
『深夜プラス1』
ギャビン・ライアル(英:1932-2003)
菊池 光訳
"Midnight Plus One" by Gavin Tudor Lyall (1965)
1967年・世界ミステリシリーズ
1976年・ハヤカワミステリ文庫
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1960年代。
かつて、第二次世界大戦中にフランスで活躍したレジスタンスの英国人闘士ルイス・ケインは、今ではフリーのエージェントとして金持ち相手に揉め事を解決して生計を立てている。
旧友の依頼により、ケインは、マガンハルトというHな大富豪をリヒテンシュタインまで送り届ける仕事を請ける。
護衛のパートナーはヨーロッパでナンバー3の腕前と言われる元SPのアメリカ人ガンマン、ハーヴェイ。
果たして、その行く手に立ちはだかるものは。
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嗚呼、面白いなー。
読後感としては、切れ味の鋭い映画の小品のようだ。
あくまで小品であって、大作でないとこがミソ。
生前に映画化権を買い取っていたスティーブ・マックイーンが50歳で亡くならなければ、この本を題材にしてピリッとした映画を撮ってたはずなんだけどね。
おそらく名画になっていたと思う。
それにしても。
前半を読んだだけで、黒幕が誰かはだいたい見当がついてしまう。
秘密のヴェールに包まれているはずの敵方のガンマンが誰と誰なのかも、まあ、ハーヴェイがヨーロッパ3位である時点で想像がついちゃう。
それでも、本書は楽しい。
それはプライドを賭けた生き様の話だから。
男でも女でも、現代でも近代でも、プライドを保って生きるのって、流されながら生きるよりも何倍も苦労が多い。
主人公のケインやガンマンのハーヴェイは、あまりに不器用だ。
器用に生きられるなら、最初からエージェントやガンマンなんかにならない。
怖いし、危ないし、シンドイだけだ。
彼ら自身も、内心
「キツイなぁ」
と思いながら、それでも自分の中にある譲れないものを断固守りぬきながら、悪路を切り開いていく。
なんで、好きな女とおいしいディナーを食べて、ワインで酔っ払って、ベッドでイチャイチャしてたいのに、こんなとこで泥にまみれて、銃口に怯えながらよく知らないオッサンを護衛しているのか。
「でも、ここで逃げたら一生逃げ続けることになる」
その一念でまた暗闇へ向かっていく。
合コンにも行けずに、終電が去っても仕事ばっかしてた若い頃を思い出すなぁって、そんな話かい。
イチャイチャか、ぐちゃぐちゃか。
それって普遍、かつ不変のテーマだよね。
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深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18‐1)) |
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早川書房 |