貴連合会のこのパンフレットは一般市民に行政書士が代理人と
して相手方と交渉するなどの紛争処理業務や、それを前提とした
相談業務について権限があると誤解を与えております。このパン
フレットとの因果関係はさておき、各弁護士会から行政書士が弁
護士法第72条に違反しているのではないかとの報告が当連合会
に寄せられています。ついては、貴会会員が適正な職務権限の範
囲を遵守し弁護士法第72条に違反しないよう会員に対する適切
な指導を要望致します。
5 行政書士の英文表示について
以上から行政書士の本来の職務には裁判所等司法機関とは関係
のない職務であることは明らかです。かつ紛争解決の代理権はあ
りません。そしてLawyerは英語圏においては弁護士、又は法曹の
意味に用いられており、紛争解決の代理権のない行政書士が使用
することは大きな誤解を招くものです。行政書士の通常の英訳と
して用いられているものはadministrative scrivenerであり、現
在の英語表記は改められるべきものと考えます。
6 「法律家」の表示について
また別紙パンフレットの表紙には行政書士を「頼れる街の法律
家」と表示してあります。しかし、行政書士は、法律事務を取り扱
うことができません。極めて限定的な「書面の作成の代理」に制
限されています。従ってその権限の内容からして「法律家」の表
現は極めて不適切です。従って今後、行政書士を表示するものと
して「法律家」の用語を使用しないよう改めるべきと考え、その
改善を強く要望します。
7 以上の通り、貴連合会発行の別紙パンフレットには利用者に対
して行政書士の権限について誤解を生じさせる内容を多く含むと
考えられます。よって、「Lawyer」「法律家」の表現の使用をや
めるとともに、パンフレットから、その業務範囲について誤解を
招く表現を改めるよう求めるとともに、貴連合会会員に対し業務
範囲を遵守するよう適切な指導をされるよう、申入れの趣旨記載
の申入れをする次第です。