僕は戦後生まれですけれども、僕の親の世代が、価値観の転換を無理やりさせられたわけです。戦前の教育では皇国史観の体系をずっと教わってきて、それによって戦争で高揚して、そのうち、裏切られて失望して、何も信じなくなっちゃったんですね。で、その裏返しとして、やはり民主主義の自由さに没頭していったんだと思うんです。それと戦後の復興の精神的な高揚感が合わさって、僕はアメリカのエネルギーを取り入れていたと思うんです。僕らはその世代の子供たちの第一世代かもしれないですね。そのひずみがいま社会問題として出ていると思うんです。例えば僕の世代の家庭崩壊が多かったりとか、神経症が多かったりとか、あるいは遮二無二働く世代だったりとか、さらにその子供たちに問題児が多かったりとか、結局、戦争で分断されて、何かこう、すがりつくものを持てない日本人の悩みが出ていると思うんです。ですから、今何が起こっているかというと、教育によらない自己教育というかな、他者からの教育ではない、自分で何か探し出してきて、自分で価値観を定めて生きていかざるを得なくなっている。僕の世代ではなくて、僕から下の世代がそういうことを自ら獲得しようとしだしていると思うんです。
例えばインディアンの人たちと日本の古神道の人たちとの価値観を同等に捉える人が出てきたりしてる。それと円盤が出てきたりとか(笑)。世界的に今までの体型とは違う、まあ、この二十世紀では、インチキだとか、うさん臭いとかいわれていたような排除されていた思想が、彼らにとっては新しい立場として新鮮に映っている。一見それはナショナリズムっぽいところがあったり、シャーマニズムっぽいものだったりするけど、自分達でそれを獲得しなくちゃならないものなんですよね、いまは。親から受け継ぐものじゃなくて、自分の中に眠っている集合的無意識から掘り起こしていく。それは洗練されている意識だと思うんです。イデオロギーでも何でもない。何というか、純粋な魂のようなものだと思うんです。そこから新しく価値観が出てきている以上、例えば戦前の精神に戻れといったって、戻りようがないわけですね。戦前の教育のシステムにはべつに関係ないわけです。彼にとっては、そういうのは陳腐な世界ですから、音楽の世界でも、計画的打算的にではなくて、ごく自然にそういうものを求めだしていて、先祖返り的なアプローチをする世代が出てきた。僕はそういうことをやっている第一世代かもしれないです。第一世代が土を耕して、第二世代が種をまいて、第三世代が食べるという(笑)。
細野晴臣 北中正和「細野晴臣インタビュー THE ENDLESS TALKING」平凡社ライブラリー
初出は筑摩書房版(1992)
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